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体育会系の「タスク管理」 ……タスク管理の逆転の発想

横山信弘経営コラムニスト

「重要―緊急マトリックス」で、「重要」でかつ「緊急でない」作業ほど「タスク管理」が必要です。【うっかり忘れ】が続くと、人からの信頼を損ない、大きな問題に発展するときもあるからです。「うっかり忘れ」を避けるために、その作業を思いついたときに「TO-DOリスト」等にメモを残しておく習慣をつけましょう。

しかしながら、この「TO-DOリスト」などの「タスクメモ」は両刃の剣でもあります。なぜなら「うっかり忘れ」を防ぐためにメモを残す、ということは「今はやらない」「処理を先送りする」という意思決定だからです。今すぐやるのであれば「タスクメモ」は必要ありません。このことを忘れてはならないのです。

ということは、正しくタスク処理するためには、以下の2つのことが必要ということになります。

● 思いついたときにタスクをメモする

● 定期的にそのメモを見返す

ところが、ここで問題になってくるのが、本当に「定期的にメモを見返す」ようになるのか? ということです。いったん先送りしたタスクを繰り返し見ようと思う人もいるでしょうが、多くの人は「臭いものには蓋」をしたくなるものです。メモをとるときは「無計画で場当たり的に」、メモを見返すときは「行き当たりばったりではなく計画的に」としなければなりません。この組み合わせが難しいのだと思います。

私は「眺めるのはスマホではなく、メモ帳にしよう」を自己スローガンとして掲げて習慣化しました。だらだらとスマホを眺める時間を減らし、その分、メモ帳を眺めるようにしたのです。スマートフォンなどのネット端末は、ディスプレイ画面の向こう側に無限大の情報が存在します。興味・関心があるかどうかは別にして、宇宙のような、その広大で未知な情報ソースにアクセスしたいという欲求を、多くの人は抑えられないでいることでしょう。

その荘厳な宇宙への入口であるスマホではなく、メモ帳に変更するとどうなるのでしょうか。私が愛用しているのはフランス製のブロックメモ「ロディア No.11」です。サイズはスマホより若干小さく、そして重量は2分の1程度の58gです。(メモを使えば使うほど軽くなります)

当たり前ですが、メモ帳を眺めていても何もありません。そこに何らかの文字が書き込まれていれば読むことはできますが、何も書かれていなければ、真新しい紙を目の前にして戸惑うしかありません。それでもずっと眺めていると、意識は自分の脳の中にアクセスをはじめます。無限大かどうかは別にしても、自分の脳という小宇宙にアクセスし、そこからデータを取り出そうとします。(メモ帳を眺めていても退屈だと感じ、スマホを取り出したいという衝動に勝てない場合、「スマホ依存症」になりつつあると考えてもいいかもしれません)そのときに、思いついたタスクを書き出していくのです。たとえ以前書いたタスクと重複してもかまいません。再びタスクメモを残すのです。

たとえば、5日前に書き出したタスクメモのうち、以下の5項目がまだ処理されていないとします。

● 見積り資料を作る

● Aさんにメールの返信をする

● ブログを書く

● 来月の出張先のホテル予約をする

● 旅行代理店にお金を振り込む

2日前に書き出したタスクメモのうち、以下の4項目がまだ処理されていないとします。

● 見積り資料を作る

● 来月の出張先のホテル予約をする

● 借りたビデオを返却する

● スーツのクリーニング

この時点で、以下の7つのタスクが未処理状態です。(2)と記してあるのは、以前書いたタスクをまた書いた、ということです。

● 見積り資料を作る(2)

● Aさんにメールの返信をする

● ブログを書く

● 来月の出張先のホテル予約をする(2)

● 旅行代理店にお金を振り込む

● 借りたビデオを返却する

● スーツのクリーニング

そして今日、再び新しいメモ帳を眺めながら「やるべきこと」を書き出していくと、以下の6つのタスクメモが自分の脳から抽出されました。

● 見積り資料を作る

● Aさんにメールの返信をする

● 来月の出張先のホテル予約をする

● スーツのクリーニング

● 週末の資源回収についてBさんに連絡を入れる

● C課長を食事に誘う

この時点で、未処理状態のタスクが以下の9つとなりました。(2)と記してあるのは、以前書いたタスクをまた書いた、ということです。(3)と記してあるのは3度目です。

● 見積り資料を作る(3)

● Aさんにメールの返信をする(2)

● 来月の出張先のホテル予約をする(3)

● スーツのクリーニング(2)

● 週末の資源回収についてBさんに連絡を入れる

● C課長を食事に誘う

● ブログを書く

● 旅行代理店にお金を振り込む

● 借りたビデオを返却する

ここで原点に戻ります。「タスクメモ」を残すのは何のためか? です。それはタスク(やるべきこと)をいったん先送りするためです。今すぐにはやらない、という意思決定の証だからです。「タスクメモ」に書いたものを、時間が空いたときにサクサク処理していけばよいのですが、どうしても残ってしまうものがあります。

それを防ぐために、定期的に残した「タスクメモ」を見返すことが不可欠なのですが、【タスクメモを見返すときしか思い出せない、それ以外は忘れている】という状態に問題があることも覚えておくとよいと思います。つまり、いつのときも「そろそろやろうか」「いい加減、先延ばしはマズイな」と思うようになればいいのです。自分の脳の短期記憶(ワーキングメモリ)にそのタスクを常駐させてしまえばよいのです。

脳のワーキングメモリにデータを格納するためには、何度も何度も同じデータを処理することです。自分の意志の強さ、モチベーションとは関係がありません。インパクトのあることを繰り返すことが重要です。つまり、残してあるタスクメモを見返すのではなく、前述したように、真っ新(さら)なメモ帳に何度も書き出すことによって、一連のタスクをワーキングメモリに転送していくのです。

前述したタスク群でいうと、「見積り資料を作る」「来月の出張先のホテル予約をする」は3回連続で書き出しているので、さすがに忘れないようになってきています。「Aさんにメールの返信をする」「スーツのクリーニング」は2回登場していますから、これらもそうですね。

何事も習慣化するためには「インパクト×回数」がキーワードです。「脳の外にあるタスクメモを眺める」より、「自分の脳の長期記憶の中にあるタスクを引っ張り出してメモに書く」行為のほうが、圧倒的にインパクトが強い。つまり記憶に残りやすい行為である、ということです。タスクメモを書き出すだけで安心して「先送りの習慣」が治らない人は、重複してもいいから、常にタスクメモを書き出し続けるという体育会系のタスク処理をお勧めします。

「先送りの習慣」が治らない人は、脳の基礎体力が落ちています。ですから、たとえタスクメモを残してもそれだけで満足してしまい、先送りを続けてしまいます。さらに先送りを続けていると、再びそのメモや「TO-DOリスト」を見返すことに気が引けて、結局はリスト自体を忘却の彼方へ追いやってしまうのです。

同じことを反復繰り返すことで脳の基礎体力は鍛えられていきます。何も見ずに、真っ新なメモに絶えずタスクを書くことによって脳のワーキングメモリに常駐し、意識が変わってきます。そして何度も書いているタスクが頭から離れなくなり、自然と処理しようとすることでしょう。それを繰り返すことで、過去に書き記したタスクをその勢いで処理できるようになっていくはずです。

スマホの機能を使って簡便化したり、リマインド機能を活用してタスクマネジメントしようとしてうまくいく人は、もともと脳の体力がある人です。ストレス耐性の低い人がリーズナブルな手法を選ぼうとすればするほど、新しいタスク処理方法を探すばかりで、いつまで経っても実践せず、習慣化もされない、ということです。そしてヒドイ場合は「自分が正しくタスク処理できないのはこの方法の問題だ」と、手段やツールに責任転嫁してしまいます。

脳の基礎体力を鍛えるためには、出来る限り、より面倒な方法を選択しましょう。何度も同じことを紙に手書きすることをお勧めします。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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