あなたの会話の「ゆがみ度」をチェックする!
人と会話をしていて、話している内容が途中からゆがんでくることがあります。話の本題を、人間の「背骨」だととらえると、その「背骨」が歪曲するわけですから、話をつなげたい、話を前に進めたい……と考えている人からすると、大きなストレスになります。
無意識のうちに会話が「ゆがむ」人は、思考がゆがんでいる可能性も高いと言えます。認知力や論理思考力が低く、なぜか他人から誤解されたり、どうすればうまくいくのかよくわからない、という悩みを抱えることが多くなります。体の「ゆがみ」と同じこと。背筋が曲がり、体がゆがんでいると、身体のアチコチが痛んできます。体の痛みが心にも影響を及ぼし、イライラすることも多いでしょう。
たとえば、次の会話文に出てくる部下Bさんは、会話の「ゆがみ度」が高く、上司Aさんからいつも軽くあしらわれています。最後まで読んでみてください。
上司A:「2週間前の会議で宣言していた3S活動はやっているのか? 毎朝、出勤してすぐに10分、退社する前の10分、身の回りの整理・整頓・清掃をすると言っていたが」
部下B:「ああ、ちょうど今からやろうと思っていたんです」
上司A:「ちょうど今からって……。今は昼休み中だろ。オフィスに出社した後と退社する前にするんじゃなかったのか」
部下B:「しかし、ギリギリに出社することもありますから、出社した後すぐに整理整頓とかやっていると、業務時間中にかかってしまいます」
上司A:「何を言ってるんだ、君は……。始業時間ギリギリに出社しなければいいだけの話だろう」
部下B:「2週間前の会議でも言ったと思います。毎日やるよう努力しますが、残業がとても長くなったときは、はやく退社するほうを優先したいため、できないときもあるって」
上司A:「ちょ、ちょっと待て……。今、私は出社したときの話をしてるんだよ。それに、残業がとても長くなると言ったって、深夜にまで及んでいるのならともかく、そうでもないなら10分ぐらい整理整頓とかする時間はあるはずだ」
部下B:「以前、朝礼のときに、社長が1分でもはやく帰宅できるよう、工夫を重ねろと言っていたものですから」
上司A:「……君はどうして、『ああ言えばこう言う』を繰り返すんだ。言いたくはないが、そもそもそんなに毎日残業なんてしてないじゃないか」
部下B:「昨日、定時の6時に帰った理由を言えばいいんですか? 昨日はたまたま父の体調が悪く、母がはやく帰ってきてくれないかと言ってきたものですから」
上司A:「昨日の話をしているわけじゃないよ。もちろん理由があれば早く帰宅すればいい」
部下B:「理由がなければ、残業するのが普通なんですか? 残業する人を評価するってことなんですね?」
上司A:「誰もそんなこと言ってないだろう……」
部下B:「言ってますよ。私が残業をあまりしないことが気に食わないんでしょう? そもそも出社したときに整理整頓するのであれば、退社したときにやる必要がないと思いますが」
上司A:「自分で宣言したことじゃないか。知らないよ、私は……。もういい。やっぱり君とは話にならない」
部下B:「『やっぱり』とは、どういうことですか? 『やっぱり』なんて言われる筋合いはないです」
上司A:「もういい、もういいって……。わかったわかった。好きにしろ」
上司Aさんと、部下Bさんとの会話は、最初からずーっとゆがんでいます。上司Aさんは、部下Bさんに対して「2週間前の会議で自分が宣言したことをキチンとやるように」と伝えたいのです。これが会話の「背骨」の部分。しかし上司Aさんなりに努力したつもりが、話の「背骨」がゆがみ続けているため、部下Bさんとでは「会話にならない」「会話が成立しない」と思い込みます。そのせいで「やっぱり」という一言が最後に出てしまったのでしょう。
部下Bさんは、上司Aさんとだけでなく、他の人と話をしていても、会話をゆがませてしまいます。部下Cさんとの会話を紹介しましょう。
部下B:「この前、課長に頼まれた資料、今日の夕方までにやらなくちゃいけないんだけど、とてもそんな時間がないんだよね。どうしようか悩んでいる」
部下C:「あ、そうなの。課長にそのこと相談してみたら?」
部下B:「課長って、私にばっかり仕事を振ってくる気がするんだけど、どう思う?」
部下C:「そうかなァ、私にもいろいろと頼んでくるよ」
部下B:「なんか最近、課長の目が気になるっていうか……。すごく私に対して怒ってる気がする」
部下C:「そんなこと、ないでしょ」
部下B:「なんで、こんな会社に入ったのかなって、思うときがあるんだよね」
部下C:「……は?」
部下B:「ねえ、何のために人は生まれてきたのか、考えることってない?」
部下C:「何なの、突然?」
部下B:「最近、そういうことをよく考えるんだよね」
部下C:「それよりも、課長に頼まれた仕事をやったら? すぐにやらないから課長に怒られるんじゃないの?」
部下B:「やっぱり課長って、私のこと怒ってる?」
部下C:「え……。それは、わからないけど」
部下B:「だって今、言ったでしょう」
部下C:「うーん……。それは知らないけど、仕事をすぐに始めないからどんどん時間がなくなっちゃうんじゃない? あなたって、他にもそういうことあるよ」
部下B:「他にもって、何?」
部下C:「たとえば……。給湯室の掃除当番リストを作ってって先月言ったけど、結局なんだかんだ言ってやらないから私が作ったじゃないの」
部下B:「当番リストの話? そもそも給湯室の掃除を女子に押し付けているオフィスの風潮に、私は疑問を持ってるわけ」
部下C:「……はじめて聞いたけど」
部下B:「だっておかしくない? 女子ばかりで給湯室の掃除当番がまわってくるなんて」
部下C:「それは、そうかもしれないけど……」
部下B:「なんか、そういう悪しき風習がこの会社に根付いている気がするの」
部下C:「……」
ひとつひとつの「センテンス」に含まれる「キャッチワード」を拾い上げて、Bさんは思いつくままに発言し、会話をゆがませ続けています。Cさんは何とか、会話の「背骨」の部分を見つけて正しいレスポンスや助言をしようと四苦八苦しますが、Bさんがゆがませ続けるため、途中から「会話にならない」と思い、あきらめてしまいます。
会話がゆがんでいると、思考もゆがんでいきます。あげくの果てに性格までゆがんでしまい、人間関係を痛めてしまうこともあります。気を付けたいですね。
会話の「ゆがみ度」が低いのは良いことです。「背筋」が伸びて、話の本筋である「芯」がすーっと真ん中に通っているように会話が正しくつながるからです。いっぽうで、「柔軟性」までも低いと、別の問題が生じます。つまり姿勢はいいのですが、体が硬い人のことです。ストレッチなどをしないと怪我をしやすくなります。次の営業とお客様との会話を読んでみましょう。
営業:「……このように、当社の商品は品質、価格、納期、すべてにおいて競合他社に勝っております。ぜひ前向きにご検討ください。大手企業のX社も採用している機材です」
お客様:「ああ、X社といえば、あなたはX社の社長を知ってるかね」
営業:「いえ、存じ上げませんが」
お客様:「あの社長と先日、食事に行ったけど、とても気さくな人だった。お店は広尾の中華料理の店でね。確か六本木から近かったと思うが……」
営業:「その中華料理店の話と、わが社の製品を検討することと、何の関係があるのでしょうか」
お客様:「……え?」
営業:「先日、大変お忙しいという話を聞きましたので、スピーディに意思決定されたらよいかと存じます」
お客様:「X社の社長の話が出たから、私はその社長と親しいことを伝えたかっただけだよ」
営業:「私は当社の機材がX社に導入されていると話しただけで、X社の社長の話はしておりません。それに失礼ですが、1度食事に行かれただけで親しい関係とは言えないと思いますが」
お客様:「何だと? 私は君の大先輩である専務の大学時代の先輩だぞ」
営業:「お言葉ですが、お客様が当社専務の先輩であることと、本商談の意思決定との因果関係がわかりません。ご説明いただけますか」
お客様:「もういい。君とは話にならない。帰りたまえ。他の営業に来てもらう」
営業:「当社でこの機材の担当営業は私ひとりです。それに、先ほどの因果関係についてまだ説明してもらっていません」
お客様:「何だとォ……。君はいつもそのような態度でお客と接しているのか? どういう教育を受けているんだ?」
営業:「私の顧客折衝のポリシーと、当社の教育制度についてご説明すれば、先ほどの因果関係について説明していただけるのでしょうか」
お客様:「もういい! さっき言ったとおり、帰りたまえ!」
営業:「帰りたまえって……。『君はいつもどのようにお客と接しているのか、どういう教育を受けているんだ』とお客様が質問したから、私が答えたんですよ。だから私はそれに答えようとしているだけで――」
この営業は頭が硬くて、融通がききません。会話の「ゆがみ」を許容できないため、ゆがむたびに強制的に整えようとします。そのため相手との関係を痛めてしまい、築いてきた信頼関係を「骨折」させてしまいます。このような人は頭のストレッチ体操が必要です。柔軟に状況判断をすべきです。会話がゆがんでいるとわかっても、相手にうまく合わせて話をつなげ、話の本筋(本来のテーマ)に戻す必要があります。
ただ、認知力や思考力が低い人は、会話の「ゆがみ」に気付かないため、相手の話に合わすことができても、本筋に戻すことができません。これが柔軟性がある人と、ない人との違いです。常に会話の「ゆがみ」を意識し、シチュエーションによって柔軟に対応できることがベストですね。