■「半沢直樹」の何をおもしろがるか?

「いやァ~。古い。あの古さがハンパなく面白い」

と、メガバンク出身の金融コンサルタントが言うと、同僚の会計士も、

「専業主婦と小料理屋の女将だけで、女性がほとんど登場しない。昭和の世界観がすごい」

と苦笑した。

ソフトバンクや楽天といった大手IT企業ならともかく、金融機関はすでに力をなくしつつある。もちろん実際には、巨額の案件を取り仕切るパワーはあるだろうが、世間はそう見ていない。だからこの脚本、設定は苦しい。

就職人気ランキングでは上位に名を連ねていたメガバンクも今は昔。メガバンクだけが順位を落としているのではなく、金融業界全体で人気が低下している。

51歳の筆者でさえ、観ていて気恥ずかしさを覚えるのだから、20代、30代の会社員がドラマ「半沢直樹」を観て共感することはあまりないだろう。

新シリーズとなった「半沢直樹」は、最高視聴率42.2%を叩き出したモンスタードラマの続編。7年ぶりの新シリーズであるし、原作『ロスジェネの逆襲』『銀翼のイカロス』もずいぶん前の作品だから、仕方がないか。

■「出世」以上に古い言葉、それが……

私が「半沢直樹」の初回を観ていて、最も違和感を覚えたのは「左遷」という表現だ。時代劇の「島流し」のように受け止めればいいのだろうか。

営業部長の伊佐山泰二が、半沢直樹をさらに地方へと左遷させようと画策する様は、滑稽極まりない。

テレワーク普及で「転勤」激減! 引っ越し業者はどうなる?でも書いているが、私はずいぶん前から働き方改革時代に突入すると「転勤族」や「転妻(てんつま)」という表現は死語になると予測してきた。

そして新型コロナの影響でテレワークが急速に普及していく現代、「転勤」そのものも激減し、「単身赴任」も死語になると考えている。

ちなみに「左遷」というのは、「出世」以上に現場では聞かない言葉だ。本人が望まない転勤でさえ、多くの企業が気を遣っている現代なのに、「左遷」だなんて時代遅れもいいところである。

前作では、近藤直弼が出向先(いわゆる左遷)が根室に決まると、根室市民から大きな反発が起こった。近藤を窮地に陥れるために、常務の大和田が画策し、飛ばした先が根室なのだからだ。

「あんなところに飛ばされて、可哀想に」

と視聴者に思わせる表現が随所に出てくる。根室市民の胸中は穏やかではなかっただろう。

とはいえ、現代であれば、左遷されてもテレワークがあるか。

東京にいながら、地方の子会社で働けばいいのだから、敵対する相手をどん底に突き落とす手としては、「左遷」はあまりに威力がない。

前作の「半沢直樹」では、家族ともども慣れない土地に引っ越さなければならなくなる銀行員の悲哀をうまく表現できただろう。だが、時代はあまりにも急速に変わった。

DX(デジタルトランスフォーメーション)の力を借りれば、左遷だろうが何だろうが、何も辛くないだろうし、子どもが東京の学校へ通いつづけたいなら、田舎に引っ越したあと、オンラインで授業を受ければいい。子どもの発育には、そちらのほうがいいかもしれないのだ。

また、銀行のやり方が気に食わなければ、いっそのこと辞めて起業すればいいではないか、とも思う。本当に実力があるのなら、それぐらいできるだろう。

私は現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントだ。数字を厳しく追及するので、経営者や銀行員との関係が深い。やはり現場で接していてわかるが、銀行員は頭がいい。30代でも40代でも、一般企業の同世代と比べれば格段に頭がキレるし、時代の波をうまくとらえる洞察力も持っている。

だからそんなに顧客を思うのであれば、沈みゆく豪華客船を降りてクルーザーに乗り換えればいいのだ。

■高校生の息子が「半沢直樹」を観た感想は……

SBIや楽天といった大手ネット銀行や、大手ネット証券会社でさえ、フィンテックの台頭によって苦境に立たされている。だからSBIホールディングスは生き残りをかけて「地銀連合構想」で仕掛けている。

みずほフィナンシャルグループも自前主義を放棄し、ソフトバンクの「PayPay」(ペイペイ)と連携することを明確に打ち出した。

リアル店舗を持つ大手の銀行や証券会社は、もうキープレイヤーではなくなっている。すでにもう、力がないのだ。

原作者の池井戸潤氏は三菱銀行出身で、古き良き時代を知っているだろう。だが、もうその時代の感覚は通用しない。だから「withコロナの時代」において、この「半沢直樹」というドラマは、配役で狙っているように【時代劇】なのである。

私の父が、よく「水戸黄門」や「大岡越前」を観たように、私のような50代前後の経営者や会社員が、古き良き時代を懐かしむために観るのが「半沢直樹」なのだ。

高校2年生の息子も、一緒に「半沢直樹」を観ていた。しかし途中で、

「こんな会社、まだ日本にあるの?」

と笑いながら言った。ドラマの演技でなく、脚本がギャグだと思ったのだろう。

「あるわけないだろ。でも……」

と私は少し考えて、

「テレビ局は、まだこんな古い体質なのかもしれない」

と、こう答えた。すると息子は、

「ああ、そうかもしれないね」

と言い、「半沢直樹」に関心をなくした。そしてスマホでYouTubeを観はじめた。

メガバンクも、テレビも、もう業界の頂点には君臨していない。IT後進国と揶揄され、衰退途上国になりつつある日本の悲哀を観るには、「半沢直樹」はいいセンスを出していると思うが。