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さあ、ドラフト。とっておきを探せ! その2 栗林良吏[トヨタ自動車]

楊順行スポーツライター
社会人の都市対抗野球大会は11月22日開幕(写真:アフロ)

 11月22日から東京ドームで開催される、社会人の都市対抗野球。32の代表が続々と決まっているが、9月26日に東海地区第1代表の座を射止めたのが昨年準優勝のトヨタ自動車だ。Honda鈴鹿が相手のこの試合、1失点完投したのが栗林良吏投手。最速153キロで、ドラフト1位指名間違いなし、といわれる2年目の逸材である。

「体調は悪くなかったですが、狙いどおりに投げ込めなかった」

 と察知すると、カーブで緩急をつけ、カットボール、フォークを効果的に駆使。相手先発も、やはりドラフト候補で同期のライバル・森田駿哉とあって力が入るところだが、「相手よりも、つねに自分の投球を心がける」という栗林は、力で押すのではなく、変化球で相手の芯を外し、対応能力の高さを見せた。昨秋時点で課題にしていた「完投できるスタミナ」もきっちり克服している。東邦ガスとの初戦にも先発した栗林は、7回を2安打10三振で無失点。エースとしての存在感は絶大だ。

 愛知大学リーグの名城大では、最速153キロの速球とスライダーを武器に通算32勝をあげ、2、3年時には神宮大会で全国のマウンドも経験した。プロ志望届を提出した理由が、負けず嫌いの栗林らしい。

「大学3年のときにユニバの日本代表に選ばれ、六大学や東都などの選手とプレーしたんです。彼らには負けたくないという思いが強かった」

 だが、心待ちにしていたドラフト指名はなし。心機一転、「大学時代にオープン戦で対戦し、大人の野球というイメージを持っていた」トヨタに進むと、春先から登板を重ねる。都市対抗2次予選では、4試合18回を2失点と結果を出した。都市対抗本戦では、三菱自動車岡崎との3回戦に先発。勝ち星こそつかなかったが、5回までを無安打に抑え、結局6回3分の2を自責0の好投を見せている。トヨタ・藤原航平監督も、「ストライク先行で、思い切って振らせないところがいい」と高い評価を寄せていた。

強豪で1年目からエース格

 もう時効だろう。実はこの都市対抗、栗林は初戦の先発が予定されていた。1年目から、エース格といえる。だが三菱日立パワーシステムズ(MHPS、現三菱パワー)との2回戦は、東海理化から補強の立野和明(現日本ハム)に先発を譲った。本人によると、「首を寝違えてしまって……チームに迷惑をかけました」と登板不能の状態で、3回戦の好投は、罪滅ぼしの意味もあったわけだ。ここを突破したチームは決勝まで勝ち進み、栗林はそこでも先発を任されている(JFE東日本に3回2失点で降板)。

 もうひとつの二大大会・日本選手権でも、マツゲン箕島硬式野球部との初戦に先発。毎回の13三振を奪う4安打完封でクラブ選手権優勝チームの挑戦を退けると、MHPSとの2回戦にも先発し、6回9三振無失点と好投した(チームは敗退)。この日本選手権は15回を22三振、無失点と完璧で、結局社会人1年目は、二大大会4試合で24回3分の2を30三振、防御率0.73と破格の数字を残している。年末には、日韓台湾の若手プロも参戦するアジア・ウインター・ベースボールで武者修行。4セーブを挙げて社会人代表を優勝に導き、胴上げ投手にもなった。

 それでも……と、栗林はどん欲だ。

「フル回転はできませんでした。二大大会は2試合ずつしか投げていませんし、早い回で降板して迷惑をかけたこともある。状態がいいときだけ投げさせてもらったのは、投手が豊富なチームだからこそです」

 プロ解禁の2年目には、

「意識はしますけど、チームで結果を残した延長線上にプロがあればいい。大学時代とは、考え方が変わってきました。社会人野球を経験できて、よかったです」

 昨年の都市対抗は、悔しい準優勝。「チームで結果を残す」東京ドーム本番は、11月22日に開幕する。

くりばやし・りょうじ/トヨタ自動車/投手/右投右打/1996年7月10日生まれ/愛知県出身/177cm80kg/愛知黎明高→名城大

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は63回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて54季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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