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2021年ドラフト候補のトップランナーは、晩成型左腕の森 翔平(三菱重工West)だ

横尾弘一野球ジャーナリスト
指にかかった時のストレートは、プロでも先発クラスと高く評価されている森 翔平。

 季節外れの12月3日に決勝が行なわれた都市対抗をHondaが制し、コロナ禍で大きく予定が変わった野球界は2020年シーズンを終えた。ドラフトや戦力外通告を終えていたプロ球団は、自由契約や外国人選手との交渉を急ぎ、ようやく12球団が来季への態勢を整えつつある。そんな中、「2021年のドラフトはどうなる?」という気の早い声を編成担当者にぶつけると、「現状のトップは……」と同じ選手の名前が挙がる。

 先日、本社によるチーム再編・統合が発表され、三菱重工神戸・高砂から三菱重工Westとなって再スタートするチームのエースと期待される森 翔平だ。

 森の存在を知ったのは、昨年の明治神宮大会だった。育成を含めてドラフト指名された4選手が揃う慶應義塾大が19年ぶりに優勝を飾ったが、決勝で対戦した関西大の先発が森だった。負けたとはいえ、8回途中まで5安打6奪三振の投球はテンポもよく、思わずプロのスカウトに「なぜドラフト指名はなかったんですか?」と聞いてしまった。

「プロ志望届を出さなかったから。思い切って出せば、指名は確実でしたよ」

 ならば社会人かと進路を調べると、三菱重工神戸・高砂だという。関西大の早瀬万豊監督は日本生命OBであり、これまでのつながりを考えても、森ほどの投手の採用に動かなかったとは考えにくい。同じように、大阪ガスやパナソニックだって動くはずだ。では、争奪戦の中で森が三菱重工神戸・高砂を選んだのか。あっという間に興味が沸き、森の実績を調べて驚いた。

 鳥取商高では1年時からレギュラーだったが、どちらかと言えば野手に比重を置いた二刀流。県大会準々決勝で惜敗した3年夏も、三番センターである。関西大に進学後は投手に専念するも、リーグ戦に登板したのは3年春からで、「我々が注目するような投球を見せてくれるようになったのは、4年生になってからです」とスカウトは語る。確かに、4年春はリーグ戦の投手十傑にも名前がなく、秋も2勝3敗で防御率2.52。それが、関西地区大学選手権決勝で最優秀選手賞を手にする快投を見せ、明治神宮大会では主戦格の大活躍だった。

大学4年秋から急速に進化を続ける

 だから、関西大とつながりのある大阪の強豪チームも、後手を踏んだのかと理解できた。そして、三菱重工神戸・高砂へ入社すると、コーチ兼任となったエースの守安玲緒から助言を受け、秘めていた潜在能力が着実に開花する。177cmと平均的な上背だが、角度とキレがあるストレートは、最速149キロまでグレードアップ。都市対抗近畿二次予選では、パナソニックとの初戦(二回戦)に先発する。8回裏のソロ本塁打に泣いて0対1で敗れたものの、4安打8奪三振の完投には強烈なインパクトがあった。

 さらに、負ければ予選敗退となる第四代表決定トーナメント三回戦でも、日本生命を相手に好投。9回裏二死まで3対2とリードを守ったが、内野安打に続いて逆転サヨナラ2ランを被弾し、本大会にはNTT西日本の補強で出場することになった。

 東京ドームでは、東芝との一回戦でリリーフ、Honda鈴鹿との二回戦では先発登板したものの、この2試合で2回2/3を2失点と結果を残すことはできなかった。このあたりが今季に向けた課題になるのだろう。それでも、対戦した打者には「エグいボール」という印象を植えつけており、スカウトたちも「指にかかった時のストレートは、プロでも先発ローテーションに入れるレベル」と評する。

「順調に結果を残せば、1位で消えても不思議ではない存在」

 そんな晩成型のサウスポーは、今年と同様に東京五輪モードで変則的な2年目のシーズンに、どんなパフォーマンスを見せてくれるのか楽しみだ。

(写真=Paul Henry)

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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