涌井秀章の移籍に見た“球界の寝業師”の遺伝子

新天地の東北楽天では、プロのキャリアをスタートさせた背番号16を着ける涌井秀章。(写真:ロイター/アフロ)

 このオフ、プロ野球では6名の選手がフリー・エージェント宣言した。海外FA権を行使した秋山翔吾は移籍交渉を続けており、国内FA宣言した5名のうち、埼玉西武の十亀 剣と東北楽天の則本昂大は宣言残留。残る3名は、福岡ソフトバンクの福田秀平と東北楽天の美馬 学が千葉ロッテ、千葉ロッテの鈴木大地は東北楽天への移籍を選んだ。

 特に、今季の3位からさらなる躍進を目指して三木 肇を新監督に据えた東北楽天、世代交代を進めて逆襲に転じたい千葉ロッテは、積極的な戦力補強に動いており、両球団間でも7名の選手が移籍した。

 東北楽天からは、美馬がFA、小野 郁が人的補償、フランク・ハーマンと西巻賢二は自由契約で千葉ロッテへ。千葉ロッテからは鈴木がFA、酒居知史が人的補償、涌井秀章が金銭トレードと、交換トレードは1件もないものの、『4対3のトレード』という見方もあるなど、同一リーグにもかかわらず、ブロックバスター・トレードを敢行したような形になった。

 人的補償のプロテクト決定、プロテクトを外れた選手の指名、涌井の金銭トレードについては、東北楽天の石井一久ゼネラル・マネージャー、千葉ロッテは松本尚樹球団本部長がコメントを発表したが、二人に共通していたのは「選手にとって何がいいのか」という考え方だ。

選手はプロ野球界全体の財産

 プロ野球界において、球団と選手の立場は長きにわたって対等ではなかった。特に生え抜き主義は根強く、移籍には負のイメージがつきまとっていた。また、球団フロントには自分さえよければという思想があり、リーグ、球界全体の利益を追求しようという考え方は皆無に等しかった。

 そんな風潮に危機感を感じ、独自の方法論で戦力強化に腐心していたのが根本陸夫だ。セ・リーグのお荷物と揶揄されていた広島を振り出しに、低迷していた西武、福岡ダイエーを現場、球団フロント両面から強化。ドラフトやトレードでサプライズを巻き起こすことから“球界の寝業師”と呼ばれていたが、常に見据えていたのは野球界全体の発展だ。

「12球団は運命共同体。自分の球団だけが強くなっても、決して球界は発展しない。また、アマチュアとの関係をしっかりしておかないと、プロ野球の未来はない」

 そうした考えで動いていたから、教え子や同じ球団で働いた人間だけでなく、ライバル球団にも根本を信頼する人は多く、プロ・アマチュアを問わず広く深い人脈を持っていた。

 パ・リーグで熾烈な優勝争いを展開する埼玉西武の辻 発彦監督、福岡ソフトバンクの工藤公康監督に加え、千葉ロッテの井口資仁監督も根本の教育を受けている。また、根本と直接的な関わりがなくても、その遺伝子が受け継がれている福岡ソフトバンクや埼玉西武に在籍した者は、どこかで根本の思想の影響を受けているという人もいる。今回の東北楽天と千葉ロッテの動き方には、そんな根本の思想を感じさせられる。

 ひと昔前なら、涌井ほどの実績のある投手を同一リーグに移籍させて活躍されたら……という考えで抱え込んでいただろう。日本プロ野球選手会で現役ドラフト制度が活発に議論されている昨今、東北楽天や千葉ロッテのように動く球団が増えるか注目したい。