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【落合博満の視点vol.41】打率2割8分の打者が3割をクリアするにはどうすればいいのか

横尾弘一野球ジャーナリスト
「どうすれば打率3割を打てますか」は、落合博満が何度も聞かれるテーマのひとつだ。

 昨年12月16日に契約更改に臨んだ阪神の糸原健斗は、2400万円増の推定年俸7900万円でサインをしたあと、記者会見でこんな話をした。

「2割8分からの壁が高いので、それを打破できるように。来シーズンの目標は、3割と出塁率4割」

 昨シーズンは打率.286をマークし、プロ5年間の通算打率も.279の糸原にとって、3割は超えられそうで超えられない壁のようだ。このように、野球界では昔も今も、打率3割の壁と闘っている選手が少なくない。

 3度の三冠王がクローズアップされる一方で、初めて規定打席に到達したプロ3年目に打率.326で首位打者に輝き、「三冠王を狙わなければ打率4割は打てる」と豪語した落合博満は、現役時代から3割をクリアする方法をよく聞かれている。

「3割を達成した選手と、できなかった選手の違いは目標設定にある。2割8分を3割にしたいと考えた選手の多くは達成できず、首位打者を狙って3割3分は打ちたいと考えた選手は比較的スムーズに3割を超える。公言するかどうかは別として、目標設定は高過ぎるくらいがちょうどいい。なぜなら、3割を目標にして2割9分、2割9分5厘と上げてくると、余計な重圧を感じて自分の打撃を崩してしまうケースが多い。だからこそ、3割を通過点と思える3割3分あたりに目標設定したほうがいい」

 また、2割8分を3割にするために、技術面で何かを変えたいと考えている選手に対して、落合は「2割8分が3割、3割3分と飛躍していく可能性はあるが、2割5分に落ち込むリスクもあることを忘れてはいけない」と念を押す。

「打撃フォームは十人十色だけど、始動からフォロースルーまですべて完璧という選手はそういない。私も含めて、どこかに欠点や悪いクセがあるものだが、それでも全体の動きとしてはある程度まで理に適い、2割8分という数字を残している。プロなら、3年、5年と2割8分を打っている選手をクビにしようとは思わないだろう。つまり、現状維持でもいい部分に手をつけるわけ。だからこそ、欠点だと自覚していたり、悪いクセだと指摘された部分だけを直そうとすると泥沼にはまるかもしれない。打撃フォームには、欠点と欠点が補い合う、つまりマイナス×マイナスでプラスに転じている部分がある。そのひとつだけ修正すると、プラス×マイナスでマイナスになってしまうということだ」

ヒットが増えなくても3割に近づく方法はある

 落合の打撃指導を見ていると、打力に乏しいアマチュア選手に対しては、スイングの基本的なメカニズムを説明しながら、その選手に合うと考えられるスイングを提示する。「現状で打率1割台なのだから、試行錯誤しながらでも2割、2割5分を目指すべき」だからだ。しかし、プロを目指すレベルにあるアマチュア、あるいはプロの一軍クラスには、スイングの修正よりも確実性を高められる練習法やボールの見方、打率の考え方などをアドバイスすることが多いと感じる。

「100打席(100打数)で考えれば、28安打で2割8分、30安打で3割。たった2安打の差でしょう。フォームのどこかを変えるリスクよりも、28安打の内容を分析してみればいいんじゃないか。足に自信がある選手なら内野安打を増やすとか、選球眼に課題があるならボールの見方を教わるとか。例えば、28安打のままでも、7つのフォアボールを選んで100打席で93打数になれば、3割1厘で目標は達成できるのだから」

 そして、こんなアドバイスで結ぶ。

「チームが10対0で勝っていて、自分も3打席連続安打の4打席目にどこまで集中し、『もう1本』と貪欲になれるか。その土台となるのは、普段の練習での紅白戦、シート打撃でどれだけ1打席に集中できるかということでしょう。フォーム云々よりも、打席の中で集中できる選手、相手バッテリーが崩そうとしてきても崩されにくい選手が、3割に近づいていくんじゃないか」

 決して精神論ではなく、プロの世界で9257打席に立ち、打率.311を残した落合の偽らざる本音だろう。

(写真=K.D. Archive)

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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