なかなか「話が噛み合わない」人がいます。こちらの言っていることを誤解したまま反論したり、自分の思い込みで話を進めたりする人、あなたの周りにはいませんか。雑談をしているときならともかく、何らかの悩みを相談したいときには困りますよね。

話が噛み合わないパターンは以下の3種類と私は考えています。

● あさっての方向

● 早とちり

● 結論ありき

途中から話の論点がずれていく「あさっての方向」。前提知識が足りないせいか誤解を招く「早とちり」。何を言っても否定する「結論ありき」。この3つです。

「あさっての方向」と「早とちり」は、話の論点を正しく伝えたり、知識を補完することで、話が噛み合うようになっていきます。いわゆる「話せばわかる」ということです。問題なのが「結論ありき」。結論が先にあるため、何を言っても、こちらの意見や提案を否定してきます。「話せばわかる」ではなく、これは「話にならない」という状態です。

特に「ややこしい相手」と話を噛み合わせるためには苦労します。事前に根回しをしたり、「動かぬ証拠」となる資料を作成したり、権威のある人に説得を依頼したり……。話を噛み合わせる技術はいろいろありますが、今回解説したいのは「魔法」。相手が魔法にかかったように素直になり、話が自動的に噛み合う方法です。

たとえば、

部下:「こちらを見てください。お客様のニーズに沿って提案書を書きました」

上司:「お客様のニーズに沿った提案を書けばいいってもんじゃないよ」

部下:「一応、当社なりの独自の提案も書きました」

上司:「こんな提案じゃダメだ。ポイントがずれてる」

部下:「しかし、このポイントは以前、部長が言っていたものですが……」

上司:「私が言っていたものを提案に盛り込めばいいのか。君は自分の頭で考えたのかね?」

部下:「いや、その……」

このように、何を言っても否定してきた上司が、

部下:「こちらを見てください。お客様のニーズに沿って提案書を書きました」

上司:「なるほど。いいね」

部下:「一応、当社なりの独自の提案も書きました」

上司:「うん、ポイントを押さえてるね」

部下:「このポイントは以前、部長が言っていたものです」

上司:「その通りだ。私が言っていたポイントをすぐさま提案に盛り込むなんて、さすがだよ」

部下:「ありがとうございます」

このように肯定してきたら、素晴らしいと思いませんか。「全否定」が「全肯定」となるのです。もともと「結論ありき」になりやすい人は、相手を否定する「結論」も、相手を肯定する「結論」も同じ。結局は、結論ありきなのです。

この魔法の正体は「ラポール」です。

ラポールとは、もともと臨床心理学の用語です。コーチングやNLP(神経言語プログラミング)でも最重要キーワードとして紹介される概念。セラピストやコーチと、クライアントとの正しい関係を指し、相互に信頼し合い、「安心・安全の欲求」が満たされている状態を、「ラポールが構築されている」と呼びます。

もう少し噛み砕いて表現すると、たとえば……

■ 一緒にいて、緊張せずにリラックスできる状態

■ お互いが心を探り合う必要がない状態

■ お互いが相手を尊重している状態

を言います。

相手を尊敬していても、その人の前だとついつい緊張してしまう、というのであれば、ラポールが正しく構築されていると言えません。いっぽう、リラックスし過ぎて、相手に無理難題を押し付けたり、相手の存在を承認できないような態度をするのであれば、これもラポールが構築されているとは言えないでしょう。一緒にいて落ち着き、相互にリスペクトできている状態を「ラポールが構築されている」と呼びます。

夫婦間でも同じ、親子間でも同様です。

妻:「食器洗浄機を買おうと思ってるんだけど」

夫:「食器洗浄機? 食器ぐらい自分で洗えよ」

妻:「除菌作用もあると聞いたから。この前だって子どものインフルエンザが移ったじゃない」

夫:「しっかり手を洗えばインフルエンザにはかからない。それにそんなお金がどこにあるんだ」

妻:「商品券があるから、それで買えるのよ」

夫:「その商品券は、食器洗浄機しか買えないのか?」

妻:「もう!」

こういった会話も、お互いの「ラポール」さえあれば……

妻:「食器洗浄機を買おうと思ってるんだけど」

夫:「ああ、食器洗浄機か……」

妻:「除菌作用もあると聞いたから。この前だって子どものインフルエンザが移ったじゃない」

夫:「確かに、それは言えてるな」

妻:「商品券があるから、それで買えるのよ」

夫:「そうなのか? じゃあすぐに買いに行こう。食器洗浄機があることで、君の家事を助けてくれるなら、なおさら素敵じゃないか」

このように変わります。まるで「魔法」です。親子の会話も、

子:「AKB48のコンサートに行きたいんだけど」

父:「まだ子どものくせに、夜遅くまでほっつき歩くことは許さん」

子:「昼のコンサートだよ」

父:「だいたい、お前は女の子だろう。AKB48のコンサートなんて男の子が観にいくものだ」

子:「女の子もたくさん行くよ」

父:「子どもだけで行くのはダメだ。危ない」

子:「友だちのお姉ちゃんも行くよ。そのお姉ちゃん、大学生だからいいでしょ」

父:「大学生も、子どもだよ。ダメと言ったらダメだ」

子:「何よ、ソレ!」

こういった会話が……

子:「AKB48のコンサートに行きたいんだけど」

父:「へえ、AKB48か。いいねえ」

子:「昼のコンサートだよ」

父:「お前みたいな女の子は少ないんじゃないか?」

子:「女の子もたくさん行くよ」

父:「そうなのか。男の子にも女の子にも人気だなんて、AKB48はスゴイな」

子:「友だちのお姉ちゃんも行くよ。そのお姉ちゃん、大学生だからいいでしょ」

父:「もちろんいいよ。お前のことは心配していない。楽しんできなさい」

このように変わります。まるで「魔法」です。日ごろの信頼関係が作りだす、魔法のような会話です。

話の噛み合わない相手に言語的なコミュニケーション技術で、噛み合わせようとするものいいですが、非言語的なコミュニケーション技術である「ラポール」があれば、魔法にかかったように、自然と話は噛み合います。やはり日ごろの行いが一番重要ですね。