働き方改革で見直される「OJT」

現場での部下指導を徹底する必要性高まる(写真:アフロ)

■ 部下のために時間をとれなくなった上司たち

「1on1ミーティングって、効果ないですね。騙されました」

クライアント企業の会議室にて、ある営業課長にコソッと言われたのです。

「何かあったんですか?」

「ベストセラーの本を参考に、やってみたんですが、3ヵ月経っても何も変わりません」

そう断言する営業課長に、私は「無理もない」と思いました。

部下と1対1で行う定期ミーティング「1on1ミーティング」は、ここ数年、ベストセラーとなったビジネス書の影響で、企業の間に普及している。

たしかに、部下たちを集め、上司が一方的に話す会議よりも、1対1の面談のほうが、部下と正しく向き合うことができます。期初に設定した目標に対する進捗具合や、現場で起こっている問題点にも耳を傾けることができるでしょう。

1on1ミーティングを地道に続ければ効果があるはずです。

しかし、2019年4月1日から働き方改革関連法が施行され、時間管理にナーバスになるマネジャーが増えています。

「とにかく、時間がかかるんです。1on1ミーティングは。やってられません」

その営業課長はマジメで部下思いでした。しかし管理部からの「部下に長時間残業させたら、評価を落とす」という通達に頭を悩ませています。

■ 興味深い調査結果

2019年3月、日本全国の営業パーソンを対象に私どもは「日本の営業実態調査」を実施しました。3,000人以上の方に協力いただき、とても興味深い結果を目の当たりにしています。

どのような実態が明らかになったか、私なりの考察を書きます。

今回は、30項目以上ある項目のうちの、「部下育成」に関わる質問について抜き出してみましょう。

まず「部下への教育方法」という質問に対する回答は、圧倒的に「OJT」関連が多いという結果になりました。

集合型の教育である「OFF JT」と比べて、圧倒的に多い印象です。

(※ OJTとは、On-The-Job Trainingの略。上司や先輩が現場にて直接指導を行うことを指します。これに対して、職場から離れ、セミナーや研修を「OFF JT」と呼びます)

つまり、部下への教育は、ほとんどの企業において上司任せになっているということです。

にもかかわらず「マネジメントの不安」に関する質問には、ほとんどが「部下育成」に関することで、「会社・部門の方針と現場の板挟みになる」「会社・部門の方針がチームに浸透しない」などと比較しても、不安に占める割合が多いのです。

つまり、この実態を見る限りでは「今のやり方では正しく部下育成できない」と、多くのマネジャーが感じている、と結論づけてもいいでしょう。

やはり専門家による集合研修を織り交ぜながら、1on1ミーティングや現場でのOJTで部下指導することが理想です。

■ 現実的にできること

「1on1ミーティングを続けられないなら、OJTをおススメします」

冒頭の課長に、私はこう言いました。本来なら「ぜひ当社の研修を部下育成のためにご活用ください」と言いたかったのですが、

「会社が若い人を、研修に行かせたがらない」

という事情を知っているので、言葉を呑み込みました。

「OJT?」

予想通りの反応がかえってきます。「今どき、OJTか」と言わんばかりの表情です。

しかし、前出した調査結果でも明らかなように、部下育成の手法としてはOJTに頼っている人が大半なのです。(営業同行での部下指導は、OJTの一部であるため)

「OJTなんて、部下育成のうちに入らないでしょう」と言われてしまいますが、きちんと「型」を決めてやれば、最も生産性が高い部下育成の手法に化けます。

■ 4つのパートに分けた「10分OJT」

私が指南したのは10分でできるOJTです。営業のみならず、部下と一緒に作業をしているとき、10分ぐらいの時間を指導のために捻出することはできるはず。この「10分OJT」を繰り返しつづけることが大事です。

まず、考え方は、マッキンゼー式のフレームワーク「空・雨・傘」を使います。「空を見て(事実)、雨が降りそうだから(解釈)、傘を持っていこう(判断)」。この手順でOJTをします。

1)現場で一緒に「事実」をチェックし、

2)現場で一緒に「解釈」して、

3)現場で一緒に「判断」する

臨機応変に、次の4種類を組み合わせてOJTを心掛けます。

● OJR(On-The-Job Revue オン・ザ・ジョブ・レビュー)

 ……現場にて、一緒に事実を確認します。

● OJH(On-The-Job Hearing オン・ザ・ジョブ・ヒアリング)

 ……現場にて、その事実にどんな意味があるか、部下の解釈を尋ねます。

● OJF(On-The-Job Feedback オン・ザ・ジョブ・フィードバック)

 ……現場にて、その解釈が正しいかどうかフィードバックします。

● OJL(On-The-Job Lecture オン・ザ・ジョブ・レクチャー)

 ……現場にて、解釈を正しくさせるための知識や前提条件などを解説します。

■「10分OJT」の例

例文として、上司と部下の会話を書いてみます。

「いい条件と思ったが、結果的にお客様は紹介してくれなかったね」

「はい。紹介いただけませんでした」

「この事実を受け止めて、どう解釈したらいいんだろうか」

「当社が出した条件に魅力がなかったのだと思います。業界の特性でしょうか」

「しかし、同じ業界でも快く紹介してくださるお客様もいる。今年に入ってから3名はいた」

「あ、そういえば……。そうですね」

「条件面もそうだが、お客様が紹介する気になる要素は他にどんなものがあるだろうか、考えてみよう。私の経験からすると、我々の熱意だったり、社会貢献の意義だったり――」

「あ! 熱意」

「どうした?」

「私の熱意が足りなかったかもしれません。いい条件を提示すれば、相手もその気になると思い込んでいました」

「たしかに、プライドの高いお客様ほど、条件では動かないことがある」

「勉強になります」

■ OJTでなければできないこと

1on1ミーティングをはじめとした面談、会議などは、どうしても現場から遠い場所で行うことになります。そのせいで「事実」を押さえず、印象で話すことが多くなります。

上司が「よくやっているよね」「最近、がんばってるって噂を聞くよ」というポジティブな印象を伝えることもあれば、「相変わらず残業が多いようだね」「ちょっとモチベーションが落ちてないか」などと、ネガティブな印象をもって接してしまうことも。

ポジティブであろうが、ネガティブであろうが、実態と異なると、部下が心証を悪くするケースも出てきます。「最近お客様から立てつづけにクレームがきてるのに、知らないのかな」「今月の残業はかなり減ってるのに、私にまるで関心がない」と思われることでしょう。

たとえ目標管理シートなどで、行動指標(KPI)、成果指標(KGI)をチェックしても、すべて推し量ることはできません。

ですから、わざわざ時間をとって面談した割には、的確なフィードバックができないことが多いのです。

超人手不足の時代です。長い時間を使って、部下を育てる余裕はありません。「型」を決めてOJTすることで、マネジャーは部下と一緒に成長することができます。働き方改革の時代だからこそ、OJTを見直してみませんか。