人を動かすには「1時間は話せ」 どんな人をも動かすコミュニケーションの考え方

余裕で「1時間」ぐらい話せるか?(写真:アフロ)

■1分ではなく「1時間」話せるか?

「1分で話す」ほうがいいのか? 「1時間は話せる」ほうがいいのか?

昨年出版された伊藤羊一著「1分で話せ」は、30万部を超える大ベストセラーとなりました。今もずっと売れつづけている人気著です。

シンプルに短く話す技術は、昔から重要と言われてきました。エレベーターに乗っている間に投資家を口説く技は「エレベーターピッチ」と呼ばれ、世界中の起業家が日々鍛錬し、この技を身につけようとしています。

ただ、情報を伝えるためならいいですが、相手を動かすためなら、話は長いほうがいい。相手の心を動かすには、「熱量」が大事だからです。

■ 気勢を上げても、何も伝わらない

ただ「熱量」といっても、声を大きくしたり、表情を険しくしたら相手に伝わるわけではありません。

たとえば営業が、お客様に対して、

「ぜひ、お願いいたします。この通りです!」

と頭を下げたら、熱意は伝わるでしょうか。かえって薄っぺらく感じる人のほうが多いことでしょう。気勢を上げているだけで、情熱が伝わってこないのです。

人に頭を下げるエネルギーがあるなら、もっと別のところに使ったほうがいいのです。

誰かと接しているとき、淡々とした語り口なのに、ほとばしる熱意を相手から感じた経験は、ありませんか。それは、うるさい熱さではなく、静かな情熱のようなものです。

具体的に書いてみましょう。以下の会話文を読んでみてください。研修会社の営業と、窓口になったお客様との会話です。

「御社の組織に、課題はありませんか?」

「そりゃあ、ありますが」

「当社の研修を、ぜひご検討してください。とくに最近はロジカルシンキングの研修が大人気です。御社のあらゆる問題解決に役立てることができます」

「はあ」

「いかがでしょうか」

「わかりました。検討しておきます」

お客様の反応は、とても淡白です。当然でしょう。たとえ快活な口調で、営業らしく爽やかに勧められても、言葉の裏に情熱が感じられません。軽妙すぎるのです。

そもそも、ロジカルシンキングについて、お客様が詳しく知らなかったら、意思決定しようがありません。興味も沸かないし、意思決定する判断材料もありません。

■ 2種類のコミュニケーション

コミュニケーションには、言語的コミュニケーションと非言語的コミュニケーションの2種類があると覚えておきましょう。

そして相手の記憶に残るのは、言語よりも非言語的な情報です。話し手が何を言っているのかわからなくても、印象が「快」か「不快」かは、意外と忘れないものです。

人は往々にして感情で意思決定します。心の琴線に触れるようなフレーズがあればいいですが、そうでなければ、単なる言語的情報だけでは、なかなか心は動かされないもの。

それでは、もし、先述の営業パーソンが、次のように言葉を足していったらどうでしょうか。最後まで目を通し、想像してみてください。

「よろしければ、なぜロジカルシンキングが、組織の問題解決をするうえで重要か、少しご説明させていただいてよいですか?」

こう言われたら、お客様は、たいていの場合「なら、どうぞ」と答えるでしょう。

「それでは、お話をさせていただきます」

こう言ってから、この営業が、今の時代、日本企業における代表的な問題点を統計データを持ち出して説明しはじめたら、どうでしょうか。しかも正しい理論と手順で解決しないと、どのような結末を迎えるのか、多くの事例とともに解説しはじめたとしたら。

お客様はちょっと聞く耳を持つかもしれません。

さらに、

日本の学校教育は、「答えのある問題」を中心に扱うが、社会人になると「答えのない問題」に直面すること。そして、「答えのない問題」を解決するためには、筋道を立てて推論し、自分なりの言葉で主張できるようになることが大事であると、理路整然と話したらどうでしょうか。

さらに、

「答えのない問題」を解くためには、仮説の立て方が重要で、その仮説の精度を上げるためには、理論よりも技術が重要で、その技術はトレーニングでしか体得できないと、これまた筋道立った説明で話したらどうでしょうか。

お客様が「へえ」とか「ふうん」とか言って、関心を持って聞いていたら、この営業パーソンの「喋り」は止まらないことでしょう。

問題は「4つのW」と「2つのH」で掘り下げると解決策を導きやすくなるといった話であったり、3つのフレームワークを使うだけで、たいていの組織の問題は見える化できる、といったことを言われたら、どうでしょうか。

お客様は唸るかもしれません。そして、

「よくわからないけど、あなたが勧める研修が、わが社にも必要な気がしてきた。よかったら、また別の日に来てくれないかな。人事部の部長に引き合わせるから」

と言って、興味を示す可能性はゼロではないでしょう。いったんは「検討します」と、つれない返答をしていたにもかかわらず、です。

ポイントは、「よくわからないけど」と、お客様が言っていること。これは、営業パーソンの熱量に気圧され、心を動かされてしまった証拠を示しています。

人事部の部長から、

「なぜ、その研修会社の営業に合わなくちゃいけないんだ」

と問い詰められても、

「いいから会ってもらえませんか。会えばわかると思います」

としか説明できません。言語的な情報を、正しくキャッチしていないからです。

■ 熱量は「探求心」の大きさで測る

聞き手は、話し手のどんな情報から熱量を感じとるのでしょうか。

声のトーンや、語気の強さ、表情などからも受け取ることでしょう。しかし、実際には、それだけでは不十分です。話し手の言動の中に、強い探求心が垣間見えたときにこそ、より多く覚えるものです。

誰かから聞いた話をそのまま言っているのではなく、その知識や情報を深く掘り下げた過去が感じられると、無意識のうちに引き込まれます。

少しばかり、うまく話せなくてもいいのです。というか、うまく話せないほうがいいかもしれません。

魚類学者「さかなクン」の話に説得力があるのは、「TVチャンピオン」で5連覇するほどの知識があるからです。「さかなクン」の例でもわかるとおり、大事なのは話力ではなく知識の量です。圧倒的な知識量を手に入れれば、自然と探求心が芽生え、その探求心がさらに知識を欲するようになります。

さらに、膨れ上がった知識は、いずれ相互に化学反応を起こし、熱を帯びはじめます。ですから、少しでも相手が興味をもったら、スイッチが入って話が止まらなくなるのです。

人を動かすには、「1時間」は余裕で話せるぐらいの知識量を身につけましょう。知識は、知識を引き寄せますから、あとは知識の海に身をゆだねればいいのです。