【落合博満の視点vol.60】ドラフト指名がなかった大学生野手は何を鍛えればいいのか
毎年100名超、今年は187名もの大学生がプロ志望届を提出した。独立リーグ入りを目指す者もいるが、大半はNPBのドラフト指名、それも育成ではなく支配下での指名を望む。だが、指名されずに社会人や独立リーグなどへ進み、次のチャンスを待つ者も少なくない。
投手の場合は、社会人や独立リーグで目立つ実績を残せば即戦力として指名を受けられるケースもあるが、大学生野手が社会人や独立リーグを経てNPBの扉を開くのは、むしろ険しい道と言ったほうがいい。実際、大学卒業時にプロ志望届を提出したものの指名されず、社会人で指名された野手は、今年が平良竜哉(九州共立大-NTT西日本-東北楽天)ひとりだけ。昨年も中村健人(慶大-トヨタ自動車-広島)、一昨年も今川優馬(東海大北海道-JFE東日本-北海道日本ハム)のひとりで、2019年、2018年はゼロである。
「投手は毎年、頭数が必要だが、野手の場合は球団の補強ポイントに合致しなければならないし、ファームにいる選手と比較しても力が上と判断できなければ指名しない」
多くのスカウトがそう説明する中、落合博満は独自の視点でこう語る。
「現在は志望届を出さなければ指名されないけれど、大学生は“高校からプロ入りできなかった選手”と考えたほうがわかりやすい。同い年で高校からプロ入りした選手は4年間、プロの練習をしているんだから、それを上回る力をつけなければ指名されないと割り切り、大学レベルの野球をしっかり身につけることでしょう。私自身は、バッティングよりも守備力だと思う」
セカンドの定位置を手にしたからこそ三冠王になれた
そう落合が指摘するのは、自身の野球人生が大きく関係している。東洋大を中退し、東芝府中から26歳になる年にロッテへ入団した落合は、桐蔭学園高から入団して4年目、年齢では4歳下の水上善雄(現・橘学苑高監督)とショートのポジションを競う。そこで水上が定位置をつかんだため、落合はショート以外の内野をこなしながら一軍とファームを行き来することになる。
2年目を終えると、守備指導の達人と言われていた河野旭輝コーチから「セカンドなら空いているが、レギュラーを目指してみるか」と問われ、シーズンオフも返上して練習に取り組む。そして、3年目の1981年にセカンドの定位置を確保して首位打者に輝き、翌1982年は一気に三冠王まで登り詰める。レギュラーポジションは打力ではなく、セカンドをこなせる守備力で手にしたのだ。
そうした経験をしているからこそ、落合は「バッティングには色々な考え方があり、自分には何が合うのか考えていくことが大切だけど、守備は腕のいい指導者に教わったもの勝ち」ときっぱり言い、「ショートができればセカンドもできるということはないし、外野だってレフト、センター、ライトの守り方はすべて違う。そのことは認識しなければいけない」と念を押す。
そんな落合が中日でゼネラル・マネージャーを務めていた時、阿部寿樹(現・東北楽天)を獲得するプロセスは興味深かった。落合が初めてプレーを視察した2014年に、阿部は社会人3年目、ドラフト指名にはラストチャンスと見られる25歳だった。大型遊撃手として攻守に高く評価していたものの指名はしなかった。ただ、翌年も熱心に阿部のプレーを視察し、ドラフト5位で指名する。その理由を尋ねると、落合はこう答えた。
「去年は左右の打球を追う際に真横に走っていたけれど、今年は二塁ベースより前で処理しようと斜め前に走ってきたでしょう。あの動きができれば、プロでもやっていける。バッティングも、いいものを持っているのに去年は八番だった。どこか監督やコーチから信頼されないものがあるんだろうと見ていたら、今年は三番に座っているじゃない。それならプロでもできますよ、と指名したんだ。ただ、即戦力とは考えていないよ。プロでも守備は教わり、バッティングは先輩のいいものを盗んで、30歳くらいで出てきてくれればいい」
大学卒業時にドラフト指名されなかった野手は、社会人で目立つ打撃成績を残してプロから認められようと奮闘する。だが、落合は「アマチュア球界のスラッガーと呼ばれても、プロと比較したら……でしょう。だけど、守備が上手くなっているなぁ、という選手には目が行きますよ」と結ぶ。2年後のドラフトでは、そんな選手が見られるだろうか。
(写真提供=小学館グランドスラム)