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「聞く力」をつける? ……話を聞くべきなのは、相手が話をしたがっているときだけ

横山信弘経営コラムニスト

150万部以上売れた阿川佐和子さんの大ベストセラー「聞く力」の影響か、やたら「相手の話を聞け」「相手の声に耳を傾けよ」と言う人が増えたように思います。しかし話を「聞く」にためには、相手が話さないといけないことを忘れている人が多いと言えるでしょう。

私は営業のコンサルタントです。現場に入って営業の指導をし、目標を達成させることが仕事です。営業の現場でも、やたらと「お客様のニーズを聞いてこい」と言う営業マネジャーがいます。確かに「相手の話を聞く」という行為はとても重要です。これはお客様に限らず、上司が部下に対してもそうです。夫が妻に対してもそうですし、子どもに対してもそう。「傾聴」という言葉もあります。相手の話に耳を傾けることで、信頼関係(ラポール)が構築されていくものです。

とはいえ「聞く」と言っても、耳を澄ませていればいいということではありません。人の話を聞くためのシチュエーションは2パターンあります。

● 相手が自ら話をしているとき

● 相手に質問をして、話をしてもらうとき

たとえば、妻が今日1日の出来事を夫に話したがっているのに新聞片手に「上の空」で聞くのは、当然よくありません。子どもがお母さんと話をしたがっているのに、スマホを見ながら聞くのも褒められたものではないですね。

「お母さん、聞いてるの?」

「ちゃんと聞いてるわよ」

と、「パズドラ」のゲームをやりながら言っても、相手を失望させるだけです。しっかりと面と向かって「傾聴」することが重要ですね。

ただ、このときに重要なことは「相手が話をしたがっている」という事実です。そうでないにもかかわらず、相手の話を聞こうと思っても、その思いは空回りをします。ビジネスの現場において、やたらと、

「お客様の話を聞け」

「部下の声に耳を傾けよ」

などと言う人がいます。とても無邪気な発想です。こういう安上がりな考えを真に受けて、部下を呼び、面談をする管理者がいます。

「今日はどんなことでもいいから、日ごろから思っていることを話してくれ。私は君の考えが知りたいんだ」

突然、管理者が部下にこのようなことを言うわけですが、ほとんどの場合、言われた部下はビックリします。

「なんでも話をしてくれと言われても、何もありませんが」

となるのです。日ごろから上司と話したがっている部下ならともかく、そうでないなら「話せ」と言われても「しっくり」きません。「私は聞く用意ができている」などと言われても、相手が「話す用意」がないのですから当然です。

部下でも、お客様でも同じ。相手が話をしたがっているのなら、話をしっかりと聞きましょう。途中で自分の意見を挟むことなく、笑顔で、うなずきながら、同調する態度で、最後まで、相手の言葉を漏らすことなく聞くのです。その姿勢がとても大切です。

そのためには、相手との信頼関係が重要です。日ごろから単純接触を繰り返し、いつでも話を聞く準備があるという「空気」を醸し出す努力です。こちらの都合で面談を設定し「話してくれ」と言う姿勢に問題があるのです。

営業もまったく同じです。

営業の都合でお客様を訪問し、「さあ話してください」と言ってもお客様は「しっくり」きません。「何かニーズはございませんか」「何かお困りごとはありませんか」「当社でできることがあったら何でも言ってください」と投げかけて「それなら……」と前のめりで話をはじめる都合のいいお客様など、ほとんどいません。

営業も日ごろから単純接触を繰り返し、いつでも話を聞く準備があるという「空気」を醸し出す姿勢が求められるのです。

また、ビジネスにおいては、相手を効果的に誘導することが求められるケースがあります。この場合、相手が喋りたいことを喋らせたらいいということではありません。営業がお客様に対してもそうです。上司が部下に対してもそうです。その場合は「質問」のテクニックが求められます。「質問力」です。前述したような「なんでも話してください」「日ごろから思っていることを言ってください」といった漠然とした質問ではなく、営業がお客様に対してであれば、

「現在、オフィスの業務効率化に向けて、取り組んでおられる具体的な対策を教えていただいてもよいでしょうか?」

「いま社員教育に力を入れる企業が増えていますが、社員教育にかける投資予算の上限額はどれぐらいになりますか?」

といった各論になります。このように現状確認の質問ならハードルはまだ低いですが、さらに相手を効果的に誘導するための「質問」はけっこうハードルが高くなります。

「あなたのライフプランを考えた場合、10年後にどのような家庭になっていればいいと思いますか。感覚的なものでいいので、お答えください」

「10年後にそのような家庭を築きあげるために、いま不足しているものを3つ上げるとしたら、何がありますか?」

「その3つを充足させるために、今すぐあなたがとるべき行動は何があるでしょうか?」

このように、潜在意識にアクセスするような質問は、とてもハードルが高く、質問者と、質問に答える側との深い信頼関係がないと実現は難しいと言えます。「質問力」を鍛えるのは、意外と難しい3つの理由に書いたとおり、人というのは、意外と質問されたくないものなのです。

冒頭に書いたとおり、巷では「人の話を聞け」「相手の声に耳を傾けよ」とよく言われますが、目的とシチュエーションによってプロセスや手順が異なります。相手が喋りたがっているのならともかく、そうでないなら聞く必要はありません。喋る気もない人に聞こうとすると「取り調べ」のようになってしまいます。こちらが短い「声かけ」をすればいいのです。短い「挨拶」でいいのです。それは部下でも、お客様でも、子どもでも、配偶者でも同じ。

話すのが苦手だという人もいるわけですから、やたらと「話を聞こう、聞こう」として質問を繰り返したり、あらたまった場所で面談を設定するのは、相手との間にある「空気」を悪くするだけです。気を付けたいですね。

【参考図書】

「空気」で人を動かす

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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