どうしてあなたの話は伝わらないのか? ……「ストーリー」で話す癖はやめたほうがよい理由
コミュニケーションは大きく分けて2種類あります。雑談などの、表面的なコミュニケーションと、何らかの問題を解決するための論理的なコミュニケーションの2つです。表面コミュニケーションであれば、相手の気を引くためにストーリー形式(物語調)の話し方をすると盛り上がることがあります。時系列で、「起承転結」を意識しながら話す、というスタイルです。しかし論理コミュニケーションをするケースでは、話の論点――いわゆるストーリーの「オチ」から話さなければならないのです。まずはストーリー形式の雑談事例を書いてみましょう。
A:「この前、スターバックスに行ったら偶然、友達に会ってさ。その友達って、高校のときの同級生なんだけど、その子が音楽を聴きながらノリノリでコーヒーを飲んでるわけ」
B:「へェ」
A:「ちょっと近寄りづらくない? スターバックスで周囲の目を気にせずに体ゆすってるんだよ? その子ってB'zの大ファンだからさ、高校時代も休み時間にヘッドフォンつけてずーっとB'zを聴いてんの」
B:「ふーん」
A:「近寄りづらいけど、久しぶりだったから声をかけたんだよね。それで『何を聴いてんの? やっぱりB'z?』って質問してみたら『中島みゆき』って言うんだよね。マッサンの主題歌」
B:「マッサンの主題歌って『麦の唄』?」
A:「そうそう。私、あの曲聴いてノリノリでコーヒー飲んでる人ってはじめて見たわ」
B:「そうなんだー」
A:「それで思ったの。最近クヨクヨすることが多かったけど、スタバで中島みゆきをノリノリで聴いてる人がいるんだから、私もガンバらなきゃって」
B:「私もさァ、最近ちょっと驚いたことがあるんだけど、エアアジアの飛行機が消息を絶ったってニュースがあるでしょう?」
A:「うんうん。大変だよね……。それで?」
B:「私の高校の同級生が、いまエアアジア・ジャパンで働いてるんだって」
A:「じゃあ、マレーシアにいるの?」
B:「ううん、中部国際空港にいるって言ってたかな」
A:「でもさァ、エアアジア・ジャパンって、確かバニラ・エアって名前に変わったでしょう?」
B:「何? バニラエアーって? スタバの新メニュー?」
A:「違うってー! 何を言ってんのー」
AさんとBさんとの会話は、典型的な雑談であり、表面コミュニケーションです。何らかの問題を解決するためにコミュニケーションをとっているわけではありません。ですからAさんの話の論点――いわゆるオチ「最近クヨクヨすることが多かったけど、私もガンバらなきゃ」が、話の最後に登場しても大きな問題はありません。ただ、時系列で話をしたため、Bさんの頭に残らなかったようで、この論点は完全にスルーされてしまっています。Bさんは「最近驚いたこと」というキャッチワードを使って会話の「軸」を捻じっています。2人の話はまるで噛み合っていませんが、雑談ですからこれでいいのです。
いっぽう、ビジネスの現場などで論理コミュニケーションをする場合には、このようなストーリー形式で話をするのは避けたほうがよいでしょう。相手に正しく伝わらないことが多くなります。
上司:「X社の担当部長とはじめて会ったのは、確か3年前の幕張メッセでの博覧会のときだよ。君はそのイベントには参加してたかな?」
部下:「いえ。まだ別の部署にいたものですから」
上司:「そうか、そうだよな。あの博覧会は本当に大きなイベントだった。社長が新規事業を大きくしたいと言って巨額の投資を決めた年のことだ」
部下:「へェ」
上司:「私はその当時の部署メンバー6人と一緒に5ヶ月以上の準備をして臨んだわけだが、そのイベントを企画した広告代理店のミスで、集客が予想をはるかに下回ってしまった」
部下:「そうですか」
上司:「そのせいで博覧会そのものが盛り上がらなくってね、各企業のブースも閑散としていた。私も6人のメンバーと朝からずーっと電話をかけてお客様を呼んでみたものの、ほとんど良い反応はなかった」
部下:「すごい苦労があったんですね」
上司:「そうなんだ。そんな盛り上がらない博覧会に来てくれたのがX社の担当部長だったんだ。だから、当時、私にとってとても印象に残ってる」
部下:「へえ……」
上司:「そんな担当部長から連絡があり、今回の商談をなんとか滞りなく進めたいと言われている。ところが、担当である君の対応スピードが遅いという話じゃないか。さっきも言ったとおり、盛り上がらない博覧会にやってきた、唯一の見込み客がX社なんだ。私としてはとても大事にしたいと思ってるんだよ」
部下:「その博覧会の企画をしていた広告代理店というのは、どこなんですか?」
上司:「え?」
部下:「もしかしてZ社ですか?」
上司:「えっと……。どこの広告代理店だったかな」
部下:「大手でしょうか?」
上司:「うーん……。確か、大手だったような気がするが……」
部下:「ならZ社のような気がします。いや、実は私に心当たりがあるんです。以前勤めていた会社でも、似たようなイベントに遭遇したことがあるものですから」
上司:「そ、そうなのか。まァ、それはいいとして……。私が君に言いたかったことを、君は理解しているのかな」
部下:「え? 何の話でしょうか」
「X社の商談への対応スピードを速めてほしい」これが上司の話のコア部分――「論点」です。まずこれをはじめに伝えなければならないのに、X社の商談にかける自分の思いを「ストーリー形式」で話そうとしたため、部下にうまく伝わっていません。別の関心度の高いテーマへと話をすり替えてしまっています。
誤解されない、わかりやすい伝え方・話し方「ホールパート法」で書いたとおり、論理コミュニケーションをする場合、相手にわかりやすく「論点」が伝わる話し方をしなければなりません。話の論点である「幹」を一番はじめに伝え、その後に、「枝」、そして「葉」の順番に話すのです。まとめると以下のような形になります。
1.「幹」
2.「枝1」「枝2」「枝3」
3.「枝1+葉1」「枝2+葉2」「枝3+葉3」
ストーリー形式だと、
1.「葉1」+「枝1」
2.「葉2」+「枝2」
3.「葉3」+「枝3」
4.「幹」
このようになります。「葉」を話して、その要約である「枝」までも省略して話すと、論点である「幹」にどうつながるのか「受け手」は理解しづらく、最後のオチとして「幹」が登場しても、相手の心に残らないのです。話の「枝葉」の印象が強すぎるからでしょう。
論理コミュニケーションをする場合、話を盛り上げようとするサービス精神は必要ありません。自分の今の心情を理解してほしいから時系列で喋りたい、という気持ちはわかりますが、そこをグッとこらえて、まずは「オチ」から話すのです。つまり結果から伝える、ということです。特に日本語では――英語などと異なり――、修飾句・修飾節が「語」の前に置かれます。文章ひとつとっても、結論は最後のほうに設置される日本語特有の構造があるわけですから、伝えるべき論点は短めのセンテンスにし、しかも話のはじめに置く、が大原則なのです。