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香水よりも消毒液が欲しい? 新型コロナ騒動で変わるファッション事情

米澤泉甲南女子大学教授
モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンは香水の代わりに消毒液を作り始めた。(写真:ロイター/アフロ)

香水、コスメよりも消毒液

 世界的に新型コロナウイルスが感染拡大するなか、ディオール、ゲランといった名だたる名香を持つブランドを傘下に収めるモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトングループ(LVMH)が、香水や化粧品工場の生産ラインを使って消毒液を生産し、病院へ無料で提供するという。

フランスの高級ブランドグループ「モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン」(LVMH)は15日、新型コロナウイルスの感染拡大によるアルコール消毒液不足を補うとして、傘下ブランドの香水・化粧品工場で消毒液を作り、病院へ無料で提供すると発表した。地元メディアが伝えた。

 クリスチャンディオール、ゲラン、ジバンシー、3ブランドの国内工場で16日にも消毒液の生産を開始し、病院用に保健当局へ提供する。必要なだけ継続し、毎週12トン以上生産する予定という。

出典:https://www.sankei.com/world/news/200316/wor2003160012-n1.html

 戦時下を思わせるLVMHの素早い対応は、倫理的な正しさを示すことで、ブランドイメージを高めることが目的でもあるらしいが、このご時勢、ラグジュアリーブランドも閉店に追いやられているのだから、香水や化粧品などは無用の長物かもしれない。今世界中の人々が求めているのは香水でもバッグでもシャンパンでもない。マスク、消毒液、トイレットペーパーが三種の神器の世の中だ。

 確かに外出禁止令が出され、お出かけもできないのだから、おしゃれしても仕方がない。もちろん服も香水も化粧品もいらないというわけだ。欧米ほどの制限はないが、日本でも同じようなものだろう。コロナ騒動以降、いかにストレスを溜めず、おうちで快適に過ごすかが人々の重要な課題となっている。

加速化するていねいな暮らし

 近年は着飾ることよりも、食べることや住むこと、暮らすことへの関心が高まっていたが、ここにきて、家で過ごす時間も増えた人々の間で、ますます「ていねいな暮らし」が加速化するのではないだろうか。

 この春創刊50周年を迎えた『アンアン』は2年前から、毎年この時期に「最先端の暮らし。」特集を組んでいる。発売されたばかりの3月18日号でもエアクリーン家電、身だしなみ家電、ボディ&ヘアケア家電、シェアライフ、パーソナライズ美容など「快適に暮らすためのアイテムとサービス」が満載だ。      

 衣食住の食住に楽しみを見つける。欲しいのは最新の家電や着心地のよい部屋着。着飾って出かけるよりも、おうちの中でどれだけ快適に過ごすかが「ファッション」の時代となったのだ。

コロナ騒動下でも大人気のエルメス口紅

 もう、ラグジュアリーなファッションは全く求められていないのだろうか。ラグジュアリーブランドは凋落の一途をたどるのだろうか。

そのような中で、3月4日にラグジュアリーブランドの雄、エルメスが口紅を発売し、話題となっている。ケリー、バーキンなど高級バッグの代名詞であるエルメスと口紅という意外性もあり、一本8000円近くするにもかかわらず、日本でも即売り切れるほどの大人気だ。オレンジ色の高級感のあるパッケージに入った「ルージュ・エルメス」はカラフルでインスタ映えも申し分ない。限られた店舗でしか買えないことも相まって、しばらくは垂涎のアイテムとなるだろう。

 マスク姿では口紅など塗っても仕方ないのにと言うなかれ。たとえ外出時にはマスクと消毒液が手放せない世の中であっても、女性は一本の口紅にまだ夢を求め続けているのかもしれない。

 

甲南女子大学教授

1970年京都生まれ、京都在住。同志社大学文学部卒業。大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程単位取得満期退学。甲南女子大学人間科学部文化社会学科教授。専門は女子学(ファッション文化論、化粧文化論など)。扱うテーマは、コスメ、ブランド、雑誌からライフスタイル全般まで幅広い。著書は『おしゃれ嫌いー私たちがユニクロを選ぶ本当の理由』『「くらし」の時代』『「女子」の誕生』『コスメの時代』『私に萌える女たち』『筋肉女子』など多数。

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