高校野球・500球ルール導入で、スーパーエースはいなくなる……のか?

1998年夏の甲子園で、松坂大輔(横浜)は782球を投げた(写真:アフロスポーツ)

 2018年12月、新潟県高野連が高校生の肩・ひじへの障害を防ぐため、「1試合100球」という投球数制限を提言した。かねて、投手への過度な負担は深刻な故障を招くと問題視されており、これを機に日本高野連は、「投手の障害予防に関する有識者会議」を設置。会合を重ね、11月5日には答申案がまとめられた。ちょっと長くなるが一部を引用しておくと、

(1)日本高野連並びに都道府県高野連(以下高野連)が主催する大会などにおいて、投手の障害を予防するため3連戦を回避する日程を設定すること。ただし、雨天などによる日程変更の場合は3連戦になることはやむを得ない

(2)高野連が主催する大会において、大会期間中の1週間で1人の投手が投球できる総数を500球以内とする。当初日程から雨天などにより試合数が増えた場合でも、1週間内の投球数500球を超えることはできない。この投球数制限は、2020年度の第92回センバツ大会を含む春季大会から3年間を試行期間とし、その間は罰則のないガイドラインとする

(3)高野連は、選手、部員のスポーツ障害の有無に関する情報を指導者と選手、部員さらには保護者と共有するために健康調査票が活用されるよう、加盟校に指導されたい

(以下略)

 まあ要は、来年のセンバツから、1人の投手が1週間に投げられるのは500球まで、ということだ。ちょっと聞くと、「いやはや、これは大変なことになった」という感じがするが、実は制限がなかったいままででも、1週間に500球を投げるのはきわめて例外的ケースだった。そもそもトーナメントでは、1週間を勝ち進むチームの数自体が限られるのだ。

1週間で500球はレアケース

 試みに、ここ2年の春夏の甲子園での投球数を比較してみる。18年センバツでは、総投球数が500を超えた投手はいなかった。同年夏は吉田輝星(金足農・当時、以下同)、山口直哉(済美)、柿木蓮(大阪桐蔭)の3人が500球をオーバーしている。その内訳を見てみると……。

◆柿木蓮 全512球

A 8/6  1回戦 9回 105球

B 8/13  2回戦 1回 24球

C 8/16  3回戦 4回 66球

D 8/18  準々決勝 4回 50球

E 8/20  準決勝 9回 155球

F 8/21  決勝 9回 112球

◆吉田輝星 全881球

A 8/8  1回戦 9回 157球

B 8/14  2回戦 9回 154球

C 8/17  3回戦 9回 164球

D 8/18  準々決勝 9回 140球

E 8/20  準決勝 9回 134球

F 8/21  決勝 5回 132球

◆山口直哉 全607球

A 8/5  1回戦 9回 109球

B 8/12  2回戦 13回 184球

C 8/16  3回戦 9回 121球

D 8/18  準々決勝 4回3分の2 57球

E 8/20  準決勝 9回 136球

 そもそも答申案の文面では、1週間がたったらリセットしてまた新たな1週間とするのか、それともスライドして計算するのか釈然としない。吉田の例でいえば、BからEがちょうど1週間。かりにリセットするなら、ゼロから始める21日の決勝では、500球まで投げられることになる。ただそれでは、故障予防のために設けた制限の意味がまるでなくなってしまう。だからここでは、Fの時点で1週間が経過しているBの投球数を削除し、15~21日までの1週間にスライドして計算することとした。

 そうすると吉田の場合、B~Eの1週間で592球。もし500球ルールがあれば、準決勝の途中で降板しなくてはならなかった。同様にC~F(5日間)が570球。こちらも、決勝で早々に降板となる。ただ柿木の場合なら、B~D(6日間)が140球、C~F(6日間)383球と、いずれもゆうゆう500球以内。山口のB~D(7日間)、C~E(5日間)も同様だ。19年はどうか。センバツでは、優勝した東邦の石川昂弥が唯一、500球を超えていた。

◆石川昂弥 全593球

A 3/26  1回戦 9回 163球

B 3/30 2回戦 6回 101球

C 3/31  準々決勝 7回 89球

D 4/2  準決勝 9回 143球

E 4/3  決勝 9回 97球

 A~C(6日間)が353球、B~E(5日間)が430球。19年夏は優勝した履正社の清水大成、準優勝・星稜の奥川恭伸が総投球数で500球超え。

◆清水大成 全594球

A 8/7  1回戦 5回 124球

B 8/13 2回戦 9回 143球

C 8/17  3回戦 6回 83球

D 8/18  準々決勝 9回 124球

E 8/20  準決勝 登板なし

F 8/22  決勝 6回3分の2 120球

◆奥川恭伸 全512球

A 8/7  1回戦 9回 94球

B 8/13  2回戦 2回3分の1 39球

C 8/17  3回戦 14回 165球

D 8/18  準々決勝 登板なし

E 8/20  準決勝 7回 87球

F 8/22  決勝 9回 127球

 この年は雨天順延があったり、準決勝後に新たに休養日が設けられたこともあり、両者はC~Fの6日間で4試合が最多。3回戦からは正念場だったが、他投手にマウンドを任せる場面もあり、いずれも400球にも届いていない。石川、清水、奥川……いずれも、500球ルールには抵触しないのだ。過去20年ほどをざっと振り返っても、1週間で500球をオーバーしたのは1998年夏の松坂大輔(横浜)、史上最長イニングを投げた06年夏の斎藤佑樹(早稲田実)、13年センバツの安楽智大(済美)くらいじゃなかろうか。そして、優勝の条件として投手複数制が定着し、基本的には3連戦が避けられる日程となったこれからは、1週間で500球をオーバーするというのはよほどのことである。タイブレークが果てしなく続く、とかね。

出でよ、スーパーエース

 ともあれ、選手の障害予防のためには、500球ルールの導入は画期的なことだ。ただオールドファンには、1人のエースが疲労に歯を食いしばり、獅子奮迅の大活躍……というかつての高校野球のイメージが薄れていくのは寂しいかもしれない。だけど……夏の甲子園の3回戦から決勝までが最長7日間。机上の計算では、絶対的なエースが1試合を125球ずつで完投すれば、4試合を投げきることもできるじゃないか。たとえば92年夏、優勝した西日本短大付・森尾和貴の例なんかはどうだろう。

A 8/14 2回戦 9回 112球

B 8/22  3回戦 9回 138球

C 8/23  準々決勝 9回 134球

D 8/24  準決勝 9回 100球

E 8/25  決勝 9回 118球

 B~Eまで、4連投(!)の4試合を1人で投げ抜き、490球だ。しかも全試合を通じて失点わずか1! 500球ルールが導入されても、こんなスーパーエースが登場する余地はまだあるのである。