なぜ「ネット広告」は日本人に効果が少ないのか?
インターネットの普及に伴い、ネットによるプロモーション活動を実施する企業が増えています。ネットによるプロモーションといっても多岐にわたるわけですが、いずれの場合もコストがかかるため慎重に考えましょう。そのコストを分解し、どういったプロモーションが効果があるのか、そして再現性が高いのか、今回のコラムで検証していきます。まず、ネットプロモーションにかかるコストを大きく分けると、以下の2つになると思います。
● 労力がかかるもの
● 費用がかかるもの
「労力という名のコスト」か、それとも「お金というコスト」をかけるのかのどちらかです。労力の場合、お金がかからない分、時間がかかります。お金をかける場合は、それほど労力も時間もかかりませんが、コンバージョン率が不安定になります。
労力をかけてプロモーションする場合、使用するのは「ブログ」「フェイスブック」「ツイッター」「メルマガ」といった媒体です。あまり費用はかからないでしょうが、軌道に乗るまではそれなりの時間がかかります。求められるのは継続力です。そしてセンス・感性がないと読者を惹きつけることは難しいでしょう。
お金をかけてプロモーションする場合は「ネット広告」がわかりやすいと思います。「ネット広告」は、閲覧者に一発で興味を持たせるコピーライティングが決め手。ついついクリックしたくなる「キャッチコピー」を研究することが重要です。(お金をかければすぐにうまくいく、というわけではありません)
私は現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントです。あらゆる営業・マーケティング活動を通じて結果を出そうと試みます。その際、つくづく思い知らされることは、ネットに依存していると、再現性が低く、効果効率性も悪くなるということです。ここで、必ず覚えておかなくてはならない重要なファクターは「認知」という概念です。誰かが発信した「言葉」を、受け手はその「言葉」どおりに正しく認知しないという事実です。省略(選択的認知)、歪曲(認知バイアス)によって多くの場合ミスコミュニケーションが発生するのです。
今の時代、必要なものを、必要な分だけ、必要なタイミングのときだけ、欲しがるお客様にマーケティング戦略はほとんど必要ありません。そういうお客様には、どこにいけば、その情報が手に入るかを知ってもらうだけでいいからです。しかしそれだけで目標が達成するなら、商品力に頼っているだけ、ということになります。外部環境が変化したり、新たな脅威が現れたときに業績がガクンと落ちる可能性が高いことでしょう。
商品に対するニーズがないのに、動かされるお客様の行動特性は3つに分けられます。
● 同調性が高い
● 被暗示性が高い
● ストレス耐性が低い
被暗示性が高い人は、暗示にかかりやすいということです。占いや迷信を過剰に信じてしまう人を指します。「世界の破滅が近づいている」「宇宙とつながることで幸福になれる」というような情報で心を動かされる方々とも言えるでしょう。「被暗示性」の高い人は一定数存在し、このような方々を対象にビジネスをしている人はいます。
ストレス耐性が低い人は、借金苦、病気、強い負のコンプレックス……等、何らかの不安を抱いている人たちです。ストレスを嫌がって、やるべきことをやらない人もこのカテゴリーに入ります。このような「ストレス耐性」の低い人たちには「好きなことだけやっていれば成功する」「毎日10分の作業をするだけで1億円稼げる」というキャッチコピーに惑わされることでしょう。「ストレスかけずに問題を解決するテクニックがある」というコピーです。
ここまで極端ではなくても、「え! あなたの保険会社がなくなる?」「気が付いたときにはシロアリで家がボロボロに……」「朝起きたときに目が霞んでたらこんな病気だった!」といったキャッチコピーに強く反応する人も一定量は存在します。ストレスに弱いと、巧妙な「煽り」を受けることで動かされてしまうのです。
秀逸なキャッチコピーはぜひ研究していただきたいですが、これだけに頼ってビジネスをしていると、ブランドが毀損してくることがあります。お客様と正しい信頼関係を構築することが難しくなるのです。以下の会話を読んでみましょう。
「こういったホームページを構築することで、ものすごく結果が残せるらしいよ」
「本当に? また騙されてるんじゃないの?」
「騙されてる? そんなことないよ」
「前だって、フェイスブックページを使うだけで商品が飛ぶように売れると言ってたじゃないか。結局、全然結果が出ていないだろ」
「あれは自分のやり方が悪かっただけだよ。今度は違う。従来にはない、新しいホームページの形態だそうだ」
「俺はいいよ。なんか怪しいから」
「怪しくなんかないよ!」
「もっと地道に営業活動をしたらいいじゃないか」
「そんな効率の悪いことやってられないよ」
「結果を出してもいないのに、よく言うなァ」
「被暗示性の高い人」「ストレス耐性の低い人」の発想は論理性に欠けていることが多いため、一般的に影響力は低いと言えます。つまり口コミで広がるといってもかなり限界があるということです。「被暗示性の高い人」「ストレス耐性の低い人」は「被暗示性の高い人」「ストレス耐性の低い人」のインフルエンサーにしかなれません。
キャッチコピーや宣伝広告で結果を出しても、最初だけです。物事を「点」でとらえるのではなく「線」で考えるのです。いま儲かればいいという姿勢だと、正しく評価してくれるお客様が寄り付かなくなります。「空気」で人を動かすに書いたように、日本人は言葉を省略し、省略した箇所をその「場の空気」で何となく埋めてしまう特性があります。「言語的」なものよりも「非言語的」なものに動かされると言えます。もっと一般的な人を巻き込む人間の行動特性を考えることを私は提案します。
特に日本人は和を尊ぶ人種です。日本企業にイノベーションが起こりにくいのは、イノベーター的な発想が、これまで形成していた「和」を破壊するリスクを周囲が感じるからです。つまり、特殊な人だけが採用した考え方や商品ではなく、多くの人が支持する物事、多くの人がすでに活用している発想を支持する日本人特有の行動特性があるのです。
これが「同調性」です。
日本人は「同調性が高い人」が多いのです。良くも悪くも、革新的な商品、ちょっと変わった人の意見を受け入れるには時間がかかります。その場におかれた「空気」を読む、独特の習性があるからでしょう。「脳のミラーニューロン」により、人は近くにいる人の影響を否応なく受けます。しかも信頼のおける人であれば、無意識のうちに共感、同調してしまうものです。
ネットの世界は「言葉」の世界です。しかしどんなに「言葉」の力を磨いても、人が人に影響を与えるのは「言葉ではないそれ以外の情報」なのです。「これを買ったほうがよさそう」「せっかくだから決めてしまおうか」「実は前から欲しかったんだ」という「気分」にさせる力が「非言語」にはあるのです。
日々更新する「ブログ」や「フェイスブック」「ツイッター」などは、更新者の「人間性」を文章や写真に込めることで、擬人化できます。それによって多少の「同調性バイアス」を閲覧者にかけることはできるでしょう。(しかし難しいテクニックです)「煽り」を主眼に置いたネット広告はあくまでも脇役。プロモーション活動は「人そのもの」を主役に据えて行うすべきです。
ネット広告でうまくいっている人がいるとしたら、「たまたま偶然(再現性がない)」か、「革新的な発想がある(再現性がない)」か、「バックに人脈がある(再現性がある)」か、「ブログやSNSで発信している内容に人間味があり、仕組みを擬人化している(再現性があるが非常に難しい)」かのどれかです。いずれにしても再現性を求めるなら、「人」を絡めていかなければなりません。結局は「人」に信頼を持てない、「人」に対して何らかの働きかけをすることにストレスを感じる人が、ネットに依存したプロモーション活動をしたがるのです。気を付けたいですね。
【参考図書】