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「トリセツ部下」と「シャセツ上司」の痛い関係

横山信弘経営コラムニスト

「トリセツ部下」とは?

「イベントの企画書を作れと課長から言われたんですが、企画書を書くためのマニュアルはありますか?」

「社内システムの使い方がわからないので、トリセツとかありますか?」

「お客様から在庫の状況について問合せを受けた時、どんな対応をしたらいいのか手順書はありますか?」

「わからないことがあったらその都度聞いて」と上司が言っているのに、そのたびに「マニュアルありますか?」「トリセツはないんですか?」と聞く部下がいます。マニュアルや取扱説明書(トリセツ)は便利なものですが、依存していると「考える力」が身につかなくなるという副作用があります。トリセツがないと、何をやったらいいかわからないと言い、やたらトリセツを求める部下を「トリセツ部下」と私は呼びます。

仕事はすべてを事細かく形式知化できるわけではありません。たとえできたとしても、それに慣れてしまうと、わからないことは知っている人に質問する、という大切な習慣も身につきませんし、不測事態が起きた時の対応能力も欠如していきます。何よりも、うまくいっている人を見つめる観察眼が養われないことが最も大きな問題です。

経営コンサルタントとしての私の基準を紹介します。「昔は存在しなかった高度で複雑な機械やシステム」を頻繁に使用する場合にはトリセツが必要で、それ以外は全部その都度、知っている人に聞きながら覚えましょう。「考える力」「質問する習慣」がなくなると、よけいに非効率的になるからです。

「シャセツ上司」とは?

「シャセツ上司」とは、自らを安全圏に置いて、まるで他人事のように会社が置かれた現況の分析、評論、批判しか言わない上司です。まさに新聞の「社説」に書いてあるような言説を、会議の冒頭などで演説をする上司です。

「我が国は現在、……のような経済環境にあり……このような中、増税後の当社が置かれている現状を鑑み、意見を述べさせてもらうと……というわけであり、現経営陣は製品ラインアップを刷新するか、新しいチャネルを開拓をして……をするなど、難しい判断を迫られそうだ」

とか、

「現在、当社の最大の取引先であるM社との取引継続について社長がゴールデンウィークがはじまる4月下旬までに……のような条件において交渉を続けている。交渉の焦点は……であり、社長には、……や……といったバランス感覚を求められるだろう。私としては……の教訓からして、M社と競合関係になることは何としても避けなければならないと考えており、重大な関心をもって見つめていきたい」

……等、「シャセツか!」と突っ込みたくなるような陳述ばかり話します。もっともらしい言葉を並べ立てて、詳細な提言をしません。これを聞かされた部下たちは、どう反応をしたらよいのかわからないのでしょう。「社説」を読んでいるのと同じで「へええ」「ほう」「なるほどねぇ」ぐらいの感覚しか得られません。

「あるべき姿」と「現状」とのギャップが問題です。部下に問題意識を持たせ、その解決策を一緒に考えて行動していくのが上司の務めです。組織における現状分析のみ行い、他人事のように解説・コメントを放り投げるだけではいけません。このような「トリセツ部下」と「シャセツ上司」ばかりが組織にいると、何も前に進まないでしょう。

シャセツ上司が「……このようなわけで、批判の矛先が社長の中期経営計画に向かわないか、難しい舵取りを迫られている」と言えば、当然トリセツ部下は「上司の取扱い説明書ってありますか?」と質問したくなるでしょう。問題を正しくとらえ、自分でその打開策を考える力を身に着ける訓練が日ごろから必要です。

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経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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