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結局、部下を褒めたほうがいいのか? 叱ったほうがいいのか? 見極める2つのポイント

横山信弘経営コラムニスト
いまだに褒めたほうがいいのか、叱ったほうがいいのか悩む上司たち(写真:アフロ)

「褒めれば上達」科学的に証明

 上司が、部下を褒めて効率的にマネジメントすることを私は「ホメジメント」と名付けています。

(※参考:部下に達成グセをつける「ホメジメント」の効果

 生理学研究所の定藤規弘教授らの研究で、「褒めれば上達」することは科学的に証明されています。米科学誌プロスワンに研究結果が掲載された2012年当時、とても話題になったのを覚えています。以前から、この研究チームは「他人に褒められると金銭報酬を得たときと同じように脳の線条体が活発に働く」ことも研究成果として挙げており、「褒める」の因果効果を裏付ける根拠となりました。

 いまどき「煙草が体に悪い」と科学的に証明できたという研究成果を発表されても、ニュースにはなりません。誰もが「そりゃそうだ」と受け止めるからです。つまり、「褒めれば上達」の研究結果が話題になった背景には、「そりゃそうだ」と受け止める人が少なかったからです。褒めるよりも「叱る」ほうが学習効果につながるのではないかと思い込んでいる人も、多くいます。だからこそ、この研究結果は話題となり、多くの報道で取り上げられました。

 私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントです。私どもコンサルタントの目的は、企業が掲げる目標予算の達成です。したがって「褒める」とか「叱る」はあくまでも手段。目的を果たすことができれば、どちらでもいいというスタンスで仕事をしています。

 そのうえで私どもが現場に入って感じることはひとつだけ。世の中の上司は「アマチュア」が大半である、ということです。

アマチュア上司とプロ上司

 「アマチュア上司」は、自分の好き嫌い、得手不得手で手段を選びます。「人を叱るのは好きじゃない」「部下を褒めるのは慣れてない」などと、恥ずかしくもなく口にするのが「アマチュア上司」。会社から労働対価として賃金が支払われている以上、会社から期待される仕事はしなければなりません。

 「プロ上司」は、上司としての役割をキチンと理解しています。常に目的を果たすためにどの手段が効果的か、見極めようという姿勢があります。見極めるポイントは、大きく分けると2つ。相手の思考パターンと、そのときどきの状況です。

 部下と何度も接してきて、「褒めたほうが成長する」とわかったら、当然褒める割合を増やします。「叱ったほうが成長する」とわかったら、叱る割合を増やします。得手不得手は関係がありません。

 (※部下の何を褒めるかについては、コーチングのプロが考えた「ほめる技術」をいったん否定してみるに記したので、興味がある方は参考にしてください)

 私も、部下に対しては手段を使い分けます。褒める割合を増やしたほうが、調子に乗ってドンドン成果を出す部下もいれば、「それぐらいやって当然だ。君ならもっと成果を出せるだろう」と叱咤したほうが頑張る部下もいます。常に部下と向き合い、1~2年キャリブレーション(相手の無意識的な生理反応を観察)して、褒め方、叱り方を確立させていきます。

 また、褒めるのも、叱るのも、当然のことながら「状況」によって変化させます。

 極端な話、誰もが驚くような成果を部下が出したケースで、上司が褒めなかったらどうなるか。「人でなし」とか「あの人には人間の血が通っていない」とか言われることでしょう。いっぽうで、部下がやるべきことを怠って、多くの人に迷惑をかけたケースで、上司が叱らなかったらどうなるか。当り前ですが「上司失格」と烙印を押されます。

「5段階の物差し」を持つ

 褒めるか、叱るかの二元論ではなく、5段階ぐらいの物差しをもって、部下と接することをお勧めします。

(1)素晴らしい成果を出したとき

(2)成果を出したとき

(3)やるべきことをやったとき

(4)やるべきことを怠ったとき

(5)やるべきことを怠って大きな問題となったとき

 もっと細かくしてもいいですが、褒めるや叱るが慣れていない上司にとっては、まずこれぐらいの物差しで、状況判断をはじめましょう。

 (1)と(5)のケースでどうすべきかはすでに述べました。気にすべきは、(2)~(4)です。部下の性格によっても変えていきます。

 褒めたほうが伸びる部下であれば、(3)の状況でも褒めます。(4)のときは軽く叱ります。叱ったほうが伸びる部下であれば、(2)の状況でも、それほど褒めません。成果を認めつつも、「よくやった。だけど次はさらに大きな成果を出そう」と激励します。「君はもっと成果を出せるポテンシャルがある」ということを暗に伝えるのです。

相手と正しく向き合うのが基本

 昨今、「部下に厳しく指導しろ」「上司は鬼となれ」といったビジネス書が発売されることは皆無です。理由は簡単。売れないからです。「承認欲求を満たせ」「部下の声に耳を傾けろ」的な内容の本しか世に出てきません。

 大衆メディアはやたらと明確な対立構造を作りたがります。不潔なのか清潔なのか。黒なのか白なのか。企業がブラックのか、従業員がモンスターなのか……。物事を単純化したほうが、わかりやすいからです。部下を褒めたらいいのか、叱れば伸びるのか、の単純な話ではない。飲み会のネタにするのならいいですが、現実はこのように単純ではありません。

 大事なことは、先入観で部下を決めつけたりせず、相手と正しく向き合うことです。そして相手に合わせて「褒める」「叱る」の割合を、状況に合わせて見極めるのです。これが「ホメジメント」の基本。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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