トップダウン組織が自然とボトムアップに変わる「サクタス」の技術

(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

■ 働き方改革時代でも「バリバリ」

テレビドラマやテレビCMは、その時代を映す鏡です。

「24時間、戦えますか」というリゲインのCMが話題をさらったのは1988年。それから30年以上がたった現在、ドラマ「わたし、定時で帰ります」が好調な視聴率を記録しています。

「24時間、働けるか」「毎日定時で、帰れるか」という発想は、真逆のように見えます。しかし、どちらにも共通していることは、「バリバリ働く」ということ。

「わたし、定時で帰ります」の主人公――東山結衣(吉高由里子)は、自己中心的な人ではありません。周囲への気遣いもしながらバリバリと仕事をこなし、颯爽と定時で帰っていきます。だからこそカッコいい。

働き方改革の時代となり、社会のルールが変わっても、ダラダラ残業したり、グズグズ言いながら仕事をする人が、お茶の間から支持されることはないのです。

■「サクタス」とは?

ところで、バリバリ、ダラダラといった表現を「擬態語」と呼びます。その場の様子や、人の感情を表現するときに私たちはよく使います。

この擬態語ですが、使い方によって、人の感情に強い影響を与えることを知っているでしょうか?

たとえば、ダラダラ、グズグズ……という表現は、耳にするだけでネガティブな感情を生みます。いっぽうバリバリ、ガンガン……という表現は、人を奮い立たせる力があります。

私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントです。15年以上の現場経験において、私もいろいろな擬態語を使ってきましたが、仕事の生産性をアップさせる擬態語は「さくさく」です。

「バリバリ働け」「ガンガン行こう」「もっとガツガツしろ」という表現より、

「さくさくタスクを処理しよう」が最も万人向けです。

軽やかで、スピード感があるからでしょう。

さくさくタスクを処理することを私のコンサルティング会社では「サクタス」と呼んでいます。成功を意味する「サクセス」と似ているし、何より語感がいいので、気に入って使っています。

使い方としては、

「この仕事を、サクタスでよろしく」

「今日は1日、サクタスでいこう!」

「今週はサクタスウィークにします」

という感じ。馴染みのある言葉ではなく、新しい表現をチームの共通言語にすることで、雰囲気は変わっていきます。言葉は、人の思考プログラムや、組織文化に強い影響を与えるからです。

■ サクタスは「トップダウン」が基本

超高速で仕事を片付ける「サクタスチーム」のつくり方で書いたとおり、さくさく処理するタスクは、サクタスミーティングで、プロジェクトをタスク分解するところからスタートします。

目の前のタスクは、どのプロジェクトに属していて、そのプロジェクトは、どのような大プロジェクトの一部なのか。タスクの上位階層をたどっていかないと、タスク処理が目的となってしまいます。

いわゆる「手段の目的化」ですね。私たちはこのような組織をたくさん見てきています。

手段を目的化してしまうと、どんなに仕事をしても、まるで組織がよくなっていきません。業績が上がらないし、残業も減らないし、メンバーの意欲も高まりません。

ですから目的が「サクタス」だと、たいていうまくいきません。

最初のうち、「サクタスしよう!」とリーダーが言うだけで、「わかりました。サクタスします!」と答えていたメンバーたちも、目的がわからないタスクを片付けても、意味がないとわかってくるからです。だから、だんだんノリが悪くなっていきます。

「何がサクタスだ」「どんなに処理しても、全然タスクがなくならない」

このように不満を募らせていきます。雰囲気がよくなるどころか、「たくさんタスクを処理させられるだけ損だ」と思われるようになっていきます。

ですから、上位概念である「目的」をハッキリさせることが基本です。経営的視点から、どのような課題があり、その課題解決には、どのようなプロジェクト(タスクの集合体)をする必要があるのか。これを明らかにしていく手順が不可欠です。

■ サクタスは強力に「ボトムアップ」を推し進める

私どもコンサルタントがクライアント企業に入り、サクタス文化を根付かせようと試行錯誤をつづけていると、トップダウン型だった組織が、ボトムアップ型に力強く変容することがあります。

サクタスの文化が中途半端に根付いたケースではないですが、末端のメンバーまでしっかり浸透したら、劇的に組織が変わるのです。

その変容プロセスを、順番に解説していきましょう。

まず、組織にサクタス文化が芽生えると、メンバーひとりひとりにタスクを高速に処理する習慣が身につきます。組織目的に合っているかどうかは関係がありません。

ランニングと同じです。

経験がある人ならご存知でしょう。ランニング習慣のない人が、何らかのきっかけで毎日走るようになると、どんどんハイな状態になっていきます。

「雨が降っていたら走るのをやめよう」――と決める人は、まだランニング習慣が身についていない人です。

本当に習慣化した人は、「マスト」が「ウォンツ」になります。「走らなければならない」から「走りたい」という思考パターンに変わるので、よほど強い雨でない限り、無理してでも走るようになります。

これと同じように、高速にタスク処理を繰り返していると、いつの間にかサクタスが楽しくなっていきます。

一種の「ワーカーズハイ」です。(ワーカーズハイとは、テンションが上がっている一時的な状態を指しますので、仕事中毒のワーカホリックとは違います)

組織内に「ワーカーズハイ」の人が増えれば、集団同調バイアスがかかってきます。すると、他のメンバーの調子も上がってきます。

みんなで力を合わせ、次から次へとタスクが処理されていきます。過去とは比較にならないほど、どんどん仕事が片付いていきます。

みんなで楽しくランニングしていると、ぐんぐんタイムがよくなっていく現象と似ています。

そんな「ハイ」の状態で仕事をしていると、いずれ処理すべきタスクが組織内になくなります。

■「何か手伝いましょうか?」と言いだす部下たち

以前なら、上長から指示が出るまで待ったり、いま処理しているタスクをゆっくり片付けようと考えたかもしれません。

しかし、一度スピードに乗った重い球はそう簡単に止まりません。一人ならともかく、組織全体が高速にサクタスしている状態ですから、慣性の法則が働き、急にスピードを緩めることができません。

タスクが枯渇してしまったことに不満を漏らしはじめるメンバーも出てきます。すると、「何か手伝うことはありませんか」と上司は声をかけられるようになります。

「課長、あの新規開拓プロジェクトはどうなったんですか。リスト作りとか、業界分析とか、やることがあるなら手伝いましょうか」

「部長から言われてたじゃないですか。工程表、まだできてないんでしょ。私がたたき台を作りましょうか」

このように、進言してくるのです。

しかし、まだその仕事がプロジェクトの状態であれば、タスク分解してほしいと促されます。

「新規開拓で、まずやるべきことは何ですか?」

「ええっと、まずはエリア分析だな」

「業界分析じゃないんですか」

「それよりもエリアだ。当社はエリア戦略に強いこだわりを持っている。それから工場の規模を調べる。そうすると、開拓すべきお客様の属性が決まってくる」

「わかりました。では、その手順で私とAさんとで、やってみます」

「悪いな」

「明日までに終わらせますので、また明日の夕方に報告します」

「えっ、明日? はやいな……。あ、ありがとう」

■ なぜ「サクタスチーム」はボトムアップになるのか?

サクタス文化が根付いた組織は、爽快な気分でタスク処理してきました。当然、これまでの流れを変えたくありません。したがって、素早く処理すべきタスクがないと、だんだんペースが昔のように遅くなるのでは、という恐怖を抱くようになります。

グズグズ言って、タスクを処理しないまま放置していることを、私たちは「グズタス」と呼んでいます。

処理すべきタスクがなくなると、昔のようなグズタスに逆戻りするかもしれない。それだけはイヤだ。ストレスがたまるし、何より仕事が楽しくない。

それがわかっているので、タスクを求めるようになるのです。すると、動かなかったプロジェクトが動きだします。

「暇だとつまらない」「さくさく仕事を片付けているほうが楽しい」とメンバーが感じるようになったら、組織は大きく動きだすことになります。