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出勤者「最低7割減」が困難であるこれだけの理由と実現させるための発想

横山信弘経営コラムニスト
「最低7割減」「極力8割減」は達成できるのか?(写真:アフロ)

■「SMARTの法則」で検証する

安倍首相が出勤者を「最低でも7割減、極力8割減に」と強く要請したのが、4月11日である。

対象は、「緊急事態宣言が出ている7都府県のすべての企業」だ。

おそらく企業経営者であれば、このような目標設定はしないだろう。きわめて曖昧な目標だからだ(比率を目標にすると、めざしにくいのだ)。

では、どうすればいいのか。

私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントだ。目標の立て方の、基本中の基本の「法則」をここで紹介し、どういう目標にすれば修正したほうが達成率が上がるか書きたい。

その法則とは「SMARTの法則」だ。有名な法則だから、ご存じの方も多いだろう。この法則に沿って、「7割減」の目標の立て方にどんな問題があるか検証し、どう修正すべきかを書く。

■「具体性」に欠ける目標だ

まず「SMART」とは、以下の頭文字をとった言葉だ。それぞれの意味を記す。

・Specific:「具体性」

・Measurable:「計測可能性」

・Achievable:「達成可能性」

・Relevant:「関連性」

・Time-bound:「期限」

まず「Specific(具体性)」の切り口から考えたいが、まず目標が「比率」になっていることからして具体性に欠けると言えよう。

実際にやってみればわかるが「比率」はめざしにくいのだ。

たとえばこのケースで言うと、対象が100社の場合、すべての企業が7割減とすればいいのか。それとも100社のうち70社は出勤停止に、30社は出勤OKにしていいのか。わかりづらい。

そもそも、それぞれの社員数が異なるため、単純に「70社NGで30社OK」では「7割減」は達成しないし、テレワークを実施できない企業も多いわけなので、自宅待機や休業させて出勤者を減らすのか。それともテレワークできるのに実施していない企業に対策をとってもらうのか。

「すべての企業で7割減」という目標なのだから、とにかくそれぞれの企業、それぞれの個人が、何をどうしていいのかまるでわからない。企業でいえば「全社で生産性を2割アップさせよう」と言っているようなものだ。

まさに具体性に欠ける目標である、ということだ。これでは達成しない。

■「期限」が明示されていない

次の「Measurable(計測可能性)」はどうだろう。

グーグルは、131カ国の人の移動状況を把握できるレポートを公開した(情報は匿名化されている)ようだし、日本も携帯電話の位置情報を収集し、そのビッグデータをもとに分析して推計している。

「移動者」の総数を割り出すことはできても、「出勤者」を特定することは難しいかもしれない。ただ、移動する者の中の「出勤者」の配分などを考慮すれば、ざっくりと「7割、8割ぐらい減っているか」ぐらい推計することは可能だ。

「Achievable(達成可能性)」はどうか。

私は「絶対達成」のコンサルタントであるので、この「達成可能性」を最も重要視する。

どんな経営目標も絶対に達成できるかというと、そんなことはない。その企業のポテンシャルやマーケットの概観を考慮し、この目標なら達成可能であろうと判断したら、絶対達成させるために、経営リソースをどう配分するかを期限から逆算して考える。これが私たち外部のコンサルタントの役目だ。

もし達成可能性が低いと判断したら、目標の水準や期限を経営者と協議して修正してもらうことも多い。

では、今回の「最低でも7割減」は達成可能か? もちろん可能だ。ただ「期限」が明示されていないことが気になる。

「Relevant(関連性)」はどうか。

理論疫学の西浦博教授(北海道大学)が、「8割減にできれば新たな感染者は大幅に減少する」と指摘している(7割減では抑制まで長期に時間を要する)。

したがってこの目標は、本来の目的を果たすうえで「関連性」が高いと言える。

「Time-bound(期限)」については、先述したとおり明示されていない。緊急事態であるから、たとえば4月17日までに「8割減を達成する」とし、以下のように日々カウントダウンするぐらいしてもいいだろう。

・4月13日(月)までに60%減

・4月14日(火)までに65%減

・4月15日(水)までに70%減

・4月16日(木)までに75%減

・4月17日(金)までに80%減

そして、この目標に対し、どれぐらいの実績だったのか。日々公表するのだ。毎日どの地域で感染者数が何人増えたかという「結果」ばかりを公表しても、不安をあおるだけで、何も実現しない。

重要なのは、結果ではなくプロセスなのだ。明瞭なプロセスを設計するためにも、期限は重要なファクターだ。

■誤解を与える目標を立てると、機能しない

まとめると、最も重要なポイントは「具体性」である。

関西企業、オフィス出勤7割減急ぐ ダイキンは8割減目標

の記事にもあるように、多くの企業が「最低7割減」に向けて努力をしている。

しかしすべての企業で「最低7割減」なのだから、企業単位で「7割減」「8割減」をめざしても達成できない。

「わが社は出勤7割減になっているから、社会的責任を果たしている」

と胸を張られても困るのだ。

だから「4W2H(いつ、どこの、誰が、何を、どれぐらい、どのように)」の切り口で、具体的な目標を分解して表現したほうがいい。はっきりとした期限とともに。

昨年4月に働き方改革関連法が施行され、「残業上限規制新ルール」が適用スタートとなった。しかし、いまだに遵守できていない企業が多い。それどころか、そもそも守ろうとする気がない企業も散見される。

法律に定められてもこの体たらくだ。企業の主体的な行動などに任せておけない。

なので「8割減にできれば新たな感染者は大幅に減少する」という西浦教授の言葉を信じるなら、本気で目標達成させるための具体的なメッセージを政府は発信すべきだ。目標の立て方によって、達成率も達成スピードも大幅に変わるのだから。

※現在実施中のアンケートを確認してみよう!

緊急事態宣言、あなたの会社はどう対応?(Yahoo!ニュース みんなの意見)

実施期間:2020/4/6(月)~4/16(木)

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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