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年末年始の休暇延長 企業には死活問題か?

横山信弘経営コラムニスト
年末年始の休暇延長で、本当に人出は緩和されるのか?(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

■企業経営者には寝耳に水?

政府は23日、年末年始の休暇延長を呼びかける方針を決めた。具体的には、年始の休暇を来年1月11日まで取ることができるようにする。年末年始の帰省や初詣などの人出を分散するためだという。

働き方改革関連法やテレワークの実施で、労働時間の量や質が落ちている現在、また一つ企業経営者を悩ませるタネが増えた。筆者は、10万円の給付金と同じで、政府の思惑どおりにはいかないと予想する。

その理由は、緊急事態宣言時と異なり切迫感が伝わってこないので、この提言に従わない企業が多くあるだろうと考えるからだ。

真っ先に思いつくのは、グローバル企業だ。国内完結型のビジネスならともかく、グローバル企業が日本都合で「仕事始め」を1月11日までずらすことは現実にできるだろうか。

とくにサプライチェーンの広がりが世界と繋がっているケースでは困難である。高度なグローバルサプライチェーンであるほど機能しなくなる。

たとえ国内完結型であったとしても、従えない企業は多いはずだ。社会の営みと企業は密接に繋がっているからだ。

たとえば筆者のクライアント企業で、医療衛生材料のメーカーがある。日々医療現場で消費されていくガーゼや脱脂綿などを生産しており、月間の生産量も決まっている。

休暇延長により7日間も労働日数が減れば、その分生産量が落ちて医療現場へ十分な衛生材料が行き届かなくなるだろう。社会的責任も考えると、いくら政府からの提言とはいえ、年末から14日間連続で休みをとるという措置はとれないのではないか。

「日銭」をアテにしている、資金繰りが苦しい中小企業などは当然に休めない。いくら「DX(デジタルトランスフォーメーション)で」と政府が呼びかけても、そう簡単に生産性がアップするわけでもないのだから。

■「制限」したほうが人は従う

「強制」と「主体性」、どちらが人を動かすことができるかといえば、もちろん「強制」であることは間違いない。だから「強制力」を効果的に発揮できる措置が必要だと筆者は考える。

2020年4月7日、政府は緊急事態宣言を発令した。それによって、多くの企業がその宣言に基づいて企業活動を自粛、もしくは在宅勤務やテレワークを実施した。これは、一定の強制力をもった宣言だったと受け止められたからだろう。

何らかの行動を「制限」することで、人は行動を起こさなくてはらなくなる。

この制限による強制力は、働き方改革関連法にもみられる。2019年4月から施行された「時間外労働の上限規制」はその一例だ。

以前から政府は企業に対し「長時間労働の是正」を訴えてきた。しかしいつまでたっても効果がみられないため、法律によって残業時間の上限を定めたのだ(これまでは行政指導のみ)。

当然、このような法律ができあがった以上、企業は動かざるを得なくなる。時間外労働を制限されたからだ。「年5日の有給休暇義務化」も同様の論理だ。

いっぽう「制限」の反対は「自由」である。

自由度を高めることによって、自主性を促すことができる。多くの人は「制限による強制」は嫌うが、「自由による主体性」は歓迎するだろう。しかし、主体性に頼ると、人を動かすエネルギーは途端に落ちる。

たとえば10万円の給付金は、どのように使われただろうか。ニッセイ基礎研究所が6月に実施した調査によると、半分以上の人が「生活費の補填」として使い、4分の1が「貯蓄」にまわした。

カテゴライズすればこういう結果になるが、要するに「10万円もらったが、何となく消費されていった。あるいは一部が残った」ということだ。つまり大半の人が「使っていない」のである。

「そういえばもらったような気がするが、あれってどうしたっけ?」

と、給付金の存在すら思い出せない人もいるのではないか。商品券ならともかく、お金は使い道の自由度が高いし、制限がないからだ。

■どうすれば人出が緩和されるのか?

主体性を重視し自由な使い方を示すと、意識がある人しか動かなくなる。今回の「年末年始の休暇延長」もそうだ。ほとんどの企業は1月4日から仕事をスタートする気でいた。4日が月曜日だから、なおさらだ。とてもキリがいい。

しかし政府は、成人の日である11日まで休みを延長してもらおうと目論む。休みが増えることによって自由度が増すため、多くの人はこの方針を歓迎するかもしれない。

しかし本当に帰省や旅行、初詣による人手は緩和されるだろうか。個人の自主性に依存するのだから、やはり給付金と同様に、政府が意図したような動き方をする人は少ないのではないか。

前述したように、提言に従わず「仕事始め」する企業も多いことだろう。だから、せいぜい「例年の8割程度」に緩和される程度ではないかと思う。

それであるなら、1週間も労働日数が減ることによる経済損失のほうが気掛かりだ。

本当に人出を緩和させたいなら「強制」という手を使うべきだと考える。初詣する参拝客を「制限」してもらうのだ。交通機関も利用を「制限」してもらう。そうすれば、人はそれに従わざるを得なくなる。

自由度を増す措置は「聞こえ」がいいだけで、効果が薄いことが多い。これは企業マネジメントにも言えることである。

年末年始の休暇延長が死活問題になりかねない、そんな企業もあるだろう。コロナの流行を食い止めたいという政府の意向は理解できるが、より効果のある提言を求めたい。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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