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「それがどうした?」と言われないために、これからの時代、情報と知識と知恵の違いぐらいは知っておこう!

横山信弘経営コラムニスト
現象、情報、知識、知恵、意見……の違いがわかるか?(写真:アフロ)

高度情報化社会で「溺れる人」たち

「高度情報化社会」と言われて久しい現代、便利になった反面、情報が多すぎて「情報洪水」に飲み込まれる人が増えています。このような「溺れる人」は、何が必要で、何が不要な情報(ノイズ)なのかを区別することができません。正しく情報を処理することができず、不毛な悩みを抱え、悪質なストレスに浸っています。

私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントです。効果的と思われる「知識」を披露し、「知恵」を絞って解決策を提示するのですが、先述したような「溺れる人」にはうまく伝わりません。現場の「現象」を正しくとらえず、不要な「情報」に振り回された、思い込みによる「意見」で反論されるケースが多くあるのです。

私はつねに「情報」「知識」「知恵」――この3つの言葉を、正しく区別したほうがいいと考えています。生産性がきわめて悪くなるからです。

そこで今回は、これらの言葉の定義を整理していきたいと思います。(言葉として正しいかどうかではなく、ビジネスにおいてどのように定義したら頭が整理しやすくなるかで考えます)

まず「現象」と「情報」について

まず「情報」とは、ある「現象」における客観的な事実において、収集・加工された素材のこと、と捉えることができます。ポイントとしては、「客観的」であり「事実」であるということ。そのため、ビジネスにおける「情報」には「データ」が含まれていることが、信頼性、重要度を高めるうえで忘れてはならない要素です。

たとえば、

「店舗へおもむくと、広告チラシに載せたはずの商品が陳列されていませんでした。店員は忙しそうに仕事をしているけれど、店内にいるお客様はまばら。先月に開店したお店という雰囲気はなく、まるで活気がなかった。あれではすぐに赤字店舗になってしまうのではないか」

という「情報」が社長の耳に入ってきたとします。

さて、この「情報」の価値は高いといえるでしょうか。そうです。「忙しそう」「活気がない」「赤字店舗になってしまうのではないか」といった主観的な「感想」ばかりが散りばめられているので、決して「情報」の価値が高いとは言えません。

「現象」を「情報」に変換するためには、どんな「情報」に加工したほうが、目的に合っているか、それを考えなければなりません。

陳列されていなかった商品とは何なのか? 店内にいたお客様の数は何人だったのか? そしてお客様が少なそうに見えたのなら、「活気がない」という感想を裏づけるための、「データ」(1ヵ月間の来店客数など)を収集するなど、適切に「情報」を加工すべきです。単に、目にし、耳にした事柄に対し、主観的な感想を加えたものを社長に伝えるようでは、正しい目的を果たすことはできないのです。

起こっている「現象」を、目的に沿った「情報」に加工する技術は、非常に大切です。そして何より、「現象」を無視した「情報」ほど、意味のないものはありません。たとえば、

「最近、当社の商品はなかなか売れませんね。やはりもっと価格を引き下げないと、とくに若い人たちは買ってくれないのではないでしょうか。先日のネットニュースにも、そのような風潮があると書かれていました」

このような「意見」は、どんな「情報」をもとにして発せられたのでしょうか? 「当社の商品は売れていない」「当社の商品の価格が高い」「とくに若い人は当社の商品を高いと認識している」という「情報」は、どんな「現象」をもとにあらわれたのか?

もしも、そのような現象、実態がないとしたら、単なる思い込みです。思い込みで言葉を発する人は、情報をねつ造するクセがあります。

「それがどうした? 当社の商品が売れていないのは、君の管轄のエリアだけだ。会社全体ではすこぶる順調。しかも、若い人ほど高価格帯の商品を好む傾向にあることは、このデータを見れば明らかだろう! 君は本当に現場に足を運んでるのか?」

このように言われても、しかたがありません。

目的をもって正しい「情報」を取捨選択するクセをつけないと、昨今の「風潮」とか「時代の波」に影響を受け過ぎて、裏付けのない「情報」をつかって意思決定することになってしまうのです。

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次に「情報」と「知識」について

「情報」と「知識」とは違います。これは、なんとなくでも、多くの人は理解できることでしょう。感覚的には、「情報」というのは常に流れている感じがします。時間の経過とともに古くなっていく印象があるので、「情報」には時間軸を意識したデータが付加されていたほうが、価値が高いように思います。

「情報」「知識」「知恵」を使って、例をあげてみましょう。

■ A社の情報

■ A社の知識

■ A社の知恵

これらの例に触れると、「A社の情報」が一番しっくりくることがわかります。「安室奈美恵さんの情報」「iPhone Xの情報」「スターウォーズ 最後のジェダイの情報」――といった具合に、「固有名詞+情報」というパターンで考えるとわかりやすいでしょう。

いっぽう「知識」は、「情報」のように流れるようなものではなく、固定された存在のような感じがします。そしてひとりだけでなく、多くの人間の手によって体系的に加工された形跡もありそうに思います。

「情報」「知識」「知恵」を使って、例をあげてみましょう。

■ マネジメントの情報

■ マネジメントの知識

■ マネジメントの知恵

これらの例に触れると、「マネジメントの知識」が一番しっくりくることがわかります。「ビジネスの知識」「経営の知識」「M&Aの知識」――といった具合に、「一般名詞+知識」というパターンで捉えるとわかりやすいでしょう。

私は、ビジネスにおいて「知識」を道具だと受け止めています。そして「情報」は素材。「知識」といった道具で、「情報」という素材を加工し、料理するのです。そして目的に沿った、意味のあるものに変えます。正しい意思決定をするためです。

そのために大切なことは、良質な素材選びです。まずこれがもっとも重要。料理で考えればわかりやすいでしょう。少しぐらい調理具が悪くても、食材がよければ、おいしい料理ができあがる可能性はグッと高まります。

もちろん、どんな素材を選んだらいいのか。そのための道具(知識)選びも大事です。

「情報」と「知識」を使って、例文を書いてみましょう。

「2017年、全国9つの店舗で来客数が目標を下回った店舗は、新宿店のみです。その達成率は88%。20~30代の若者の来店率がもっとも低かったのも新宿店。ただ、これだけでは正しく現状認識ができないと判断し、お客様の購買履歴をRFM分析する予定です」

ここでは、「目標を下回った店舗は全国で新宿店のみ」「達成率が88%」「若者の来店率がもっとも低かった」などが「情報」で、「RFM分析」が「知識」です。

「先日、課長会議で新任課長が『もっとモチベーションを高める取り組みをしないと売上目標を絶対達成しろだなんて言えません』と言っていた。しかし、ここで取り上げられた売上目標は『発生型の目標』であり、みずからが決めた『設定型の目標』ではありません。『発生型の目標』はやって当たり前のことなのだから、モチベーションなど必要ないと伝えました」

ここでは「新任課長が『もっとモチベーションを高める取り組みをしないと売上目標を絶対達成しろだなんて言えません』と言っていた」というのが「情報」であり、「発生型の目標」「設定型の目標」が「知識」です。

素材である「情報」を、道具である「知識」で料理していることが、なんとなく伝わると思います。

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「知識」と「知恵」の違い

うまく言語化できなくても、「知識」と「知恵」の違いなら、なんとなく、感覚的にわかる人は多いことでしょう。

「知恵」には、「熟練の」とか「長年の」とかいう修飾語がつくとしっくりきます。どちらかというと、経験に裏打ちされた「ワザ」や「アイデア」「コツ」「秘訣」みたいなものを指しているように思います。

ビジネスで使う場合、どうしても職人的なニュアンスを伴う。したがって、先述した「情報」や「知識」ほど、ビジネス現場で使用されることはありません。使われるとしたら、抽象的なメタファーとして、です。

「こうなったら、ライバル会社と知恵くらべだな」

「そんな浅知恵で、社長である私を騙せるかと思ったか」

「これはおそらく、部長による入れ知恵ですよ。困りましたな」

……と、このような感じで。

また、「知恵」は「知識」と異なり、みんなで共有できるものではなく、特定の個人についてくる側面が強い。

「山本専務の知恵」「武田部長の知恵」「パートの木村さんの知恵」という感じで、です。

組織によって共有できるのは「情報」であり「知識」です。「知恵」はどちらかというと、個人的に生み出されたワザや、限られた作業で使われるコツのようなものですから、組織で使おうと思っても、特別なシチュエーションに限られます。

しかし、だからこそいいのです。

これからの時代、個人が必要とするのは「知恵」である

これからの時代、IoTやAIなどの進化により、ある特定の「現象」を認識し、目的に沿った「情報」を特定・収集し、「知識」という道具で料理するところまでは、人間以外がやってくれるようになります。人間がするのは、その判断材料をもとに意思決定するだけ。

そして実践するときに、人間は「知恵」を働かせる必要がある、というわけです。

繰り返しますが、「情報」「知識」「知恵」という言葉の違いを知ったうえで(ついでに「意見」「感想」「提案」といった表現の違いも頭に入れておいたほうがいいでしょう)、言葉を使っていかないと、仕事の生産性はきわめて悪くなります。

この人が言っていることは「情報」なのか? 「知識」なのか? 単なる「意見」なのか? とんでもない「思い違い」なのか? 「感想」しか口にしてないのか? なぜ客観的な「データ」を用いず、思い込みの「提案」をするのか? ……。

言葉の定義を正しくして、「問い」の精度を高めていきましょう。「それがどうした?」と言われないために。仕事だけでなく、人生の効率をよくするために。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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