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スマホ契約に代表される「レ点ビジネス」は儲かる仕組み

横山信弘経営コラムニスト
「レ点ビジネス」で膨大な収益をあげる業界……

スマホ、携帯電話の契約時の「レ点ビジネス」

あなたは「レ点ビジネス」「レ点営業」という名前を聞いたことがありますか? 携帯電話やスマートフォンの契約時に、□に「レ点チェック」させるやり方で契約の同意を得たとみなす方法を「レ点ビジネス」「レ点営業」などと呼びます。

ドコモ、au、ソフトバンク、すべての通信キャリアが「レ点ビジネス」を展開しています。ドコモなら、dビデオ、dヒッツ等。auならスマートパス、ビデオパス、うたパス等。ソフトバンクなら、UULA(ウーラ)、Yahoo!プレミアム等……。

通信プロバイダーの契約時でも、セキュリティや保障のオプションパックで、この「レ点ビジネス」は見られます。マーケティング手法として、この「レ点ビジネス」はどんな特徴があるか、考えてみましょう。特徴は2つあります。

● 難解なサービス内容と料金プラン、課金発生時期

● 高いスイッチングコスト

製品リテラシーの低い人は気を付けたい「レ点ビジネス」

あなたはスマホや携帯電話の料金プランに詳しいでしょうか? スマートフォンで1分電話をかけるのと、いわゆるガラケーで1分電話をかけるのと、どれぐらい異なるかご存知ですか? 毎月100円のオプションサービスが半年後からスタートし、2年後には200円になるサービスがあるとして、5年間でどれぐらいの費用が計上されるか計算できますか? 新しい通信キャリアに乗り換えることで1万円の乗り換えコストがかかるが、移行することで8000円の商品券が半年後に手渡され、さらに最初の1年間は以前よりも10%引きの通信費用となる。ただ2年後からは1000円割増しになるが、「絶対お得」と言われて、3年間でどれぐらいお得か? 5年間でどれぐらいお得か? もしくは損するか? 計算できますでしょうか。

商品やサービスに対する知識が乏しい人は、このように、料金プランが複雑で、課金発生時期がわかりづらいと、販売員の言葉に誘導されてしまいがちです。

「気を付けていただきたいのは、このオプションサービスです。このオプションに入っていただくことで、2000円割引になるのですが、半年間後に解約すれば問題はありません。解約の仕方は、こちらの電話番号にかけていただければいいのです。今から電話番号を言いますのでメモをしていただけますか?」

販売員はこのように言ってお客様に電話番号を書かせ、申込み書の□欄に「レ点チェック」してもらいます。販売店にはオプションを売るノルマがありますので、後で解約されても痛くもかゆくもありません。しかし、一定の割合で「解約し忘れている人」がいるはずです。必要もないオプションサービスを申し込んでいるのに、

・忘れている(料金明細をチェックしない)

・解約が面倒なので放置

・解約方法がわからない。メモをなくした……等で、しぶしぶ放置

という人たちはいるものです。月額100円でも、ひとり年間1200円です。5年放置しておけば6000円になります。こういった方が2万人いれば、1億円を超える収益となります。一切の仕入れコストが発生しない「利益」が自動的に入りますから、まさに「儲かる仕組み」と言えますね。

スイッチングコストの高いビジネスに横行

「スイッチングコスト」とは、乗り換えコストのことです。継続して利用している製品やサービスから、代替性のある製品やサービスに乗り換える際に発生するコストを指します。スマホや携帯電話の契約。通信プロバイダー、保険や電気、ガスなどもそうです。

乗り換えようとするときに発生する解約手数料はまさに「スイッチングコスト」です。しかしそれだけではありません。「手間コスト」「心理的コスト」も重要な「スイッチングコスト」です。わざと面倒な契約プロセスを体験することで、

「いい加減、携帯電話を変えたいけど、変えるのが面倒くさい」

「通信プロバイダーを変えたいけど、レンタルしているモデムをどうすればいいかわからない。面倒くさい」

面倒くさがりの人は、「今のサービスは使い勝手が悪いけれど、乗り換えるのが面倒だからそのままにしてある」と考えるかもしれませんし、ご年配の人になると「どういう契約をしたかよくわからないけど、別にいい。そんなにたくさんお金を支払ってるわけじゃないし」と受け止めているかもしれません。

「レ点ビジネス」は、こういったスイッチングコストの高い商材によく使われる手法です。「レ」の文字を書くだけで契約となりますが、いろいろな心理ハードルによって、契約解除しなくなる(できなくなる)ストックビジネスなのです。もちろん詐欺ではありませんし、不正商法でもありません。ただ、消費者サイドに立つと、少し気を付けたいビジネスのあり方であることも間違いありません。

「LINE電話」と「楽天でんわ」が登場した意味

「LINE電話」と「楽天でんわ」をビジネス利用で比較するで書いたとおり、既存の通信キャリアにとってこれらのサービスは脅威です。「LINE電話」「楽天でんわ」は契約に手間がありません。スマートフォンにアプリをダウンロードして、使いたいときに使うわけですから、「契約」そのものがないのです。もちろん「レ点ビジネス」「レ点営業」もありません。そのため「スイッチングコスト」がゼロ。新しいサービスが出てしまえば、すぐに乗り換えられてしまいます。そのため競争が激しくなり、消費者のニーズに近いサービスに成長していく可能性があります。

現在、通信キャリアはとても高い収益を誇っています。なぜこのように儲かるかは、「レ点ビジネス」に代表される「儲かる仕組み」があるからです。しかし正しい競争の上に成り立った健全な業界と言えるでしょうか?「LINE電話」と「楽天でんわ」といった別業界からの新規参入によって、消費者にメリットのある市場に成長してもらいたいと思います。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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