「見えないもの」を、見えるようにする話し方
誰かとコミュニケーションをとりながら、何らかの問題を解決したい、目標を達成させたい、という状況の中では、お互いに論理的なコミュニケーションをすることが不可欠です。論理的とは、「論拠」と「結論」の因果関係が正しくつながっている、一貫して筋が通っている、という意味合いです。会話の「背骨」がゆがむことなく、まっすぐにピンと立っている状態を言います。
今回は非論理的な話し方の代表例として「省略」について解説します。何らかの先入観・思い込みによって、論理コミュニケーションにおける重要なパーツを「省略」して話すことによって、論理性が崩れるのです。いくつか事例を紹介しましょう。
●「論拠」を省略する
「私の将来は明るくない」
「当社が開発した新商品は売れない」
「こんな目標は達成できない」
「将来は暗い」「新商品は売れない」「目標達成は無理」……これらの結論に対する論拠が省略されています。ですからこの結論は非論理的といえるのですが、この結論を「前提」として話が進むと、会話が論理的にゆがんでいきます。
「私の将来は明るくないよ、だから何もやる気が出ない」
「当社が開発した新商品は売れない。にもかかわらず設備投資を増やすのはおかしい」
「こんな目標は達成できない。目標を設定した社長はどうかしてるよ」
●「比較対象」を省略する
「時間が足りない」
「給料が少ない」
「営業力が弱い」
「足りない」「少ない」「弱い」……これらは比較形容詞ですから、比較対象を省略せずに話さないと、論理的なコミュニケーションとはなりません。前述した例と同じように、この結論を前提にして話を展開すると会話がゆがんでいきます。
「時間が足りないのに、そこまでは無理」
「給料が少ないから、どうしても不満が解消されない」
「営業力が弱いんだから、全然売れないんだ」
●「結論」を省略する
「君からの連絡がないものだから……」
「仕事がすごくたまってるしね……」
「やる気が出ないんですよ……」
いわゆる「言わなくてもわかるよね」的な話し方です。背景や前提条件をお互いが共有していると、「話し手」が結論を省略して話をしても、「受け手」は何となくわかってしまうものです。「だから、どうした?」という突っ込みを入れずに会話が展開されると、当然、会話がゆがんでいきます。
省略された言葉は会話中に「見えないもの」です。したがって「見えないもの」に意識を向けることはけっこう難しく、スピーディに会話が展開している最中に、その「見えないもの」に意識をフォーカスするためには訓練が必要です。
雑談や世間話といった表面的なコミュニケーションならともかく、論理コミュニケーションにギアチェンジしたときは、相手の話に注意を払い、「論拠」「比較対象」「結論」……など、重要な手がかりが抜けていないかをチェックしながら聞きます。何らかの「省略」を察知したら、以下の要領で質問していきましょう。
●「論拠」の省略 ……「なぜ+具体的に、たとえば」
「当社が開発した新商品は売れない」
「なぜ、そのように考えるのですか? 具体的に、どのあたりが売れない要素となるのでしょうか」
●「比較対象」の省略 ……「何と比較して」
「給料が少ない」
「何と比較して給料が少ないと思っているのでしょうか。同僚と比較して? それとも、自分のライフプランで立てた目標と比べて?」
●「結論」の省略 ……「だから、何?」
「やる気が出ないんですよ……」
「やる気が出ないんだね。それで、何なの?」
「見えないもの」を見えるようにする質問は、正しくペーシングしながら実行しないと「尋問」のようになってしまいます。相手が気分を害し、よけいに話がこじれることもありますから気を付けたいですね。
ビジネスの現場では、やはり正しい「資料」といった仕組みを使ってコミュニケーションをとることが、もっとも手軽で、誰にでもできる解決手段と言えます。(正しい資料を作ることが前提です)何らかの問題解決するとき、目標達成するときは、正しい資料を手元においてコミュニケーションをとると、会話がゆがみにくくなります。正しい資料とは、論拠・結論などが「数値的」に表現された資料のことです。