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【脱炭素】自動車業界と一緒に沈むか、それとも逃げるか? 飛べない「ダチョウ企業」の生き残り戦略

横山信弘経営コラムニスト
飛べないダチョウは地道に次の居場所(マーケット)を探す必要がある。(写真:CavanImages/イメージマート)

■自動車業界の「ケーレツ」が崩れる?

「脱炭素」の潮流で、ガソリン車からEV(電気自動車)へと一気にシフトすることはないだろうが、それでもアップルなど米中巨大IT企業の参入によって自動車業界が激変することは、まず避けられない状況だ。

中国ではすでに46万円ほどのEVが新エネルギー車部門で販売トップに躍り出るなど、その兆しが見えている。

今後10年以内で、自動車業界は様変わりする。最も大きなキーワードは「垂直統合型」から「水平分業型」へとビジネスモデルが転換することだ。

とくに日本の自動車業界は「ケーレツ」と呼ばれる独特の企業間組織を形成している。

組織間の絆が強いのは大きな長所だ。強い競争力を発揮し、世界の自動車業界をけん引してきた。しかし「破壊的イノベーション」が起きたときには大きな足かせとなるだろう。

現在は「共創」の時代だ。「競争」の時代は終わった。

ケーレツの枠組みを超えて、企業間で協力し合う。会社の規模も、過去の歴史も、もちろん国境も超えてネットワークのように繋がる時代になったのだ。

そうすれば、ケーレツで守られていた企業は急激に弱体化するだろう。いわゆる「下請け」「孫請け」「ひ孫請け」と呼ばれる企業群だ。

こういった「下請け」的な立場で事業を営んできた企業は、「飛べない鳥――ダチョウ」のようだ。ダチョウの羽のように、創業当時はあったはずの営業・マーケティング力が退化し、うまく飛べない。マーケットを広く俯瞰して、自分たちの事業を生かせる場所を見つけることができないのだ。

■「飛べないダチョウ企業」はどうする?

私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントだ。私どもが支援に入る企業の大半は「成熟企業」である。だからか、次のステージへ成長させるお手伝いをすることが多い。

その際、最も重要視するのは「新規マーケット開発」だ。

企業のライフサイクルで考えた場合、「導入期」「成長期」は環境要因や経営陣の強いリーダーシップによって事業は一定期間、急拡大する。

しかしボールを投げたときの放物線のように、徐々に創業当初のエネルギーがなくなっていく。そして特段の経営変革もせず、そのまま現状維持をつづけると「衰退期」に突入してしまう。

だから「成熟期」で現状維持バイアスを壊し、新たな成長ステージへと踏み出せるよう経営イノベーションを起こしていかなければならない。

このときに大事なのは、勇気をもって過去の成功体験を捨てることだ。そして現在のお客様を大切にしながらも、新しいマーケット開発に尽力することである。

プロダクトではなくマーケット(市場)にまずフォーカスする理由は、新規プロダクトの開発というのは、多くの人が考えているよりも容易ではないからだ。非常にリスクを伴うものだし、即効性も乏しい。

しかし日本企業は、プロダクトや技術の研究開発(R&D)に力を入れる傾向が強い。もちろん大切ではあるが、並行して既存プロダクトによる新規マーケット開発にも精を出しつづけることが大切だ。

すでにあるマーケットにおいて支持されてきたプロダクトが、新しいマーケットにシフトするだけで受け入れられ、それが成長エンジンとなった例はいくらでもある。

だから「ダチョウ企業」は、自らの足で探し続けなければならない。飛べないのだからこそ、地道な取り組みが必要だ。

■新マーケット開発「3つのシフト」

既存プロダクトを起点にして新規マーケットを探るうえで、以下3つの発想方法が参考になるだろう。

1)マーケットシフト

2)プロダクトシフト

3)ビジネスモデルシフト

まずは単なるマーケットの横スライドだ。

自動車業界に特化したプロダクトを扱っていた場合は難しいが、そうでなければそのままマーケットをシフトすればいい。

たとえば複合機を扱っている代理店だとしよう。複合機は、どのオフィスでも使用されている。現時点では自動車業界との取引が多くとも、マーケットに向ける視点を変えるだけでいい。

現在のビジネスモデルとの相性や、市場規模、市場成長性なども吟味したうえで新規マーケット限定し、戦略を立てるべきだ。

マーケティングレベルでの転換になるため、営業組織がメインで戦略を立案し、実行していくことになる。

次はプロダクトをシフトすることで、新たなマーケットを開発する方法である。

取り扱っているプロダクトのある部分を抽象化し、シフトする方法だ。プロダクトに使われている技術、プロダクトの用途、プロダクトの顧客提供価値などを抽象化し、発想を広げる。

たとえば飲料用ストローの製造技術を使って工業用ストロー、医療用ストローの生産に事業転換した企業がある。

現在はプラスチック製ストローを廃止する動きが世界的に広がっており、どのメーカーも事業転換を強いられている。そんな状況における成功例だ。

これはプロダクトの属性(この場合は「技術」)をいったん抽象化させることで、ストローは同じストローでも、まったく別業界で利用できるストローを開発した。

研究開発は不要なのに、単なる「発想の転換」によって別マーケットを開発した見事な例である。

最後にビジネスモデルのシフトについて考える。ビジネスモデルは「収益を生むストーリー」「収益を生む設計図」のこと。つまりマネタイズの流れそのものをシフトさせるため、大掛かりなものとなる。

現在取り扱っているプロダクトを「販売する」から「貸す」「仲介する」「インフラ提供する」「技術を教える」……といった、マネタイズに関わる動詞を転換させるのだ。

そうすることでビジネスモデルそのものの転換に繋がる。ビジネスモデルそのものを変えることで、新たなマーケット開発に繋がることだろう。この発想法は、多様化するお客様のニーズに応える起爆剤にもなるだろう。

自動車のEV化のみならず「脱炭素」の流れは止まることがない。多くの企業が事業転換を迫られることになるだろう。今からでも遅くはない。地道に新規マーケット開発に取り組むことを強くお勧めする。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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