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部下を自動的に成長させるためには「その部下」を作ればよい

横山信弘経営コラムニスト

私は企業の現場に入るコンサルタントです。現場に入っていると、経営者や管理職の方々の悩みの多くが、部下に関することだとわかります。「なかなか主体的に動いてくれない」「責任感が乏しい」「もっと問題意識を持ってほしい」……など等。「主体的」「自発的」「責任感」「危機感」「当事者意識」「問題意識」といったキーワードをよく耳にします。

そして部下を育成するため、上司自身がコーチングを勉強したり、部下に研修を受けさせたりして対策を取ろうとします。とりわけ教育の機会を与えることは、とても有効な手段です。私も研修、セミナーの講師として常に思っています。しかしながら短期間で人が変わることなどありませんので、何より大切なことは継続です。

なかなか部下が変わらないといって、見切りをつけるのはお勧めしません。新人のときからコツコツ教育の機会を与えてきたのならともかく、そうでないなら、突然、研修を受けさせても、すぐに意識や行動が変わることはありません。人の思考プログラムを変えるキーワードは「インパクト×回数」。社内で教育しようが、社外に依頼しようが、部下育成は中長期的な視点が必要です。

「ニューロロジカルレベル」を使い、簡単に解説していきます。ニューロロジカルレベルとは、意識の階層モデルのことを指します。

■ ニューロロジカルレベルの5階層

1.アイデンティティー

2.信念・価値観

3.能力

4.行動

5.環境

1.アイデンティティーは、「私は~である」で表現できます。

2.信念・価値観は、「私の価値観は~である」。

3.能力は、「私の能力は~である」。

4.行動は、「私の行動は~である」。

5.環境は、「私の環境は~である」。

このように解釈するとわかりやすいでしょう。上司が部下を指導・教育するときは、まず底辺の「5.環境」を整え、上位層の「1・2・3」を承認したうえで、「4.行動」にフィードバックするのです。したがって、その反対をすれば組織の「場の空気」は悪くなって、組織全体のパフォーマンスが悪くなります。

つまり「お前はバカだ」などと言って、相手の「1.アイデンティティ/人格」を否定したり、「君の信頼しているものが間違っている」と、相手の「2.価値観/信条」を否定し、「あなたはセンスがない」などと、相手の「3、能力」を否定すれば、お互いの関係は著しく悪くなります。さらに、コンプライアンスを守らず「5.環境」を乱せば、現場の従業員から訴えられても仕方がありません。上位概念である「1.2.3」が承認されていないからです。部下が「主体的」に「問題意識」を持き、正しい結果を出してもらうためには、「4.行動」へのフィードバックを、継続的にすべきです。

「あなたはとても素晴らしい人だ。あなたの考え方も共感できるし、将来性も高い。ただ、先週のあなたのお客様に対する態度はよくないと思う。次回からは気をつけていこう。具体的な方法はこうだ……」

このように伝えるのです。ニューロロジカルレベルの下位概念に対して「回数」をかけるということです。

とはいえ、そんなに中長期的な視点で考えられない。今は切羽詰まっている。何とか短期間で、しかも手間をかけずに人を育てる方法はないのか? と問われたら、私はこう答えるでしょう。「部下を育てるために、その部下を作ればいい」と。「回数」をかけられないなら「インパクト」に頼ります。人を成長させる最もインパクトの強い出来事はその人の「アイデンティティ」を変えることです。一番上の上位概念を変えることです。

「アイデンティティ」を変えるとは、どういうことか? たとえば学校のクラブ活動で先輩になる。結婚して夫婦になる。子供が生まれて親になる。つまり「私が何者であるか」が変わる、ということです。このようにアイデンティティが変わる出来事はいろいろありますが、自分を著しく成長させるためには、誰かを成長させる立場(アイデンティティ)を手に入れることが一番効果があります。

「地位が人を作る」と言います。

子どもでも、生徒でも、部下でも、後輩でもいいのです。誰かを育てようとするからこそ自分が育つのです。まだ人に何かを教えられるような経験も、能力も、人間性もない、と考える必要ありません。「逆算思考」です。人に何かを教えているプロセスにおいて能力が開発され、そのような人格が形成されていくのです。少子高齢化は、企業の中にも見られます。それなりに年齢や実績を重ねているにもかかわらず、部下や後輩のいない人材が、昨今の日本企業にはたくさんいます。日本社会とって、これは大きな問題です。30代、40代なっても、なかなか責任感を持てない人が増えているからです。

組織内で調整ができなければ、人を雇用します。育たない部下に見切りをつけて新しい人を採用し、その人に期待をかけるということではなく、新しい人を採用して今の部下を育てる、という考え方です。組織の長にできなくても、何らかのプロジェクトを任せる。社内の勉強会の講師をさせる、等も、その人の「アイデンティティ」を変えて責任感を持たせることになりますが、「部下を作る」ことが最もインパクトがあり、効果が期待できます。

(※人を採用する余裕がないというのであれば、業績を上げて余裕を持たせることが手順として先にきます)

【参考コラム】

部下の「やる気」をアップする逆転の発想

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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