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これからの時代に必要な「3つ目のマネジャー」とは?

横山信弘経営コラムニスト
俯瞰力をつけるための「鳥の目」(写真:アフロ)

■ ますます求められる論理思考力

これからの時代は、ますます論理思考力が不可欠です。とくにマネジメントを担う者が思い付きで仕事をすると、取り返しのつかないことになるでしょう。人や時間といった経営資源が減りつづけるため、生産性の高い組織運営が、以前よりも格段に増して求められているからです。

しかし論理思考力といっても、知識だけ身につけても使えなければ意味がありません。

大事なのは、筋の通らない言い分や、一貫性のない議論に触れたとき「なんか違う」「そうではない気がする」と感覚的に受け止められるかどうか。

いったん立ち止まらないと、考えることができないからです。

このように、論理的におかしい、つじつまが合わない、などと瞬時にわかる感覚を、私は「絶対論感」と名付けています。

(※ 参考記事:あなたがロジカルかどうか試す「絶対論感テスト」

■「絶対論感」とは

「絶対論感」という言葉は、もちろん「絶対音感」から来ています。

「絶対音感」の持ち主は、音の高さ、音の長さ、音の強さ、音の色彩等がすぐさま識別できると言います。

では、「絶対論感」の持ち主はどうかというと、「目の付け所」が異なるのです。「視座」や「視点」と言えばわかりやすいでしょうか。

「絶対論感」の持ち主は、柔らかに視点を移動させられるのです。具体的には、視点の高さ、視点の深さ、視点の長さを状況によって変えて状況判断することができます。

ただし、「絶対論感」の持ち主は、体で感じているだけですから、その違和感を言葉に変換できません。ですからロジカルシンキング研修などを受けると、感覚を言語化できるようになり、大きな武器にすることができます。

視点の高さ、視点の深さ、視点の長さは、それぞれ、鳥の目、虫の目、魚の目でたとえて解説します。

■「鳥の目」は視点の高さ

まず、視点の高さを表現する「鳥の目」を解説していきましょう。

鳥の目とは、上空から全体像を見る目のことです。俯瞰力、大局観をつけるためには、不可欠な「目」と言えます。

誰かの長い議論を客観的に聞いているだけで、議論の全体像を頭に描くことができます。そして、何が議論の論点なのかを見つけ出すことが瞬時にわかるのです。

また、全体像を描くために欠けている情報も発見できるので、効果的な質問や調査を繰り返すことができます。

とくに、組織トップには不可欠な目です。

枝葉の話にとらわれることなく、本質的な問題は何か、いま組織にとって最も大事なことは何かを思い返す役割を持っています。

問題解決でいえば、問題とは何か? どこに問題があるのか? を特定するプロセス。この問題特定プロセスを省略せず、ヒラメキで解決策を見いださないことで、効率よく問題を解決することができるのです。

たとえば、体調が悪いと訴える人に対し、「休んだら?」「病院へ行けば?」という、思いつきの解決策を提示しても意味がありません。

「お腹が痛いのか」「気分が悪いのか」「風邪をひいたのか」。どこに問題があるかを、まず特定することが先です。

企業でいえば、利益が上がっていないという問題に対して、「キャンペーンをしよう」「コストを削減だ」と思いつくままに解決策を出すのではなく、「売上」「経費」と分解し、売上を構成する要素、経費を構成する要素を見える化し、全体像をまず掴むことです。

そして、「売上に繋がっていないイベント業務に、多額の広告費を使っている営業所が全国で3ヵ所ある」などと、細かく特定していくことが大事です。

■「鳥の目」は、だいたいの目安でいい

鳥の目は、全体の外観をとらえること、おおざっぱな地図を頭に描くことに使います。全体像(鳥瞰図)をとらえることで、上空から俯瞰して眺めることができるようになり、問題の箇所に”あたり”をつけることができます。

先入観によって、事前に問題を決めつけている場合、「絶対論感」がないと全体像を描くプロセスを省きたくなります。

全体像なんて掴まなくても、問題はだいたいわかってるんだから、と直感やヒラメキに頼ろうとします。

しかし、事実と認識は異なります。たとえ結果は同じだとしても、網羅的に客観的データを集め、全体像を描く習慣をつけることが問題特定プロセスには大事です。

■ 迷ったら、さらに上空をめざす

地上に近すぎて、どこに山があり、川があり、平野があるのか、わかりづらいのであれば、いったん地球の縁(ふち)が視野に入るぐらいに空高くまで飛ぶことをお勧めします。

日常生活であれば、自分にとって「幸せとは何か」「家族とは何か」「健康とは何か」。企業経営であれば、理念を形作る「ミッション(使命)」「ビジョン(あるべき姿)」「バリュー(行動規範)」という問いが頭を整理します。

経営理念などは、とても抽象度が高い。ですから、いったん、ここまで視座を高めれば、迷うことはありません。そこから少しずつ高度を落としていけばいいのです。

現状の全体像を知りたいのであれば、「3C分析」「ファイブフォース分析」「SWOT分析」「企業のライフサイクル」「バリューチェーン」といったフレームワークを使って整理しましょう。

ビジネスモデルや戦略の全体像をおおざっぱにつかみたいのであれば、「プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント」「アンゾフの成長マトリクス」「ビジネスモデルキャンバス」等を使います。

「絶対論感」の持ち主がこのようなツールを使うことで、全体像を把握するのに欠けている情報が何かを発見しやすくなります。

大事なことは、いったん空高く飛ぶこと(理念等の確認)。ここから降りていかないと、理念と事業モデル、戦略、行動計画などと整合性がとれなくなっていきます。

営業戦略や市商品開発、コスト削減プロジェクトを考えるうえでも、同じようにいったん空高く飛ぶことで頭が整理できます。

日々の業務の棚卸、組織の役割分担なども、たまに全体像を振り返らないと論点がブレるので、気を付けたいですね。

■ チャンクアップ・チャンクダウンを繰り返す

目の前の仕事に一所懸命になっていると、どこに「ムリ・ムダ・ムラ」があるかわかりづらくなります。

ですから先述したように空高く飛ばなくても、10階建てのビルの屋上ぐらいまでは飛んでみるのもいいでしょう。

「絶対論感」の持ち主なら、その塩梅も感覚的につかんでいることでしょう。

少し高いところから現在位置を見つめることで、仕事の工程スケジュールを見直したり、目標から逆算したアクションプランをゼロから作り直すきっかけにもなります。

ちなみに、視点をより上位に置くことをチャンクアップ。下位に落とすことをチャンクダウンと呼びます。

チャンクアップとチャンクダウンは、コーチングでも使われる用語ですから馴染みのある人もいることでしょう。

かたまっている頭をほぐす意味合いもあるので、日ごろからチャンクアップとチャンクダウンに慣れることです。たとえ思考の整理ができず迷子状態になっても、この習慣があれば慌てることがなくなります。

(※チャンク=塊の意味)

■「虫の目」は視点の深さ

先述したように、全体像をつかみ、問題の”あたり”をつけたら、その場所へ急降下します。鳥の目を捨て、虫の目を使って細部に目を向けるのです。

たとえば全体像を確認したあと、「売上に繋がっていないイベント業務に、多額の広告費を使っている営業所が全国で3ヵ所ある」という問題が明らかになったとします。

しかし、問題を特定したあと、いきなり解決策を導き出してはいけません。

たとえば、

「3営業所が使っている広告費を減らせ」

と、このように……。

問題を特定したあとは、原因を特定するプロセスへと移行すべきです。

有名な「なぜなぜ分析」をしてみましょう。問題に対して「なぜ」を問いつづけることで、原因を明らかにするフレームワークです。

実際にやってみましょう。

わかりやすいので、先述した、体調が悪い人の問題からいきます。体調が悪い箇所は「頭が痛い」と特定されています。それでは、この原因を特定していく流れを以下に記します。

「なぜ頭が痛いのか?」

「昨夜、ほとんど寝ていない」

「夫婦仲が悪化している」

「隣人との人間関係に悩む妻の相談に、乗ってあげなかった」

「なぜなぜ分析」を繰り返すことで、ある程度の真因がつかめたら、解決策を導き出すことは簡単です。

このケースでは、頭痛薬を飲むことでもないし、睡眠グッズを新調することでもありません。真因は隣人とのトラブルですから、これを解決することです。まずここから着手しなければ、本当の意味での問題解決に繋がりません。

それでは、以下の問題に対して原因を特定していきましょう。

「なぜ、売上に繋がらないイベントに多額の広告費をかけたのか?」

「3営業所では、コスト意識が低い」

「3営業所では、ルールが徹底されていない」

「3営業所に配属されたのは新人マネジャーばかりで、現地のベテラン社員に強く指導できていない」

「営業所に配属される前に、新人マネジャーに対する研修が行われていない。個人任せとなっている」

ここまで明らかになれば、「新人マネジャー研修の実施」が解決策のひとつになります。「広告費を減らせ」と命令するだけで、正しい問題解決にはなりません。

■ 行動に落とし込む

抽象的な表現を、具体化するときも虫の目を使います。

「新規開拓を積極的にやろう」

「ルールを徹底させよう」

というのはスローガンであり、正しいアクションプランではありません。「4W2H」「5W1H」などの切り口を使いながら、具体化させます。

「展示会に参加した50社に対して、フォロー電話を3日以内に終わらせよう」

「7つのマネジメントルールをスラスラ言えるようになるまで、毎日作業マニュアルを読み合わせしよう」

このように、数字を使って表現することが重要です。

また、プロジェクトをタスク分解するときにも虫の目が必要です。

たとえば「残業削減」「部下育成」などは、多くのタスクが集合したプロジェクトです。このプロジェクトの状態のままでは、物事が動き出さないため、細かい行動レベルに落とし込んだタスクに分解していくことが大事です。

■ 事実と認識を切り分ける

思い込みや先入観は、生産性の高い仕事をする際、とても邪魔な存在です。「現場」「現実」「現物」を確認するために虫の目は必要です。

事実と認識を区別するためには、客観的データを使うことです。

「年々、展示会の参加者が少なくなっていると聞いた。どうなってるんだ」

このように、社長が発言したとします。しかし、

「5年連続で展示会の参加者は減っており、5年で20%減少している。しかし当社が期待している役職者の参加率は5年前と比較して15%ほど増えている」

と、このようにデータで確認すると、別の解釈ができます。現場にいたスタッフも「積極的に質問してくる方も多く、年々参加者の質は上がっています」と言うなら、社長が心配するようなことはなさそうです。

■ データを鵜呑みにしない

事実と認識を区別するのにデータは重要ですが、データだけで現状を把握するのは危険です。

現物を手に取ったり、現場で働く人たちと触れ合うなど、実際に「五感」を使って観察することが大事です。

データを見るかぎりでは、取り立てて問題なさそうに見えても、スタッフと面談してみたら、表情が暗かったり、以前と比べてネガティブな発言が増えたりすることもあります。

虫の目を使って、洞察力を鍛えることが大事です。

■「魚の目」は視点の長さ

魚の目は、流れ(時間)を見る目のことです。

鳥の目と虫の目が静的なのに対し、魚の目は動的です。

鳥の目で問題を特定し、虫の目で原因を特定して解決策を導きだしても、それで終わりではありません。当然のことながら、期待通りの結果が出るまで動かなければなりません。

期限を設定し、期限から逆算して行動計画をつくることが大事です。時間軸を意識し、限られたリソース(人・モノ・カネ)を現実的に分配することです。この際に使うツールが「ガントチャート」等。

本プロセスを怠ると、単なる「絵に描いた餅」になります。

「絶対論感」の持ち主は、戦略だけ策定して、そのまま放置しているような組織には、強い違和感を覚えます。

■ 本当に論理的な人は柔軟性が高い

単なる頭でっかち、知識バカの人は、魚の目が欠けていると言えるでしょう。実際に行動しないからです。会議室で議論ばかりして、現場へ足を向けなければ、時代の流れがわかりません。戦略や計画だけ作って満足してしまう人は、この部類に入ります。

魚は自分も動きますが、周りの水も流れています。ですから、動いている人は、常に想定外の出来事と向き合っています。

「重要―緊急マトリクス」などを利用して、業務の優先順位を考えながら、柔軟に計画を見直していきます。環境変化によって事情が変化するためです。

状況次第では、遠回りすることも選択肢に入れます。マネジメントサイクルは「PDCA」のフレームワークを基本に、「モチベーションマネジメント」もしっかりやっていきます。

■ まとめ

冒頭に記したように、これからの時代、マネジメントを担う人には、ますます論理思考力が必要です。生産性を上げる取り組みが、以前よりもはるかに重要な因子となっているからです。

そのためには、鳥、虫、魚の3つの目を持つことです。「絶対論感」の持ち主は、知識とフレームワークで武装すれば、すぐに機能しますが、「絶対論感」がないなら、訓練して身につけましょう。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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