ネット甲子園 第14日 履正社初優勝! そして、ナイスガイ・奥川の大会でもあった

今春の北信越大会での奥川恭伸(撮影/筆者)

 勝負は、3回に決まったと思う。星稜(石川)のエースにして大会ナンバーワン・奥川恭伸の調子が、明らかにここまでに投げた4試合ほどじゃない。智弁和歌山との3回戦、延長14回で23三振を奪った圧巻の投球を始め、奥川は32回3分の1を投げて45三振を奪い、打たれたのはわずか10安打、自責0で防御率0.00だ。履正社(大阪)・岡田龍生監督も試合前、

「150キロ超えのまっすぐがあってあの変化球、しかもコントロールもいい……社会人どころか、プロでもすぐに通用するんちゃいますか」

 と大警戒していたものだ。

 その奥川が、だ。熟練のカメラマンが、「試合前のキャッチボールを見ただけで、今日は打たれると思った」と話すほどイマイチ。150キロ超えこそマークするものの球が浮き、変化球のキレも物足りない。1、2回こそ無難に立ち上がったが、星稜が1点を先制したあとの3回表だ。2死を取った後、二番・池田凜、三番・小深田大地に連続フォアボール。この大会で与えた四球はここまでわずか3と、精密な制球も持ち味だけに、「2者連続フォアボールというのは、私の記憶にもないくらいです」(星稜・林和成監督)という異常事態だ。

焦点は奥川vs履正社打線

 今大会、履正社打線は強力だ。準決勝までの5試合すべてを2ケタ安打で、183打数66安打の打率は.361。ホームランも6本記録し、41得点は平均8点を超える。その打力は、センバツの初戦で星稜と対戦し、奥川にわずか3安打17三振と完全に牛耳られたことが原点にある。その後は対応力をテーマに、フリー打撃では、1球1球カウントや狙い球を想定し、あるいは直球のタイミングで変化球を打つ。マシンを数メートル前に置く速球対策も含め、「奥川を打つために練習してきました」(井上広大)。今大会では、攻略した相手投手のレベルも高かった。霞ヶ浦(茨城)の鈴木寛人、津田学園(三重)の前佑囲斗、明石商(兵庫)の中森俊介と、ことごとくプロ注目の右腕なのだ。 

 話は3回、2死一、二塁に戻る。ここまで大会2本塁打の履正社の四番・井上が、初球甘く入った奥川の高めのスライダーをバックスクリーン左に逆転3ラン……。よう、見極めましたね……と岡田監督は、井上の前で2人の2年生が選んだ四球を評価する。

「ここまでのビデオを見ると、奥川君にはあのまっすぐがあり、同じ腕の振りで落ちるスライダーを放るから、ボールになる低めの球も振ってしまうんです。その低めにいかに手を出さないかがポイントだったんですが、あの四球2つはきっちりそれができていました」

 確かに、「調子はよくなかったんです。初回からまっすぐに合わせられたし、いつかはとらえられると思っていた」と奥川本人がいうように、本調子は欠いたかもしれない。だが、ふだんならストライクを取れるボールを見逃されると、投手にはよけいに負荷になる。結果、奥川にはめずらしくボール先行の場面が多かったし、ストライクがほしくなる心理がボール1個分甘い制球になる。井上の3ランで1対3とされた星稜は、7回にいったん追いついたものの、8回には奥川が4安打を浴びて2点を追加され、万事休した。

ナイスガイ・奥川

「ナイスホームラン、といってくれました」

 3ランを放った履正社・井上は試合終了の挨拶のあと、奥川にそう声をかけられたという。

「やはり、すばらしいピッチャーでした。そのあとの打席は打ち取られましたが、奥川がマウンド上から笑顔を向けてくるので、こっちも対戦を楽しみました」

 そう、奥川はナイスガイなんだよなぁ。取材陣との応対はいつもニコニコしているし、チェンジになってマウンドからベンチに戻るとき、凡退した打者のバットを拾って相手に渡したり。試合に勝って校歌を聞いたあと、振り返って審判団にお礼の挨拶をするのも、なかなか好感が持てる。なんといっても、一度単独インタビューをしたのを覚えていてくれていて(たぶん)、取材の輪が解けたあとにこちらと目が合うと、必ず目礼してくれるのだ。また取材に行くから、よろしくね。

 それはともかく……センバツでも対戦した両校が、夏の決勝でふたたび相まみえたのは7回目のことだった。そのうち、センバツの対戦が初戦、と条件を絞ると史上3回目で、戦後は63年、下関商(山口)と明星(大阪)に次ぐ2回目だ。そのときのセンバツは、明星に快勝した下関商がそのまま優勝。逆に夏の決勝は、明星がリベンジして優勝している。今回も、明星と同じ大阪の履正社が、センバツ初戦で敗れた相手を降しての優勝ということになる。以上、参考までのウンチクでした。