Yahoo!ニュース

高校野球好きのための都市対抗の楽しみ方 2015年夏、東海大相模のV戦士・豊田寛が貴重な2ラン!

楊順行スポーツライター
(写真:rei125/イメージマート)

 第92回都市対抗野球大会の開幕前に、こんな原稿を書いた。 

https://www.hb-nippon.com/column/541-gene/15467-20211127no1097

 河野佳のいる優勝候補の一角・大阪ガスは明日12月2日、伏木海陸運送と対戦する。このコラムでちょっとふれている2018年夏の金足農(秋田)といえば、近江(滋賀)との準々決勝が記憶に鮮明だ。そう、1対2と劣勢の9回、金足農がサヨナラ2ランスクイズで勝った試合である。

 そのとき、敗れた近江の2年生エースが林優樹で、やはり2年生の住谷湧也は4試合通算13打数10安打の打率.769と、個人一大会最高打率(ベスト8以上)の記録を更新した。翌年夏の甲子園にも出場した2人は2020年、西濃運輸に入社。14年の都市対抗で優勝している強豪である。そして2年目の今季、チーム3年ぶりの東京ドーム出場に大きく貢献した。

 10月3日、都市対抗東海2次予選の第4代表決定戦は、日本野球史上最長の試合となった。西濃運輸とジェイプロジェクトの一戦は、ジェイプロジェクトが9回表に2点差を追いつき、延長にもつれる。ジェイは15回表に1点を勝ち越すが、過去2年本大会出場を逃している西濃が執念を見せてその裏同点に追いつくと、4対4のまま試合は延長18回に。チームの1年の成果がかかる重要な試合だから、野暮なタイブレークはない。

 そして18回裏の西濃、2死二塁で左打席に入った住谷が直球を逆らわずにはじき返すと、打球は三遊間を破る。劇的なサヨナラ打だ。プロ野球の最長試合・6時間26分を大きく更新する、6時間55分のまさに死闘だった。

 力強いスイングとバットコントロールで、1年目から三番に定着した住谷。今季は控えに甘んじたりとやや壁に当たりもしたが、大事な一戦で大仕事を果たしたわけだ。住谷はいう。

「次の打者につなげるだけ、というつもりで打席に入りました。長い試合でも、最後までチームの集中力は途切れなかった」

奥川はすごいけど、自分だって……

 この試合、17回から救援して2回を1安打2三振でしのぎ、勝ち投手となったのが林だ。高校3年時には奥川恭伸(ヤクルト)、佐々木朗希(ロッテ)らとともに高校日本代表に名を連ねたが、志望届提出も高3でのドラフト指名はなし。社会人入りした1年目には、

「奥川たちがすごいのはわかりきっていますが、自分でも負けない部分がある」

 と負けん気をのぞかせたものだ。ただ、1年目には公式戦の登板がなく、ヒジ痛もあってもっぱら地道なトレーニングばかりで、

「オープン戦どころか紅白戦も投げず、ブルペンにもほとんど入りませんでした。初めて、野球が楽しくないと思った」という。だが、成果は明らかだった。入社時には60キロ台だった体重は10キロ増と、細かった体はグンと厚みを増し、下半身もどっしり。今年になって初めてブルペン入りしたとき、「すべての感覚が違った」そうで、たとえば球速は高校時代の130キロ後半から144キロに大幅アップしていたのだ。

 よほど手応えがあったのだろう、春のキャンプで会ったとき、「上げた右足をいったんためるフォームにしたら、球に強さも出てきたんです」と、うれしそうに話しかけてくれたものだ。

 残念ながら西濃はドームでの本番、11月28日の初戦で日本製鉄かずさマジックに敗れたが、九番レフトで先発した住谷は4打数2安打1打点。林の登板はなかったが、来年はドラフト指名解禁の近江コンビにぜひご注目を。

 都市対抗第3日に勝ったチームだけでも、甲子園をわかせた元球児が多い。東邦ガスの水本弦は12年、藤浪晋太郎(阪神)らで春夏連覇した大阪桐蔭の主軸だったし、日立製作所で阪神にドラフト6位指名された豊田寛は、15年夏に優勝した東海大相模の四番。この日は、ヤマハ戦を勝利に導く貴重な2ランを放った。渋いところでは日立の先発でマスクをかぶった川本真也。09年センバツで優勝した清峰で、今村猛とバッテリーを組んだ。

 4日目の今日登場するチームでは……たとえば、日本通運の沢村幸明監督は1996年夏の決勝、熊本工の1年生として9回2死から同点ホームランを放ち、松山商との延長戦に持ち込んだ。まあこの試合は結果的に、"奇跡のバックホーム"で松山商が優勝するわけだが。対戦相手のパナソニックには、12年夏に準優勝した光星学院(現八戸学院光星)の城間竜兵投手がいる。あるいは三菱重工Westでは、14年夏にやはり準優勝した三重の西岡武蔵が打線の主軸だ。

 ね? こうして見ると、高校野球好きでも都市対抗が興味深くなるでしょう? この話題、明日もしつこく続けようかな。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は63回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて54季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

楊順行の最近の記事