「時短レシピNG」の社長から教えられた、日本企業の生産性が上がらない理由

大事なことはQOL(クオリティ・オブ・ライフ)をアップすること(写真:アフロ)

■「時短レシピ」は貧しい味?

「妻が『時短レシピ』に凝っている。そうなってから、食卓に豊かさがなくなった」

知人の社長がそう言うので、私は耳を疑った。

「具体的に、どういうことですか?」

と聞くと、

「調理時間の長さなんてどうでもいいでしょう? 短くすることを目的にして作った料理なんて美味しくもなんともない」

と返ってくる。乱暴な口調ではなく、しんみりとした感じだった。

「専業主婦なのに、忙しいとばかり言っている。何に時間をかけているか、知ってはいるが」

遠くを見るような目でそういう社長に、私はこう言った。

「奥様は、何に時間をかけているのですか」

と。

■ なぜ不平・不満が増えるのか?

その社長が言うには、将来、自分でも稼ぐことができるようにと、サイト制作の通信教育を受けているとか。勉強のために、セミナーを受講しに1日外出することもあるようだ。

「まだ40代だから、いろいろ挑戦したいのはわかる。だけど、自分がやりたいことならともかく、稼ぎのために、というのが気になるんです」

と社長は言った。

「その通信教育やセミナーは、けっこうお金がかかるんです。時間もかかる。起業家や、副業を希望する会社員向けなので」

つまり社長の奥様は、WEBサイトの制作スキルを手に入れるために、日ごろから時間とお金と労力をかけている、ということだ。だから食事も簡単なものになるし、

「作ってるんだから文句言わないで食べて」「イヤなら自分で作ればいいでしょう?」

と不平・不満を言うことも増えたそうだ。

■ 大事なのは「QOL」だ

「ビジネスでも、そうですよね。時短、時短って言いますが、時短を目的にすると、組織の人間関係が悪くなります。お客様へ付加価値の高いサービスもできなくなる」

「ああ、本当に。その通りだ」

社長は、しみじみと言った。

何のための働き方改革なのか。「働き方改革」は単なる手段だ。働き方を変えることが目的ではない。「ワークライフバランス」という言葉もそうだ。バランスを整えることは手段であって、目的であるはずがない。

大事なのはそこで働く人の「QOL(クオリティ・オブ・ライフ)」――人生の質を上げることだ。それこそが重要である。社長が言うように、時短の結果、豊かな食卓が奪われるのであれば意味がない。

「妻は料理が好きなんだよ。だから、好きでもない仕事をさせて、家庭がギスギスするなら意味がない。稼ぎが減ったら、生活のレベルを下げればいいだけじゃないか」

■ 残業できずに辞めた税理士

業務効率化、生産性向上、時短……。

働き方改革の時代となり、日本の企業はかつてないほど長時間労働の文化をモディフィケーションしろ、と政府や世間から圧力をかけられている。

その結果、昨今は労働時間を短くすることが目的になり、社員の働きがいや、お客様へのサービスの質がないがしろにされているケースが目立つ。

私の知人で、残業をさせてくれないから会社を辞めた税理士がいる。税理士の資格をとったばかりで、自分の成長のためにしっかり仕事をしたいのに、会社の方針で、定時を過ぎると強制退社させられるという。

「家庭を持ったら早く帰宅したい。だからこそ、まだ20代のうちに力をつけたいのに、やらせてもらえない」

と不満たらたらだ。

営業時間外は、一切の受付をやめた研修会社もあった。夕方5時半以降になると、翌日まで問い合わせも何もできなくなる。名刺に書いてあった担当者の電話番号にコールしてもスルーされる。

「AIチャットボット」まで導入しろとは言わないが、人が対応できないなら、せめて自動音声サービスを整備するなど、何か手立てを考えるべきだろう。何の創意工夫もすることなく、単に「時短」だけするなんて、対応が雑すぎる。

すべて「相手目線」の欠如から発生する副作用と言っていいだろう。企業がどこに目を向けているかが、よくわかる出来事だ。

■「時短」は小手先のテクニック

私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントだ。だから短期思考に陥る「時短」テクニックでは、物事の根本は解決しないと知っている。つまり、

・朝一番にタスクを書き出す

・Todoリストをうまく活用する

・資料のフォーマットを統一して一元管理する

・メールの定型文をテンプレート化する

・パソコンのショートカットキーを覚える

……といった、いわゆる「小手先」の時短テクニックでは、企業の生産性が上がることはない。業務の棚卸しをし、ひとつひとつの業務を吟味しても埒が明かない(当事者が実施する棚卸し作業は、本当に意味がない)。

個人の業務時間が毎日30分~1時間程度削減される程度だ。今の日本企業は、体質からして、それぐらいのテクニックで生産性を上げられるほど健全性がない。

■ やり方ではなく「あり方」

本当に生産性を高めるためには、「視座」を高めることが最も大事な点だ。最上位レイヤーから、企業全体を眺めることだ。

この企業は何のために存在するのか(ミッション)。そして、どのような姿を理想としているのか(ビジョン)。そして、そうなるために、所属メンバーはどう考え、どう行動すべきなのか(バリュー)。

このミッション、ビジョン、バリューが、経営理念を構成するファクターだから、これよりも上の概念は考える必要がない(理念を変える場合は別だが)。

そこから逆算し、その目的のための経営リソースを割り出して、限りある時間の中に効率的に配分する。これがいわゆる「マネジメント」であるわけだから、これをしっかりやれば、大抵の場合、キチンとおさまるはずだ。

小手先の「時短」テクニックを繰り返していると、冒頭の社長ではないが、なんとなく豊かさを感じられなくなっていく。大事なものを忘れてしまう。時間を短縮しても、短縮しても、ずっと満足できないまま仕事や生活をしていくことになる。

今の時代、仕事のやり方ではなく「あり方」が問われているのだ。

物があふれる時代だ。それと同様に、ノウハウもあふれる時代だ。物を集めれば集めるほど、ノウハウを集めれば集めるほど、ノイジーな時間を過ごす率が高くなる。我々はますます本質を見抜く力が試されている、と言えるだろう。

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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