現代版「できる人」「残念な人」のコミュニケーション能力
現場に入ってコンサルティングをしている職業柄、どんな企業にも「できる人」はいて、その特徴を自分なりに掴んでいるつもりです。「できる人」の特徴は、いわば「1」聞いて「10」理解する人だと、私は考えています。
上司:「私たちの提案を社長に理解してもらうために、先日の会議で話し合ったことをまとめておいてくれ」
部下:「わかりました。先日の会議で話し合った3つのポイントのみならず、Cさんが調査した分析資料も別添でつけましょう。また、今月中に社長からゴーサインを出してもらわないと話が前に進みません。ですから、今週の金曜日までに作って一度お見せします」
上司:「心強い。頼んだよ」
部下:「それと、専務には気付かれないように動きたいので、専務がアメリカ出張から戻ってくる来週火曜日までには、資料の添削をお願いできませんか」
上司:「君、わかってるじゃないか。任せておきたまえ。専務が絡んでくると、話がややこしくなるからな」
この部下は、上司の僅かな言葉で多くを理解し、目的を達成させるために必要なことを自分の言葉で提案しています。自分自身で多くの付加価値を生み出しているからこそ「できる人」と呼ばれるのです。
では反対に「残念な人」とは、どんな人でしょうか。「できる人」の反対ですから、「10」聞いて「1」しか理解できない人です。
上司:「私たちの提案を社長に理解してもらうために、先日の会議で話し合ったことをまとめておけと言ったじゃないか。それはなぜかわかるか? 何度も言うとおり、この提案が通らなければ私たちのプロジェクトは動きようがないからだ。毎回、会議で言っているはずだ」
部下:「はい。それはわかっています。社長に承諾いただかないと、私たちのプロジェクトは行き場を失います」
上司:「わかっていればいいんだ。しかし、それならどうして資料を作っていないんだ。指示してからもう2週間も経ってるぞ」
部下:「え? 資料を作れだなんて、一度も指示されていませんよ」
上司:「会議で話し合ったことをまとめておけ、と言ったじゃないか」
部下:「まとめておけ、と言うのは、資料を作れ、ということだったんですか?」
上司:「それ以外に、どんな意味があると思ったんだ?」
部下:「いやァ、わかりませんが……」
上司:「しかも、どうしてこのことを専務に話したんだ?」
部下:「え? 専務に話してはいけないことだったんですか?」
上司:「これまでのプロジェクトの流れを見ていれば、何となく気付くだろう! 他のメンバー全員、わかってるよ!」
部下:「……私には、全然、理解できませんが。専務は専務で、会社の将来を考えていると思いますよ」
上司:「そういうことじゃなくて……。まいったな……」
このように「残念な人」は、どんなに事情を説明しても、なかなか話が噛み合いません。だから「話にならない」「話がややこしくなる」「話すだけムダ」とレッテルを貼られてしまうのです。新しい付加価値を生み出すこともないため、組織の中で疎んじられてしまうこともあります。
「喋り」が上手。「トーク」がイケてる。「プレゼン」がうまい……という人はいくらでもいます。しかし、それら「話し方」が上手であることと、正しく話を噛み合わせることとは、まったく別のスキルです。人前で話すことがとても上手でも、「会話」となると、全然噛み合わない人はいるものです。
時間が緩やかに流れていた一昔前なら、多少「話が噛み合わない人」でも、「大らかな人」と捉えられていたでしょう。しかし現代は違います。話が噛み合わない残念な人が組織に多数存在すると、「業務効率」「生産性」の面で大きな問題を抱えることになります。現代において、何事も話を前に進めるために、時間がかかってばかりではいけません。「できる人」と呼ばれるために、話を噛み合わせる技術を身につけましょう。