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「投手のことはわからない」という落合博満が提案する効果覿面の投手指導【落合博満の視点vol.47】

横尾弘一野球ジャーナリスト
プロとアマチュアの歴然とした差は、球速や投球術よりも制球力だと落合博満は言う。(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

「投手のことはわからない」

 落合博満は口癖のようにそう言い、中日で監督を務めていた8年間も、投手に関する指導は森 繁和ヘッドコーチらに任せていた。ただ、その森によれば、落合は投手のことをよく勉強しており、打者目線での指摘には目から鱗というものも少なくなかったという。そんな落合は、社会人などアマチュアを指導する際、投手へのアドバイスを求められるとユニークな練習法を提案する。

 ブルペンで捕手に外角低目に構えさせ、そこを目がけて10球続けて投げ込むというものだ。

「捕手がミットを動かさずに6球捕れば、間違いなくドラフト指名される。7球なら一軍レベル、8球以上なら一軍で先発ローテーションに入れる」

 落合にそう言われると、投手たちは懸命に10球を投げ込む。ただ、過去に見た中では社会人でも平均が3~4球で、6球をクリアできる投手はなかなかいない。

「プロならば、大半の投手が6球はクリアできるし、一軍で5勝、10勝という投手は8~9球をしっかりコントロールできる」

 そう言う落合は、3~4球しかクリアできず、肩を落とす投手に加え、捕手や他の野手も集めてこんな話をする。

本当の実力を知れば、自分が何をすべきか見えてくる

「いいか、キャッチャーは、これが自分のチームの投手陣のレベルだと受け止めてほしい。要求したコースにストレートを10球中3~4球しか投げ込めないのだから、それを織り込んだリードをしなければ痛い目に遭う。公式戦の大事な場面になれば、その実力に加えて緊張したり、力んでしまったりするんだ。勝負どころで外角低目にストレートのサインを出しても、そこへ来る確率は30%あるかないかだということを知っておいてほしい。

 次に、バッターは、これが日本一を目指すチームの投手のレベルだと知っておいてほしい。大きなプレッシャーもない場面で、外角低目に狙って投げ込める確率が30%なんだ。それだけ思い通りに投げられないのに、なぜ公式戦で勝てるんだ? それは、対戦する打者がボール球を振って助けてしまうからだろう。一打勝ち越し、同点という場面なら、バッテリーのほうが大きなプレッシャーを感じているのに、チャンスのはずの打者が打ち気に逸ったりして助けていないか。そうやって考えていけば、チャンスで打席に立ち、初球からフォークボールを空振りするようなことはなくなるはずだ。

 そして、ピッチャー。一日に投げ込むのが50球程度じゃ少ないとか、ストレートに変化球を織り交ぜるのではなく、ストレートだけをしっかり投げ込めとか、そういうことは好きにすればいい。アマチュアにだって150キロを出せる投手は何人もいるし、プロでも通用する変化球を持っている投手もいる。でも、プロとアマチュアの差が歴然としているのは、外角低目に10球投げた時のコントロールだ。練習への取り組み方は自由だけど、プロへ行きたいのなら、その現実だけはしっかり受け止めてほしい」

 落合の言葉を真に受け、この練習を採り入れた投手は、着実にレベルアップしてプロに巣立っている。大切なのは、この練習法の善し悪しではなく、この練習によって自分の本当の実力を知ることにより、何をすべきかが見えてくることなのではないだろうか。

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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