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2020年の高校野球を回顧する(2) せめて……の独自大会

楊順行スポーツライター
(写真:アフロ)

 新型コロナウイルスの感染拡大により、春と夏の甲子園だけではなく、都道府県の地方大会まで中止になった2020年。東京や大阪は、「甲子園にはつながらなくても、せめて試合の機会を……」と、早くから独自に代替大会を行うことを検討していた。さらに萩生田光一文部科学大臣が、

「各種目の集大成を用意してやることが望ましい」

 と発言したことを受け、当初開催の断念を表明していた福岡県も含め、各地方高野連が代替大会の開催に次々と手を挙げた。日本高野連も5月下旬には、新型コロナウィルス感染防止対策のガイドラインを作成し、各高野連に配布するとともに、都道府県高野連ごとの代替大会について、開催指針となる大会実施要項を発表。「これまでの練習の成果を発揮する機会を設ける」と目的を明記し、無観客開催ながら公式戦と位置づけた。つまり、代替大会の結果も各地区の公式記録として残るわけだ。

 開催にあたっては、3年生を多くベンチに入れたいなどの心情を汲み、ベンチ入り登録の人数や運用を柔軟にしたり、練習が十分ではないことを考慮して7回制または2時間制など、試合方式の細部や、大会の名称そのものも主催者である各地方連盟の裁量に任された。東北6県では優勝校による地区大会、東西東京、三重と岐阜で各優勝校同士が対戦する例もあれば、学業の遅れを取り戻すための夏休みの短縮、1、2年生での新チーム始動への日程的な影響などから、決勝まで行わなかった地方もある。

3年生の集大成として……

 この代替大会(独自大会)は日本高野連と朝日新聞社が後援し、日本高野連は各都道府県連盟に総額1億9000万円の財政支援を行った。プロ野球選手会が日本高野連に1億円を寄付するなど、私的な団体から寄付の申し出も。また野球に限らず、スポーツ庁は各地域で中止になったインターハイの代替大会の開催を促し、8億4000万円の支援を計上している。

 ただ、天候に泣く大会もあった。ことに、7月3日から4日にかけての記録的な豪雨で甚大な被害があった熊本県。日程の大幅な変更だけではなく、当初予定されていた県大会開催は断念し、地区予選のみで打ち切りとなっている。ほかにも、日程やグラウンド確保などの運営の都合や参加校の事情により、ベスト8やベスト4段階で打ち切りとなった地方もある。また、8月の甲子園交流試合出場が決まっていた県岐阜商は、校内で新型コロナウィルス感染者が発生したため、岐阜の独自大会出場を辞退した。

 以下、49地区の優勝校(あるいは2強、4強、8強)をまとめておこう。★は、甲子園交流試合出場校(つまり、第92回選抜高校野球大会に出場するはずだったチーム)。

北北海道/クラーク国際

南北海道/札幌第一

青森/青森山田

岩手/一関学院

秋田/ノースアジア大明桜

山形/鶴岡東★

宮城/仙台育英★

福島/聖光学院

○東北地区/聖光学院

茨城/水戸啓明 霞ヶ浦 土浦湖北 明秀日立

栃木/青藍泰斗 文星芸大付 白鴎大足利 佐野日大 足利大付 宇都宮商 作新学院 国学院栃木

群馬/桐生第一★

埼玉/狭山ヶ丘

千葉/木更津総合

東東京/帝京

西東京/東海大菅生

○東西決戦/東海大菅生

神奈川/東海大相模★

山梨/東海大甲府

新潟/中越

長野/佐久長聖

静岡/聖隷クリストファー

愛知/中京大中京★

岐阜/大垣日大

三重/いなべ総合

富山/高岡第一

石川/日本航空石川★

福井/敦賀気比

滋賀/近江

京都/龍谷大平安 乙訓 京都文教 洛東 京都翔英 北嵯峨 北稜 京都共栄

大阪/関大北陽 履正社★

兵庫/赤穂 神戸第一 三田松聖 東播磨 報徳学園 神戸国際大付 神港橘 県尼崎

奈良/天理★

和歌山/智弁和歌山★

岡山/倉敷商★

広島/広島商

鳥取/倉吉東

島根/益田東

山口/高川学園

香川/尽誠学園★

徳島/鳴門

愛媛/松山聖陵

高知/高知

福岡/九州国際大付 飯塚 福岡 西日本短大付

佐賀/龍谷

長崎/大崎

熊本/秀岳館 有明 文徳 熊本工

大分/津久見

宮崎/宮崎日大

鹿児島/神村学園

沖縄/八重山

21年はいつもの夏が戻ってほしい

 交流試合出場校が11(うち東海大相模は、交流試合出場時は独自大会が継続中)と力を発揮したかと思えば、春夏秋を通じて初の決勝だった狭山ヶ丘が優勝の埼玉など、フレッシュな顔ぶれも。福島の聖光学院は、この優勝で夏の福島大会は14連覇。独自大会優勝一番乗りの秋田・ノースアジア大明桜は、元ヤクルトの尾花高夫総監督兼投手コーチが指揮を執って話題を呼んだ。石川大会の準決勝では、金沢商の米沢拓海投手が金沢龍谷を相手にノーヒット・ノーランを達成。8月で定年を迎える山田斉監督を喜ばせている。

 甲子園につながらないとはいえ、ことに3年生にとっては意義のあった大会。さまざまなドラマも生まれたが、来年はいつもの夏が戻ってくることを願う。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は63回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて54季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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