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ドラフトNo.1左腕を3回KOして大阪ガスが都市対抗へ一番乗り

横尾弘一野球ジャーナリスト
日本一への通過点だからか、都市対抗出場を決めても控えめに喜ぶ大阪ガスの選手たち。

 第92回都市対抗野球大会(11月28日から12日間/東京ドーム)に、昨年優勝で推薦出場する狭山市・Hondaを除く31代表を決める二次予選が各地で開催されており、9月16日は近畿地区で第一代表決定戦が行なわれた。

 プロ球団のスカウトが熱い視線を送る社会人ナンバーワン左腕・森 翔平を擁する三菱重工Westが僅差の勝負を制して勝ち上がり、2018年の都市対抗初優勝を皮切りに日本一3回の“王者”大阪ガスと対戦した。

 先発を任された森は、150キロに迫るキレ味抜群のストレートを軸に、7月の日本選手権を制した大阪ガスの打線に立ち向かう。だが、大阪ガスは、そのストレートに的を絞って序盤から森に襲いかかる。

 1回裏一死から児玉亮涼と峰下智弘がストレートを連打して一、二塁とし、四番の末包昇大は詰まった二塁ゴロを打たされたが、二塁手の悪送球で満塁に。三井健右がレフト線に弾き返し、長打かと思われたものの僅かにファウルになると、森は渾身のストレートで空振り三振に打ち取る。それでも、続く清水聖也の中前安打で大阪ガスは幸先よく2点を先行する。

味方の守りにも足を引っ張られる形で黒星を喫した森 翔平(三菱重工West)だが、スカウトの評価は変わらないようだ。
味方の守りにも足を引っ張られる形で黒星を喫した森 翔平(三菱重工West)だが、スカウトの評価は変わらないようだ。

 さらに、2回裏には一死から右前に落とした青栁 匠が、森のフォームのクセがわかっているかのような好スタートで二盗に成功し、二死後に峰下が一、二塁間を割る。ここで、右翼手が打球をファンブルする間に青栁が還り、大阪ガスのリードは3点に。森は自責点ゼロの3失点でペースがつかめず、3回裏に吉澤一翔の痛烈なライナーを左手に当てると、この回限りでマウンドを譲った。

 エースを攻略して意気上がる大阪ガスは、5回裏にも無死満塁から清水の内野安打で4点目。一方、先発の秋山遼太郎はフォームとボールで緩急を駆使した投球で、6回まで三菱重工Westに二塁さえ踏ませない。ようやく7回表、三菱重工Westは2本の安打で二死一、二塁とし、青木拓巳も中前に弾き返したが、センター・清水の好返球で二塁走者の中山将太はタッチアウトになる。果たして、秋山は9回表に1点を許したが、最後までキレ味のある148球で完投勝利を挙げ、大阪ガスは4年連続27回目の東京ドームへ一番乗りを決めた。

特筆すべきは二塁走者のヒットでの生還率

 コロナ禍に見舞われてから、社会人野球ではロースコアの試合が目立つようになった。息詰まる投手戦ではない。では、貧打線か。それも違う。7~8安打を放っても1点さえ奪えない試合が多く、よく分析すると二塁走者がヒットで生還できないケースが浮き彫りになる。思い出したのは、中日でゼネラル・マネージャーを務めていた時の落合博満の見方だ。

 落合は社会人野手を視察する際、打撃にはあまり関心を示さなかった。「社会人の四番でも、プロの打撃を一から学ばなければならない」ことが理由だったが、守備と走塁については一定の評価基準があった。そして、走塁でドラフト指名リストから外される選手は、セカンド(第二)リードが小さく、三本間の走路が膨らみ過ぎていた。

 それを参考に走塁を見てみると、プロと社会人では大きな差があることに気づかされる。得点を奪えないのは打力が乏しいのではなく、還るべき走者が三塁に止まっているか、ホームを狙ってもアウトになっているのだ。落合によれば「一塁走者が右方向への打球で三塁まで到達するケースも少ない」、すなわち打球に対する判断力も磨く必要がある。

 そうした中で、大阪ガスの二塁走者のヒット生還率には特筆すべきものがある。この試合でも、1回裏一死満塁で二塁走者の峰下も生還しており、2回裏の得点も青栁がスピードのある走塁で相手野手にプレッシャーをかけた結果と言っていい。

 その青栁に聞けば、「フリー打撃の際にも、打球判断やスタートを切る練習をしており、三塁ベースを蹴ったあとに膨らまないような走り方は徹底している」という。ただ、それ自体はどのチームでも取り組んでいることだろう。大阪ガスでは、2018年に橋口博一監督が就任してから「アウトをあげる送りバントではなく、二盗でチャンスを築く」野球を実践しており、練習で徹底した走塁に対する意識づけを、実戦で積極的に用いることで本物の武器にしているのだ。そんな環境で力をつけた近本光司(阪神)と小深田大翔(東北楽天)が、ドラフト1位という高い評価を受け、その期待に違わぬ成績を残しているのも頷ける。

 そうやって攻撃力というよりも得点力が安定した上、今季から投手出身の前田孝介監督が指揮を執り、秋山、河野 佳を筆頭に、若い投手がメキメキと頭角を現している。史上3チーム目の日本選手権連覇に続き、過去に東芝、ENEOS、日本生命の3チームが達成している同一年度の都市対抗、日本選手権優勝も、大阪ガスにとっては十分に可能性のある目標だろう。

(写真提供/小学館グランドスラム)

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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