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「伊調パワハラ」「日大タックル」問題だけじゃない! ビジネスでもよくある「コーチング」の裏事情

横山信弘経営コラムニスト
解任された栄氏は何が問題だったのか……(写真:松尾/アフロスポーツ)

ビジネスにおいてコーチングが機能しづらい理由

「伊調馨パワハラ騒動」や「日大タックル問題」などのニュースから、日本レスリング協会、日大アメフト部の監督・コーチの指導方法に批判が集まっています。しかし、日本の会社員にとっても他人事ではありません。

ビジネスの現場においても、上司の部下指導における問題がたびたび起こっているからです。上から目線でプレッシャーをかけたり、部下に有無を言わせない高圧的な姿勢は前近代的。相手の人格をも無視した態度は、部下のやる気を削ぎ、成長を妨げます。

個人の能力を開花させ、目標達成に向けた行動変容を促がす手法として、日本でも「コーチング」の手法が多く取り入れられています。「コーチング」という言葉は市民権を得、個人レベルではなく、この手法を採用してスタッフの達成意欲を向上させようと試みる企業も増えてきています。

しかし、注意が必要です。

にわか仕込みの「コーチング技術」では、コミュニケーション相手の達成意欲を向上させるどころか、悩みを深め、かえって傷つけてしまうことがあるからです。

スポーツの世界でならともかく、ビジネスの現場で「コーチング」がうまく機能しない原因は2つあります。

1)コーチ(を名乗る人)のスキル不足

2)コーチング対象の誤解

1つ目の問題「スキル不足」

まずは「スキル不足」について書いていきます。

たとえばJリーグでコーチをするためには、「JFA公認S級コーチ」という資格を手に入れなければなりません。これと同じように、ビジネスの現場でコーチを名乗るのなら、それなりのコストを支払い、長い期間の講習と、日々の鍛錬が不可欠なのです。

ビジネスで「コーチング」するときに使うコミュニケーション技術はもっぱら「質問」。クライアントの中にあるリソースに焦点を合わせた、効果的な「質問」を通して、相手の頭の中を整理させ、別の視点から事物を照らしていきます。さらに「質問」を重ねることで、気付きを誘発させ、主体的な行動変容を起こさせ、そして、クライアント自らが設定する目標を達成させる――。この支援をするのがコーチの役割です。

しかし、トレーニングを受けていないコーチは、相手に「アドバイス」や「提案」をしてしまいます。

「質問」は、非常に難しいコミュニケーション技術です。何でもかんでも「質問」すればよいということではありません。そして何でもかんでも「傾聴」すればいいということでもないのです。目標達成のための行動変容を促がす気付きを、「質問」によって引き出すのです。想像できると思うでしょうが、簡単ではありません。

「効果的な質問」をするためには、質問の内容のみならず、相手とペースを合わせた呼吸・リズム・話し方に気を配らなければならないし、正しくペーシングできないと、相手は「誘導尋問」をされている気分となります。頭の整理もできないし、新たな気付きも与えられません。相手の呼吸のリズムや、物事の受け止め方、思考の揺らぎなど、一定の期間をかけてキャリブレーション(観察)し、クライアント特有の認知パターンを知ることが不可欠です。

数日間の研修を受けただけの一般企業のマネジャーが、見よう見まねで部下に「コーチング」をしてみようとしたが、部下が混乱して意欲が向上するどころか、悩みの袋小路に入って抜け出せなくなってしまった、という事例がたくさん出ています。コーチングのスキルは、基本要素だけでも多岐にわたります。生半可なトレーニングでは身につかないことを知っておくべきでしょう。

2つ目の問題「コーチング対象の誤解」

2つ目の問題点として「コーチング対象の誤解」について書きます。

「コーチング」の基本的な考え方は、【答えは、クライアントの中にある】です。これを読んでいる読者も、聞いたことはあるでしょう。答えは自分の中にある。「わかってはいるのだが、なかなか行動が伴わない……」という場合にコーチングは威力を発揮します。

コーチングは目標達成させるための行動変容を効果的に促がすためにある技術です。しかし、ベースである「目標達成意欲」がない、そのための「能力」がクライアントにない、というのであれば、コーチング対象にならないと受け止めるべきです。

これが、スポーツの世界とビジネスの世界と異なる一番の違いです。

今よりももっと上手になりたい、今度の大会では優勝したいなどと願うアスリートに対してコーチが手ほどきをするのと同じです。一般企業でいうと、経営者やマネジャーがコーチングの対象クライアントにふさわしいと言えるでしょう。

達成意欲もなく、どのような行動を起こすことで結果がもたらされるのか、皆目検討もつかない人材に「コーチング」は機能しづらいのです。この場合、必要なのは「ティーチング」と言えます。

誤解さえしなければ「コーチング」は素晴らしい技術

「コーチング」は素晴らしい技術ですが、スポーツの世界とは異なることを理解しましょう。どういう人に対して、どのような行動変容を、どのような時間軸で実現させるのか。キチンと押さえておくのです。

人間の思考プログラムは過去の体験の「インパクト×回数」でできています。体験を重ねることで、自分の価値観、考え方が整理されていくものです。相手の中に「答え」がないのであれば、膨大な行動を積み重ねて成功体験を築かせるべきでしょう。その成功の「歴史」がクライアントをコーチングしてくれるはずです。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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