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【副業】このままでは共倒れか ~副業先の残業どう管理する?

横山信弘経営コラムニスト
(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

■副業すれば長時間労働になるのは当たり前

厚生労働省は、副業する人の残業時間について、勤務先に事前申告する新ルールを9月からはじめると発表した。副業する人の「働きすぎ」を監視するためだという。

とはいえ「残業上限規制」の新ルールが、2019年4月から大企業を対象に、2020年4月からは中小企業も対象にスタートしたばかりだ。この新ルールもなかなか浸透しないうちに、また次の新ルールが打ち出された。

本当に、うまくいくのか。

当社の支援先からも、

「毎月45時間の残業を超えていいのは、たったの6ヵ月だけ。とても無理だ」

「経営陣も総務部も知ってはいるが、ほとんど意識していない」

という声が多く聞かれる。罰則があるにもかかわらず、残業上限規制について「詳しくは知らない」「意識していない」とこたえた経営者、管理者も少なくない。大企業であったとしても、同様である。

新型コロナウイルス感染症の影響により、残業対策よりも、在宅勤務やジョブ型雇用への転換といったテーマのほうが喫緊の課題だからだろう。こんな現状なのに、副業先の残業も把握しろ、管理しろと言われたら、上司はどう受け止めるのか。人事総務部もお手上げだろう。

副業解禁については昨年、知人の経営者が怒り心頭だったことを思い出す。

「働き方改革で、若い人が残業をやらなくなった。そのため中間管理職にしわ寄せがきている。それなのに、副業をやらせてほしいだなんて言ってくる若い社員もあらわれて……。どうなってるんだ!」

■残業は「文化」である

私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントだ。実際に企業の現場に入り、肌で感じる最大の問題は「長時間労働の是正」である。とにかく日本のサラリーマンは労働時間が長い。

現場を見ていてわかるが、体を壊すほど働き過ぎの人は、実のところそれほど多くはない。多いのは「体を壊さないが、労働時間が長い人」である。

このように平気で長時間働く人がいる職場では、同調圧力が働いて、なかなか残業文化を変えられない。

ひとりひとりに言って聞かせても、文化として根付いている以上、そう簡単に変わらないのだ。

つまり、残業を減らしたいなら全員の残業を減らさなければならないのである。仕事が終わらない人は残り、仕事が終わった人は帰ってもいいという空気には、なかなかなりづらい。

そんな日本企業において、短時間で仕事を終え、副業先でも残業できるような、そんな「面(つら)の皮の厚い」社員がどれぐらいいるだろうか。

上司や先輩、部下や後輩、誰もが認め、リスペクトし、

「あの人ならしょうがない」

と思われるぐらいの社員か。それとも、まったく空気が読めず、

「あいつならしょうがない」

と言われる、そんな社員だけだろう。つまり、どちらにしても、残業上限規制に引っかかることなく副業までできる社員など、組織に一人いるかどうかの”逸材”のみだ。

■なぜ副業に反対するのか?

私は正直なところ、副業には反対だ。キャリアの複線化を目的として、別の業務スキル、技術を磨いておくのは賛成だが、それは本業に打ち込むことによっても可能だ。

しっかりと本業で結果を出し、会社に貢献する。そして結果的に多様なスキルを身につける。そちらの道を模索したほうが速いし、確実だろう。副業などしなくても、キャリアの複線化は可能だ。

いっぽう副業の目的が「稼ぎたいから」であるなら、きわめて残念だ。本業に打ち込んだほうが確実に稼げるに決まっているからだ。

月単位や年単位で考えるならともかく、生涯年収で考えたら、本業に打ち込んだほうがいい。たとえ転職を何度か繰り返したとしても、そのほうがいい。

とくに若く、経験の浅い人は、いろいろな仕事に手を出すものではない。意識が分散し、じゅうぶんに技術を習得できない。できたとしても、いずれRPAやAIに置換されるような水準の低い技術の習得ぐらいだ。

だから、生涯年収で考えたら稼げなくなるのだ。人間にしかできない高度な技術が身につかないからである。

最悪なのは、時間単位で働くことだ。時間単位で働いていると、結局は労働時間を延ばさないと稼げなくなる。こうなったら、いったい何をやっているのかわからない。

私はそのような状態に陥った「ビンボー&タボー」なサラリーマンをたくさん見てきた。

だから、もしどうしても複数の会社で働きたいのなら、正社員にならずに挑戦すればいいと言っている。もしくはリスクをとって起業し、いろいろな企業で自由に契約して働けばいい。「副業」といった、中途半端なスタイルで働いていると、覚悟も持てないし、本人にとっていいことなどない。

会社にとっても、もちろんメリットは薄い。

欧米のようにジョブ型雇用とし、ジョブディスクリプション(職務記述書)どおりに働いてもらうというスタイルをとればいいだろうが、しかし現実にはそれも難しい。

日本企業は総じて「人」をマネジメントすることに慣れ、「ジョブ」をマネジメントすることに慣れていないからだ。

上司もそのような副業部下に対し、「育てたいという覚悟」を持つことができないだろう。本人も覚悟がないのだから、どう考えても双方にメリットはない。共倒れになる可能性があり、私はおススメできない。

副業をする人の「働きすぎ」まで、会社は監視している余裕はないのだ。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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