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外国人労働者の中間搾取温存? 特定技能も送り出し機関介在義務化―ベトナム、カンボジア

米元文秋ジャーナリスト
相談会「新型コロナ・ベトナム人技能実習生ホットライン」=16日、米元文秋写す

 外国人実習生への「中間搾取」の一因になっていると問題視されてきた、海外の「送り出し機関」の介在が、外国人労働者の公式受け入れのために新設された特定技能制度でも義務化されつつある。ベトナムとカンボジアからの新規受け入れなどについてだ。関係資料と出入国管理庁(入管庁)への取材で明らかになった。

 ベトナムは特定技能在留外国人の国籍の60.9%(2020年9月末速報値)を占める最大の送り出し国。2019年に特定技能制度が始まった当初、送り出し機関について「なし」と言明していた日本政府の方針が早くも空文化し、制度が骨抜きになりつつあると言える。特定技能は第二の外国人技能実習制度になるのだろうか。

直接採用のはずが…

 「技術移転」名目で外国人労働者を事実上受け入れている「技能実習」制度では、外国人と日本の受け入れ先とのマッチングは通常、外国の送り出し機関と日本の監理団体を通して行われている。

 この仕組みの中で、実習生が送り出し機関などに過大な手数料などを支払わせられるケースが後を絶たない。親戚らに借金を重ねて費用を工面し来日した実習生が、借金返済と、より高い収入の確保のために失踪したという情報も相次いでいる。

 特定技能は、こうした中間搾取(ピンハネ)をめぐる問題を解消し、日本の事業者が直接、外国人を採用することもできる制度として期待されていた。特定技能制度が始まった当初の19年7月付入管庁資料(図01)は、技能実習と特定技能の制度を比較し、特定技能1号では、送り出し機関は「なし」と明記していた。

図01 ハイライト表示は筆者
図01 ハイライト表示は筆者

「推薦者表」を取れ

 ところが、入管庁は今年1月6日、「ベトナムに関する情報」を更新。ベトナムから新たに特定技能の人を受け入れる事業者は「ベトナム労働・傷病兵・社会問題省海外労働管理局(DOLAB)から認定された」送り出し機関との間で労働者提供契約を締結することが求められる、と明記した。

 また、特定技能での在留を申請するベトナム国籍の人は、認定送り出し機関を通じ、あらかじめDOLABから「推薦者表」の承認を受ける必要がある、と説明した。推薦者表は、ベトナム国籍の人が海外就労について同国側の手続きを完了したことを同国政府が証明する文書とされる。

 2月15日以降、日本の受け入れ事業者は、地方出入国在留管理官署に対して特定技能の在留資格認定証明書の交付申請を行う際、認定送り出し機関から送付された推薦者表の提出も必要になるという。

 「外国人材」の受け入れ促進を図る内閣府所管の公益財団法人「国際人材協力機構(JITCO)」も1月8日、「(特定技能)ベトナムからの送出し手続の公表について-2月15日以降の地方出入国在留管理署への申請には新たな資料が必要です-」との「お知らせ」を発表。推薦者表について、認定送り出し機関がDOLABに申請して入手すると説明している。

 ベトナムより前に、カンボジアについても政府認定送り出し機関の同様の介在が義務化されたことが、2019年8月に公表されている。

二国間の取り決め

 送り出し機関の介在について、入管庁は「日本とそれぞれの国との二国間の協力覚書に基づくものだ」と説明。ベトナムについては同国側で手続きが決まり、公表されたことを受け、今回の発表となったという。

 特定技能制度の趣旨と、送り出し機関介在義務との整合性について、入管庁の担当者は「直接契約して日本に来ることができるという立て付けではあるが、それぞれの国で自国民がよその国に働きに行く手続きを定めている場合があり、ベトナムもそれに該当する」と述べた。「それぞれの国の法律などで定められている手続きなので、従っていただくことになる。ベトナムと覚書を交換した時点で、推薦者表のフォーマットも別添で載っていた」と続けた。

 ベトナム政府認定の特定技能の送り出し機関と、従来の技能実習の送り出し機関との重複状況を尋ねたところ、担当者は「重複は相当あると思われる。似たような名前はある。同じような経験を持った方が手を付けると思うので、同じ機関がやるというのはあり得る」と語った。

悪質ブローカーを排除できるか

 現実問題として、悪質ブローカーの介在を排除できるかが気がかりだ。

 入管庁担当者は「ベトナム国内の業者を直接日本が処罰できない。ベトナム政府に情報提供して処置を働きかけることになる」と指摘。「送り出し機関も含め、悪質な仲介事業者が出てきた場合は、日本とベトナムで情報を共有して排除していこうという協力覚書だ」と話した。

 ただ、そのベトナム政府当局者の周辺が、送り出し機関と人材ビジネスの利害を共有していた場合、チェック機能は働くだろうか。

「コロナのどさくさに…」

 相談会「新型コロナ・ベトナム人技能実習生ホットライン」などで、生活困窮を訴える労働者の支援に取り組む指宿昭一弁護士は、こうした特定技能の現状を批判し「外国人労働者の人権を守れる制度に改めるべきだ」と訴える。

 「特定技能にも送り出し機関が関与することを制度化して、そこでまた多額のカネを取ることをベトナムとカンボジアでは制度化してしまった。日本政府もそれを認めてしまった。あり得ないようなことを、コロナのどさくさに紛れてやっている」

 「外国人労働者を不当な搾取の対象にすること、使い捨てにすること、人権を顧みないこと、を全てやめる。受け入れるのだったら、日本で共に働き、日本の社会を一緒につくっていく仲間として受け入れて、当然、権利もきちっと守るべきだ。それができないのなら、一切受け入れるべきではない」

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ジャーナリスト

インドネシアや日本を徘徊する記者。共同通信のベオグラード、ジャカルタ、シンガポールの各特派員として、旧ユーゴスラビアやアルバニア、インドネシア、シンガポール、マレーシアなどを担当。こだわってきたテーマは民族・宗教問題。コソボやアチェの独立紛争など、衝突の現場を歩いてきた。アジア取材に集中すべく独立。あと20数年でGDPが日本を抜き去るとも予想される近未来大国インドネシアを軸に、東南アジア島嶼部の国々をウォッチする。日本人の視野から外れがちな「もう一つのアジア」のざわめきを伝えたい。

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