「時間術」の本を何冊読んでも、ワークライフバランスは実現しない

処理しても処理しても残業が減らない(写真:アフロ)

業務効率化、生産性向上、時短……。日本の企業は今、かつてないほど長時間労働の文化をモディフィケーションしろ、と政府や世間から圧力をかけられています。

私は残業をはじめとする時間外労働は、野球の「延長戦」のようなものだと考えています。したがって、毎日残業する人、しょっちゅう休日出勤をしている人は、9回裏で決着をつけずに、いつも延長戦に入ることを見越して試合をしているような選手だと見ています。このような発想でゲームをしていれば「試合に勝つ気はないんだろう」「いつもだらだら試合をしていて応援する気になれない」と言われても仕方がありません。

延長戦をゼロにできないのと同じように、時間外労働をゼロにできないことは理解できます。しかし、その労働時間を「織り込み済み」で仕事の計画を立てる人が多い職場では、そもそもの文化を変える必要があります。

企業の現場に入り、目標の絶対達成をスローガンにしてコンサルティングをしている私たちからすると、ひとえに「ワークライフバランス」と言っても一筋縄ではいかない話です。

ましてや「時間管理術」の書籍に書いてあるような、

・朝一番にタスクを書き出す

・Todoリストをうまく活用する

・資料のフォーマットを統一して一元管理する

・2種類のノートを用途に分けて持ち歩く

・朝シャワーを浴びて目を覚ます

・文房具の色を変えて集中力をアップする

……といった、いわゆる「小手先」のテクニックでは、何ともなりません。これらは単なる自己満足的なタイムマネジメントテクニックに過ぎないのです。毎日夜の9時まで仕事をしている人が、これらの時間術で夕方6時までに仕事が終えて帰宅でき、家族との時間や趣味の時間に没頭できるようになるかというと、あり得ないのです。単なる幻想で終わります。

たとえば、ある企業で「コスト削減プロジェクト」が立ち上がったとします。どうすれば、各部署でコスト削減ができるのかを話し合おうと、部署ごとに代表が集められました。しかしはじまってみると、議論は平行線をたどります。夜遅くまで会議をしても結論は出ず、懇親会と称して飲みに行く日々が続いたとします。

さらに、これを繰り返していることで、それぞれの担当者が本来の業務に手を付けられなくなり、アシスタントを増やそう、もっと業務を効率化するための情報システムを導入しようという話となったとしましょう。それではどんなアシスタントが必要なのか議論しようじゃないか、どんな情報システムを導入したら業務がもっと効率化するのか話し合おうじゃないかと、また会議やミーティングを増やしたとします。

そして実際に業務システムが刷新され、説明会が開かれたのだけれども、そのシステムをどう利用すればいいかわからないという声が多数上がったため、システム利用のためのマニュアルを整備しようという話が持ち上がり、そのマニュアル作りをあなたが受け持ったとします。あなたは「時間管理術」をうまく活用しながら、効率よくマニュアル作りをやりました。しかし、当然のことながら、あなたの【ワークライフバランス】は実現しません。

なぜなら、「手段の目的化」を延々と続けるような職場が、真の「生産性向上」を実現させられる文化を持っているはずがないからです。

そもそも本当に生産性の高い企業なら、コスト削減プロジェクトを素人集団が集まってやろうなどとは考えません。まず、出発時点の意思決定が間違っています。「お金で時間を買う」という言葉があるとおり、餅は餅屋に任せることが生産性を上げるうえでの鉄則です。つまり外部のプロを雇うことが一番理にかなっているのです。

ブルーカラーの生産性は上がるのに、ホワイトカラーの生産性がますます悪化している最大の要因はここにあります。高度情報化時代となり、いろいろな情報、ノウハウが手に入るため、ホワイトカラーの人たちは自分たちでちょっと工夫すればそれができると信じて実行しようとするクセがついてしまいました。

小手先の時間術で、仕事と生活の調和――ワークライフバランスが実現することなどありません。仕事のやり方ではなく「あり方」が問われているのです。専門でもない人が、見よう見まねで不必要な仕事をしている限り、その仕事をどれぐらい短い時間で処理したとしても、本当に豊かな時間は手に入らないものです。

物があふれる時代です。そして同時に、ノウハウもあふれる時代です。物を集めれば集めるほど、ノウハウを集めれば集めるほど、ノイジーな時間を過ごす率が高くなり、本質を見抜く力が落ちていきます。