2020年ドラフト社会人野手のトップランナー「笑う男」JFE東日本・今川優馬が勝負のシーズンに臨む

溜め込んだパワーを一気に放出するスイングで、ドラフト有力候補と評される今川優馬。

 今季の社会人野球は、3月12日から開催される予定だった第75回東京スポニチ大会が中止となり、現時点では無観客で公式戦を行なっている。プロを目指す若い選手たちの中で、スカウトが熱い視線を送るJFE東日本の今川優馬は、早く公式戦でパフォーマンスを披露したいとうずうずしているようだ。

 昨年、ワールドカップでベスト8に進出したラグビーでは、日本代表プロップの稲垣啓太が「笑わない男」で話題になったが、今川は「笑う男」として注目された。初優勝した都市対抗では優秀な新人に与えられる若獅子賞に輝いたのだが、チームを勝利に導く活躍をした時はもちろん、凡打に倒れても白い歯を見せて笑っていた。

「高校、大学と試合に出られないことが多かったので、満員のスタンドを見ながらプレーできるだけで嬉しいんです。三振したのに笑っていることを、よく思わない方がいるのもわかっています。だからこそ、結果を残し続けなければと思っています」

緊迫した試合の中でも笑顔を見せるのが、今川のトレードマークになった。
緊迫した試合の中でも笑顔を見せるのが、今川のトレードマークになった。

 球歴を見れば、東海大四高(現・東海大札幌高)で甲子園の土を踏み、東海大北海道(現・東海大札幌)3年時には、大学選手権でベスト4入りに貢献した。だが、常時スタメン起用されるようになったのは大学4年の頃。176cm・84kgと標準的な体格ながら、アッパー気味の個性的なスイングで長打を狙うスタイルは、余程インパクトのある結果を見せつけなければ、なかなか首脳陣の信頼を得ることができなかった。また、骨折やチームメイトの不祥事による出場辞退など、不運さにも付きまとわれた。

 それでも、「プロで活躍したい」とプロ志望届を提出したものの、残念ながら指名はなかった。そんな時、指導者同士の縁でJFE東日本の練習に参加する機会を得ると、ちょうどプロから復帰した須田幸太とシート打撃で対戦。「たまたま打てた」ことで入社が決まる。

「ドラフトの時は、育成でもいいから引っかかってほしいと思っていました。また、指名がなかった時は、試合数が多く、1年でもプロを狙える独立リーグに行くべきかと考えました。ただ、JFE東日本の落合成紀監督は、僕のスタイルや考え方を尊重してくれた上で、『うちからプロを目指せ』と言ってくれた。同期が高校や大学で目立つ実績を残した選手ばかりだったのも、入社を決断する大きな理由になりました」

 そうして、今川は2年間にわたる活躍を誓って社会人へ飛び込む。

ライバルは多いが、家族や注目されない選手のためにもプロ入りを

 若手を積極的に起用する方針の下、3月の東京スポニチ大会からスタメン出場し、2戦目には初ホームランを放つ。さらに、日本代表候補とのテストマッチでは、社会人屈指の右腕・守安玲緒(三菱重工神戸・高砂)からの2本をはじめ、3打席連続アーチを描いてスカウトの度肝を抜く。都市対抗で初優勝し、社会人ベストナインに選出されるなど、ルーキーイヤーはお釣りがくるほどの大活躍を見せ、野手ではドラフト候補の筆頭格に挙げられるようになる。

 ただ、同期にはライバルも多い。今川と同様に、大学卒業時にプロ志望届を提出した逢澤崚介(トヨタ自動車)、向山基生(NTT東日本)、吉田叡生(Honda)は、揃って社会人日本代表に選出され、アジア・ウインター・ベースボールに出場。アジア圏のプロと対戦するなど、貴重な経験を積んでスキルを磨いている。

「だから、若獅子賞や社会人ベストナインをいただいた昨年以上の活躍ができなければダメだと、自分に言い聞かせています」

 今川には、プロで活躍したい理由があと2つある。5男1女の6人きょうだいの長男ゆえ、家族に豊かな暮らしをさせたい、野球をしている弟たちの目標になりたいということ。もうひとつは、自分が活躍すれば、高校や大学で注目されない選手にも勇気を持って野球に打ち込んでもらえると思うからだ。

 11月下旬に開幕する予定の都市対抗で連覇を狙うJFE東日本の落合監督は、その条件のひとつをこう明かした。

「今川がドラフト指名され、その勢いのまま今年の都市対抗でも活躍すること。今川の大会になれば、連覇が見えてくると感じています」

 素直で研究熱心。そして、何よりも野球が好き。そんな今川が今季も活躍し、プロへ巣立つストーリーを見てみたい。

(写真提供/小学館グランドスラム)