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【落合博満の視点vol.45】プロ入りしたい選手に一番必要なものとは

横尾弘一野球ジャーナリスト
プロを目指す選手たちも、新たなシーズンをスタートさせている。

 落合博満は中日で監督やゼネラル・マネージャーを務めていた時、プロを目指す選手について次のように語っていた。

「複数の球団からドラフト1位候補と評されるような逸材でも、実際にプレーを見ると『何だこんなものか』と感じさせられることは多くなった。反対に、ドラフトの順位が低くても『想像していたよりいいじゃないか』と感じる選手もいるわけで、こればかりは実際にプロの世界でやってみなければわからないというのが本音だ。ただ、昔に比べると『アマチュアで何を教わってきたんだ』と感じられる選手は増えた」

 これは、アマチュア指導者のレベルが低いという意味ではない。現代は少年野球でも勝つことを求められているから、昔のように素質のある選手をじっくり育てることができていないと見ているのだ。

 そして、練習法からトレーニングに至るまで、あらゆる情報が溢れている時代になったことで、自分から何かを吸収していこうという気持ちの強い選手が少なくなったとも感じているという。

「高校なら高校、社会人なら社会人までに教わるだろうということはできる。でも、プロを目指していたのなら、こういうことも覚えておかなければいけないでしょう、という部分までは学んでいない。自分の体の構造がどうなっていて、だからこういう使い方をすればいいというような……。そういうことがわかっていればプレーの質も高くなっていくし、故障も減らせるわけだから」

大舞台を「楽しむ」世代がどうとらえるか……

 では、どんな選手ならドラフト指名される確率が高くなるのか、と尋ねた。

「個人的な意見を言えば、100mを陸上競技のオリンピック選手並みのスピードで走れたり、ストレートがコンスタントに160キロ以上なら、コントロールがなくても獲ってみたい。要するに、滅多にいない身体能力を備えていれば、プロが野球の技術を教え込めばものになるかもしれないから。

 また、性格も、悪いと評判になっているような選手は困る。だからと言って、他人の言うことを何でもよく聞いて、性格もいい。だから、いい選手かと言えば、それも違う。ひとつだけ言えるのは、野球をする頭のいい選手は伸びるということ」

 落合は監督に就任した時、関根潤三(元・横浜大洋、ヤクルト監督)から教えられたことがあるという。それは、「これだけ繰り返して教えたのだから、できるだろう」と考えてはいけないということ。監督になって、その言葉をよく思い出したという。そして、自分からテーマを見つけて考えたり、吸収力のある選手は心配が少なかったとも振り返る。

 そうした指導者としての経験も踏まえ、プロを目指す選手、実際にプロ入りしてから長くプレーしたいと思う選手に必要なものを次のように挙げる。

「アマチュア時代に逸材と言われた選手が続々と入ってきて、それでも名前を売れる選手と志半ばで消えていく選手がいる。そういう世界で一年でも、1試合でも長くユニフォームを着たいと思うなら、“野心”を持つことじゃないかな。向上心って言えばいいのかもしれないけど、プロの世界を生き抜くためには、自分を高めていこうとするだけでは足りない。

 まず、入団したチームで同じポジションのライバルとの競争に勝たなければ、レギュラーへの挑戦権を得ることはできない。ベテランや中堅とのレギュラー争いに参加できたら、『あの人が引退したらレギュラーを獲るぞ』という気構えではダメ。チームの看板選手の寝首をかいたってポジションを奪ってやろうというくらいの気持ちがなかったら、本当に厳しい世界でトップに行くことはできないでしょう。

 そして、レギュラーになったら、ファンの期待を背負ってライバルチームと戦っていくわけだから。要するに、プロで生き抜くということは、自分だけがどうというものじゃない。常に相手があってのことなんだ。どんな相手が来ても蹴落としてやるという強い気持ち。それはやはり、向上心では足りない。“野心”になると思う。

 この“野心”を秘めると、自分から野球のことをよく考えるようになる。どんなにいいチームに入り、どんなに大きな期待をかけられ、どんなにいい指導者に巡り会ったって、結局は自分を成長させるのは自分しかいないんだから。そのことは忘れないでもらいたい」

 『野心』を辞書で引けば、密かに抱いている望み、新しい大胆な試みに取り組もうとする気持ち、とある。落合が向上心では足りず、あえて野心と表現するには、経験者ならではの深い意味があるような気がする。甲子園、大学選手権、都市対抗の大舞台を「楽しむ」と表現しながら、プロの世界を目指す現代の若者たちが、野心という言葉をどうとらえ、どんな野心を抱くのか興味深い。

(写真提供/小学館グランドスラム)

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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