なぜ大企業は組織改革ができないのか? 大企業の「健康寿命」を伸ばすコツ

歴史ある大企業はご老体であることを認識しなければならない(写真:アフロ)

相変わらず就活生に人気の大企業

2018年卒の大学生らを対象にした、大手企業の採用面接が6月1日に解禁されました。日本を代表する大企業、東芝が経営危機に直面していますが、大学生・大学院生を対象とした「就職人気企業ランキング」をチェックすると、相変わらずランキング上位は大企業の名前が並んでいます。

このようなランキングを毎年見ていると、就活生たちは「どの企業に就職したいのか」という大きな問い掛けより、「どの大企業に就職したいのか」という小さな問い掛けをしているように見えてなりません。少し寂しい思いがします。「働き方改革」という言葉がどれほど市民権を得ても、企業に入ってしまったら、働き方はその企業のルール・文化に従わなくてはならない。もっと自由な発想で「働くこと」「働く先」について考えられる機会を就活生たちは持ちたいですね。

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成熟期の企業は組織改革しづらい

人間が年齢を重ねていくと、体のアチコチに問題を抱えるようになります。私もアラフィフ(48歳)となり、毎日、心も体もメンテナンスしていかないと、元気に働き続けることができないと思えるようになりました。人間にライフサイクルがあるように、企業にもライフサイクルがあります。生まれたばかりの「導入期」、成長ステージの「成長期」は、多少ムリをしても何とかなるものです。ベンチャー企業の社長が私欲のために従業員を振り回したり、企業理念を忘れ、事業拡大のためにいろいろなビジネスに手を出しても、「まだ若いんだから」と多少のことは目をつぶってもらえます。

しかし会社が大きくなり「成熟期」に入ると、経営者の剛腕で組織を動かすことが困難になっていきます。小さな会社ならともかく、1000人、2000人……の規模にもなれば、無理がきかなくなるのです。これは組織の階層構造の問題です。組織の構成要素が新しいのであれば、階層が深くても大きな問題を抱えません。しかし古い構成要素で多層の組織になると別。人間に例えると、老廃物がたまり、リンパの流れが悪くなって、体のアチコチにむくみができているような状態と言っていいでしょう。

導入期・成長期の問題点

「導入期」、「成長期」の企業は勢いがあります。要因は大きく分けると2つ。経営者や創業メンバーの力技(ちからわざ)で浮揚していくパターンと、たまたまの外部環境の風に乗って上昇するパターンのどちらか。成長期が長く継続するのは前者です。会社の規模がそれほど大きくなければ、創業者のカリスマ性で統率できるからです。(創業者が元気のうちは、ですが)

いっぽうで、たまたま追い風に乗っていただけのパターンだと、外部環境の変化とともに、いきなり業績が傾きます。外部要因に依存した経営では、好調を維持することはできません。

ポイントはひとつだけ。「考える習慣」。前者のパターンは、カリスマ経営者が常に頭をフル回転して「考える」状態になっています。だから経営者が元気のうちはいいのですが、後者のパターンは、外部の力でうまくいっていますから、誰も「考える習慣」を持っていません。

物事を受け身で捉えている人は「考える習慣」を失っていきます。アイデアをドンドン出して部下を動かしたカリスマ経営者がリタイヤすれば、とたんに会社が傾きます。早晩、必ず「衰退期」を迎えます。

どんな仕事であろうと、必ず目的があります。その目的を果たすためには「考える」ことが必要です。人間はロボットではありません。考えずにできる仕事をしていて「やりがい」を覚えることはない。したがって「考えない組織」は社風が悪くなり、何か問題があるたびに他責にする風土が定着していきます。

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考えない「ホワイト企業」の末路

バロメーターは「組織風土」。

カリスマ経営者が多少のワガママな経営をしていたとしても、順調に企業が成長しているときの「組織風土」は悪くないものです。外部環境に恵まれ、安定成長を続ける会社はさらに「風土」がよくなることでしょう。

大きな客船で、穏やかな海を航行しているイメージです。その船を降りたいと考える乗組員はほぼゼロになるでしょうから、俗にいう「ホワイト企業」と呼ばれるようになります。風土が良いですから、社員同士も仲良し。社内でいろいろなイベントを催しても、盛り上がります。余裕があるから、社員に還元する仕組みや制度も常に洗練され、ますます定着率は高くなります。「ホワイト企業」として認知度が高まると、さらに優秀な人財を惹きつけることになるでしょう。

しかし、どんなに「風土」がよくても「考えない組織」のままであったら、強い組織とはなり得ません。温室育ちの社員たちは、ひとたび荒波を経験すると激しいストレスを覚えます。考える習慣がない人は他責にする傾向が強いですから、問題はすべて会社側にあると決めつけ離反していきます。

「ホワイト企業」は優秀な人財を引き寄せる力があります。しかし頭がいいこと、学業の成績がいいことと「考える習慣」は無関係。「習慣」というのは、ルーティーン化して継続しないとすぐに失われていくものです。毎日でなくても、時おり脳に汗をかくほどストレスを与え、考えることを定期的にしない人は、たった半年でも「考える習慣」を失っていきます。

「ホワイト企業」の主な要件が「離職率の低さ」だと仮定すると、必ずしもホワイト企業=いい企業ではないことが、これでわかるはずです。

「考えない大企業」が成熟期を迎えれば……

「考えない人」が大勢いる組織で「成熟期」を迎えると、前述したとおり徐々に「組織風土」が悪化していきます。

中小企業でもそうなのに、大企業は顕著です。組織階層の深さという大きな問題を抱えるからです。

強烈な個性を持つカリスマ経営者がいれば、たとえ大企業であったとしても、その声は末端の担当者まで強く届くはず。外部環境が変化し、安定成長していた時代が終わると、緩んだ空気を引き締めようとトップダウンで組織改革に着手します。現状に甘んじようとする中間層にみずからが容赦のない鉄槌を落とすこともあるでしょう。

しかし、大企業の経営者のほとんどは、数万人、数千人に届くほどの声を挙げるカリスマではありません。俗に言う「サラリーマン社長」です。大声を出すにしても、経営幹部、事業部のトップに対してだけであり、そこからは、それぞれの部門トップに「組織改革」は委ねられます。

「社長の私が言うことではない。事業部のトップである君らの仕事だ」

しかし言葉というのは、中間に人が介入すればするほど、うまく伝導しないものです。間は言葉を使う際に、過去の体験からできたフィルターを通すからです。そのフィルターによって、「省略」「一般化」「歪曲」という3種類の知覚変換が起こり、ミスコミュニケーションを誘発します。

大企業は階層がとても深いですから、社長 → 事業本部長 → 事業部長 → 部長 → 課長 → 係長 → 担当者……と、人を介していくうちに、言葉(ニュアンスを含め)が正しく伝導しません。中間で介入する人の「解釈の幅」次第でメッセージが歪曲化します。メッセージの「重要度」を見誤り、組織全体に伝導するのを遅らせたり、ひどい場合は中間管理職が絶縁体となり、担当者まで経営陣の言葉が届かないこともあります。

経営者が危機感を持っていても、現場まで声が届かない確率は、中小企業のソレとは比較になりません。大企業が不祥事を起こし、記者会見で経営陣が揃って頭を下げていても、数千人、数万人の現場担当者たちは、まるで別の会社の出来事のように眺めます。当事者意識が高揚することもないのです。

現場感覚をなくした大企業の経営者たち

同じメカニズムで、大企業では現場からの声が経営トップまで届くことはほとんどありません。上から下も正しく伝導しないのですから、下から上の伝導率は極めて低いと言えるでしょう。経営陣は現場の声を聞きたがっています。しかし下まで降りずに、最上階層で待っていても手に入れることはできません。

日ごろから経営陣と会議ばかりして、たまに現場を訪れたり、地方の支社を周って現場の人たちと交流する経営者もいます。しかし大抵が「わかった気になる」だけです。「現場感覚」が欠如した大企業の経営者は、現場を視察しても、”声無き声”を拾うことができません。考えない組織となった風土、他責に終始する従業員たちの思考パターンを敏感に感じとる”嗅覚”をもうなくしているのです。

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「考える組織」になっていない大企業では、指示待ち人間が増え、組織のあちこちにムリ・ムダ・ムラという名の老廃物が滞留していきます。仕事の目的とは何か? を問うのを忘れ、手段を目的化してしまう悪癖が蔓延していきます。

解決策は「細かいコミュニケーション」のルーティーン

外部環境に変化がなく、業績が安定しているときは、穏やかな海の上に浮かぶ船に乗っている気分です。その船から降りたいとは誰も思わないことでしょう。しかし海が荒れはじめると、事態は急変します。船は大きく、並大抵のことでは沈没しませんが、想定外の出来事が起きたときにどう対処すればいいのか、乗組員が慣れていません。

「社会的怠惰」という心理現象があります。人が多くなればなるほど、無意識のうちに少しずつ手を抜いてしまうという現象です。どんなに優秀な人財を多く集めようと、人が多くなることでかえって、本来のポテンシャルを発揮しづらくなるのです。

先述したとおり人間は年齢を重ねることで、体のアチコチにガタがきます。そのため毎朝体操をしたり、定期的にウォーキングをしたり、睡眠不足にならないよう寝る前は瞑想したり、ストレッチしたり。筋肉や骨やリンパの流れや……それぞれの体の機能に意識を向け、対話するように日々のメンテナンスをしなければ心身ともに健康でい続けられません。

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企業も同じです。若いころ、つまり会社が小さかったころは多少の「無茶」は許されたでしょう。しかし図体が大きくなり、歴史を重ねることで、微細に気を配る習慣、文化が根付かないと必ず病気になります。

成熟した企業を「考える組織」に変えていくために必要なことは「細かいコミュニケーション」のルーティーン化。自分の筋肉や骨と日々対話するように、大企業の中に無数の小集団を作り、「今日は大丈夫か」「何か問題はないか」と、気配りの効いた細かいコミュニケーションを続けることです。簡単そうに思えるかもしれませんが、これがとても難しいのです。細かく、定期的に、風土として巨大組織に根付かせるには、かなりの時間がかかるでしょう。それでも、「考える組織」に転換するためには不可欠なプロセスです。

そこで働く人は若くても、企業そのものはご老体。昔のようにはいかない、もう若くはないのだ。そう気付くことが、歴史ある大企業の「健康寿命」を伸ばす秘訣なのです。