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「感染爆発」大洗、全町民・在勤者にPCR検査開始 外国人も対象

米元文秋ジャーナリスト
大洗の大規模PCR検査で検体を提出する町民=2021年5月24日、米元文秋写す

 新型コロナウイルスの感染爆発状況に見舞われている茨城県大洗町(人口約1万6000人)で24日、全町民と、町内企業などに勤める人を対象にしたPCR検査が始まった。県が町と協力して実施、期間は30日まで。県によると、対象者は約1万7000人に上る。大規模な集中検査で、潜在している可能性のある陽性者を発見し、感染の封じ込めを図る。

 大洗町の最近の感染状況は、地場産業の水産加工業や周辺地域の農業関係事業で働くインドネシア人の間で、クラスターとみられる多数の感染者が出ているのが特徴。

 今回のPCR検査では、インドネシア人約400人など町内に住む外国人約800人も対象だ。既に県は、水産加工業の従業員(全員)と家族(希望者)を対象とする無料の拡大行政検査を実施しており、インドネシア人従業員の検査も進んだとみられているが、行政検査から漏れた人々の検査が、今回どうなるかも注目される。

 外国人労働者の集団感染は、シンガポールなどの移民労働力への依存度の大きい国々でも発生。大洗町の感染拡大は、日本もそうした移民国家の状況と無縁ではないことを示しており、今回の大規模PCR検査は、日本での対策のテストケースともなろう。

ステージ4の10倍超

 大洗町の感染者は、23日までの発表で累計157人となり、住民の約1%に上っている。累計感染者のうち97人が、5月に入ってからの発表で、急増ぶりが顕著だ。関係者によると、インドネシア人の感染者は数十人に上る。これは同国人住民の1割程度に相当する数だ。

 茨城県の大井川和彦知事は20日に臨時会見、大洗町で県主導の集中的なPCR検査を実施すると発表した。その理由について「大洗町の感染状況が非常に県内でも特殊だ」と強調した。

 さらに「(感染者数が)2週間単位で2倍に拡大して。直近の1週間が48名ということで、非常に感染が急拡大している」と明らかにし、「人口1万人当たりの国の指標でも、ステージ4(感染爆発)相当の10倍を超過しているような状況になっており、極めて由々しき事態である」「市中感染の可能性も疑わなければいけない状況になってきている」と警告した。

朝から続々と会場に

 大洗町内のPCR検査会場では24日、開始予定の9時の前から、開場を待つ人たちがいた。

 椅子に座った高齢の女性は「心配なので検査を受けることにした。従業員だけではなく、周りにいる日本人にも感染者が出ていると聞いている。年寄りはかかったら命が危ない」と話した。

 検査では、だ液が採取された。壁に貼られた梅干しとレモンのイラストを見ながら、十分な量が取れるまで、2、3分間頑張る人も。検体を提出した人に、水色の防護服にマスク、フェイスガード姿の担当者が「陽性だったら2日後までに連絡します。陰性の場合は連絡がありません」と説明した。

「正確な情報を」

 会場を出た書店店主江口文子さん(65)は「検査を受けることについて、『陽性だったらどうする。店を閉めなきゃならない』とも言われたが、『私が陰性なら、あなたたちも大丈夫でしょう』と、検査を受けることを決めた」と、胸の内を語った。

 大洗が舞台のアニメ「ガールズ&パンツァー(ガルパン)」のファンや移住者と交流があるという。コロナ禍で、以前は「大洗は年寄りが多いから、(感染させないよう)行くのは遠慮しておく」という話題が出た。しかし、ここ2、3週間は「行ったら、おれたちうつるから」という話も耳にしたという。

 感染対策について行政への希望を聞くと、「正確な情報を出してほしい。あいまいな情報は不安をあおることになる。(小さな地区単位の)回覧板などを活用しては」と話した。

ジャーナリスト

インドネシアや日本を徘徊する記者。共同通信のベオグラード、ジャカルタ、シンガポールの各特派員として、旧ユーゴスラビアやアルバニア、インドネシア、シンガポール、マレーシアなどを担当。こだわってきたテーマは民族・宗教問題。コソボやアチェの独立紛争など、衝突の現場を歩いてきた。アジア取材に集中すべく独立。あと20数年でGDPが日本を抜き去るとも予想される近未来大国インドネシアを軸に、東南アジア島嶼部の国々をウォッチする。日本人の視野から外れがちな「もう一つのアジア」のざわめきを伝えたい。

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