一生袴が着られない?! 大学卒業式・入学式中止が式典ファッションに与えた影響

卒業式は中止でも袴だけは着たい。女子学生の袴にかける想いは並々ならぬものがある。(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

2020袴が着られない問題

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で大学の卒業式や入学式は軒並み中止に追い込まれた。私が勤務する甲南女子大学も例外ではない。一生に一度の大学卒業式や入学式なのに残念という思いも強いだろうが、女子学生の場合は、卒業式で「袴が着られない」ことが問題になったようだ。

 確かに女子学生の袴姿はこの時期の風物詩となっていた。卒業式の後、街に繰り出す彼女たちからは独特の華やいだ雰囲気が感じられる。すっかり大学卒業式に欠かせなくなった袴だが、いったいいつからこんなに誰もが着るようになったのだろうか。

「はいからさん」からファッション化

 もちろん、卒業式の袴姿は、明治・大正期の女学生の制服に始まるわけだが、なぜそれが現代の女子学生の卒業式と結びついたのだろうか。一説には大和和紀のマンガ『はいからさんが通る』の影響が大きいと言われている。70年代後半に連載された、大正時代の女学生を主人公にしたマンガは反響を呼び、アニメ化はもちろん、87年には当時のアイドル南野陽子主演で実写映画にもなった。

 この頃から、大正ロマンの袴姿がファッション化していったと考えられる。とはいうものの、ナンノの女学生スタイルがかわいいからと言って、すぐに真似できるわけではない。袴はあくまでも非日常のスタイルだ。「女学生」という縛りもある。そこで白羽の矢が立ったのが制服のない大学の卒業式である。卒業式ならコスプレにならず、大手を振って袴を着られる。「女子大生ライフ」の有終の美を飾るに相応しい装いだ。

90年代に定着した大学卒業式での袴

 キャンパスでは80年代後半から90年代にかけて、卒業式での袴姿が広まっていった。一般に女子ばかりの集団の方が流行は広がりやすい。当時は今よりもずっとたくさんあった女子短大、そして女子大を中心に袴姿が定着していった。

 90年代も後半になると、共学の女子学生へも波及し、誰もが卒業式に袴を着る時代がやってきた。レンタルで気軽に借りられるのも幸いした。今や着ないことの理由が必要なくらいである。就活のリクルートスーツもほぼ同じ時期に「制服」化していくが、社会の同調圧力が強まっていることと無関係ではないだろう。

スーツは別に着なくてもいい?

 一方の入学式は、袴ほど特別感のある装いが定着しているわけではないので、中止になってもファッションに関しては、それほど女子学生のショックは少ないかもしれない。ディスコでもキャンパスでもスーツを着ていたバブル期の女子大生ならいざしらず、今どきの女子学生は就活以外でスーツを着ることはないだろう。むしろたった一度の入学式のためにスーツを買うのはもったいない。買わなくていいならそれにこしたことはない。それは男子学生も同様だ。

 大学卒業式・入学式中止の影響でスーツが売れなくなっているらしい。「洋服の青山」を展開する青山商事は、2020年3月期の最終赤字が203億円に拡大したという。

https://www.wwdjapan.com/articles/1056170

中止でも袴だけは着たい 

 大学の中には大規模な式典は中止でも、ゼミ単位、学科単位での学位授与式は行われたところもある。そういった小規模な教室でのセレモニーであっても、袴姿で出席した女子学生が多かったようだ。一切の式典が中止になっても、レンタル店で袴を借り、友人同士で写真だけ撮影した女子学生もいる。女子学生の袴にかける熱い想いに応えるかのように、レンタル店側も追加料金なしで写真撮影プランに変更するなどのサービスを行っているようだ。

 なぜ彼女たちがここまで袴にこだわるのかと言えば、袴だけはこれからの人生で着ることができないからだ。振り袖もドレスも着る機会はいくらでもあるけれど、袴だけは今日を逃すと単なるコスプレになってしまうからである。

 とはいえ、別に袴が女子学生の正装と決まっているわけではなく、30年ほど前からの流行にすぎないので、別に袴が着られなかったからといって嘆く必要はない。昔の女子学生は振り袖やスーツとバラエティに富んでいた。むしろ、横並びの卒業式ファッションを見直すよい機会なのではないかと思う。

 何よりも大学生のクラスター感染が目立ってきた今となっては、袴を優先させたことが命取りにならないことを願うばかりである。