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【落合博満の視点vol.15】大会がなくなったプロを目指す選手が取り組むべきこと

横尾弘一野球ジャーナリスト
中日ゼネラル・マネージャー時代に、アマチュアの試合を視察する落合博満。

 新型コロナウイルスは、高校球児から夏の甲子園まで奪った。都市対抗や神宮大会はドラフト会議後であり、プロを目指す選手が実戦でアピールできる場はなくなってしまった。プロ球団のスカウトは、練習やオープン戦に足を運んで最善を尽くすはずだが、ドラフト候補と評される選手たちは何をすればいいのか。そう考えを巡らせていると、「技術を磨くのが練習なら、他の選手の動きをしっかり観察し、自分が採り入れるべきものはないかと考えるのも大切な練習」という落合博満が自著『決断=実行』に記した言葉を思い出した。

 ロッテに入団した直後に山内一弘監督の打撃指導が難し過ぎて理解できず、「自分で考えますから放っておいてください」と言ってしまった落合は、はじめはロッテの先輩・土肥健二、一軍に定着した3年目からは阪急(現・オリックス)で三番を打っていた加藤秀司の技術を手本にした。

「加藤さんには好打者という印象を抱いている人が多いと思うけど、私がロッテに入団した1979年は首位打者と打点王の二冠で、本塁打もトップと2本差。三冠王を狙えるスラッガーだった。私はベンチに座り、加藤さんの打席を食い入るように見詰めていた。ボールのとらえ方、運び方など学ぶべき要素が多かった」

 そうした姿勢は、3度の三冠王を手にしたあとも持ち続けた。

「ケガのリハビリでファームにいる時、まだ実績のない若手がバットを振っているのを見て、いいスイングだと感心させられたことは何度もある」

 このように、落合の現役時代は「私に限らず、プロの世界に入った若手は、先輩の技術を盗もうという目を持っていた」という。だが、ビデオ機材などが進歩した現在は「先輩のバットスイングを参考にしたければ、目で見るだけでなく、録画してスローやコマ送りで再生したり、ここというポイントで静止画にすることもできる。技術向上のヒントになる資料は溢れているのに、それを生かしている若手はどれくらいいるのか」と案じている。それは、中日ゼネラル・マネージャーとして各世代の野球を視察していた際、「プロを目指している選手の観察眼や技術を考える際の感性が、今ひとつ磨かれていないと感じた」からだ。

投手なら打者の心理、打者なら投手の心理を理解せよ

 近年は高校でも、全国レベルの強豪では施設が充実し、サブグラウンドや室内練習場は当たり前のように併設されている。それ自体はいいことだが、そうした環境で練習の効率化が図られると、どうしても選手が揃って行なう練習が限られるようになる。ランニングこそ全員で走るものの、キャッチボールになれば投手と野手は分かれ、そこからは投内連係など投手も含めた守備練習くらいしか全員が揃う場面はなく、投手が野手の、野手が投手の練習をじっくり見るという機会は減っているはずだ。

「最近は、スローイングに難を抱えている野手が目立つ。正しいキャッチボールをしていないからだろう。野手でも、キャッチボールでは投手と同じように一球ごとにボールの握りをしっかりと確かめ、腕の振り方も基本に則って繰り返す。そうやって、先輩や投手にアドバイスをもらいながら、正しいスローイングを身につけなければいけない」

 また、他の選手の練習を見るという習慣は、投手なら打者の心理、打者なら投手の心理を理解することにもつながる。だからこそ、練習環境が整備されても、投手と野手が互いの動きを観察できる時間は大切にしなければいけないのだ。

「守備は習え、バッティングは盗め――私たちはそう教わってきた。技術の世界は、自分ができないこと、知らないことは聞いた者勝ちだ。その際、誰に聞くか、誰から盗むかも重要であり、そうした目を養うのも練習だと、プロを目指す選手は特に肝に銘じてほしい」

 プロを目指す選手には、大会や実戦がなくなっても、練習の中で自分をさらに成長させることはできるのだと考えてもらいたい。

(写真/Paul Henry)

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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