東京五輪出場という歴史的快挙の裏にあるメキシコ野球界の現状【プレミア12レポート】

劇的サヨナラ勝ちで東京五輪出場を決めたメキシコ代表の選手たち(写真=WBSC)。

 東京五輪の代表権をかけた第2回プレミア12の3位決定戦は、アメリカとメキシコが激突。1点を追う9回裏に元オリックスのマシュー・クラークが起死回生の同点ソロ本塁打を放つと、延長タイブレークに突入した10回裏一死満塁では、今季は阪神でプレーしたエフレン・ナバーロが中前安打。そうしてサヨナラ勝ちしたメキシコが、五輪への切符を初めて手にした。

 試合後の祝勝会で挨拶に立ったホアン・カストロ監督は、涙を浮かべながら「メキシコ野球の歴史的偉業だ」と選手を労った。同じように、チームに同行した役員たちも「この快挙は、低迷する我が国の野球を活性化するきっかけになる」と満面の笑みを浮かべていたという。

 ただ、メキシコの歓喜は、日本人がイメージする“悲願の五輪出場”とは少し違うようだ。今大会でメキシコ代表をサポートした全日本野球協会の柴田 穣・国際事業委員が「チームに同行してきた関係者が多く、組織の複雑さを目の当たりにした」と振り返るように、メキシコ野球連盟会長をはじめ、メキシカン・リーグ、ウインター・リーグのリーガ・パシフィカに加え、プロ・ベースという組織の役員もいたという。柴田氏は言う。

「プロ・ベースというのは、昨年末に就任したアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領直轄の団体だそうです。これから各州や県単位でアカデミーを設立し、メキシコ人選手を国内で育て、メジャー・リーグ(MLB)に売り込もうという計画。巨人でのプレー経験があり、メキシコ代表監督も務めたエドガー・ゴンザレスが責任者ということです」

国内リーグの人気回復に必要だった東京五輪の出場権

 メキシコには、1925年に設立されたプロ・リーグ(LMB)がある。今季は久保康友や荒波 翔(ともに元・横浜DeNA)がプレーしているが、長く国内での人気が低迷。テレビ放映権料など収入が激減し、選手の年俸も十分には支払えないのが現状だ。また、国際大会へプロ選手の出場が容認された1997年以降、代表チームを編成するメキシコ野球連盟と対立し、かつてのアロンゾ・ペレス会長は「LMBは潰してしまえ」と公言していたという。

 その一方で、3つの団体が並立しているウインター・リーグの中でも中心的存在のリーガ・パシフィカは、人気メジャー・リーガーもプレーすることから競技レベル、ファンの注目度とともに選手の報酬も高く、メキシコの野球界でトップに位置づけられている。

 このように、複数の団体の利害が絡み合った結果、実力も人気も中途半端になってしまったという事情から、「国内リーグの人気を取り戻すためにも、東京五輪の出場は悲願」というのが、メキシコ野球関係者に共通する思いだ。

 では、選手はどうか。この時期に最も稼げるリーガ・パシフィカの球団と契約するのが最優先。そのチャンスに恵まれず、次にそれなりの報酬が得られ、名前を売る手段としてメキシコ代表入りしたのがプレミア12メキシコ代表の28名だ。確かに、巨人のクリスチャン・ビヤヌエバも、ヒーローになったナバーロも、球団側に来季も契約する意思はなく、フリー・エージェントの状態だ。また、アメリカ出身で二重国籍の選手が半数の14名を占めるのも頷ける。

 実際、アメリカを倒した直後、「俺たちが出場権を勝ち取ったのだから、東京五輪にも優先的に出場させてくれるだろう」と、五輪への展望を口にした選手もいたが、多くは「メキシコへ帰国したら無職。まずは、来年どこでプレーするかだ」と、プレミア12への出場もビジネスと考えている。試合後のミーティングでは、その試合の反省と次戦への対策よりも、次の勝利でボーナスは幾らかを発表するのが先だったという。それが、今大会におけるメキシコの快進撃の舞台裏だ。それでも、国際大会での勝利が野球人気の向上につながるなら、野球の五輪参加に腐心している人たちの努力は無駄ではないだろう。

 そして、メキシコ代表の役員は「今大会の28名よりも力のある選手が、リーガ・パシフィカにはゴロゴロいる」と言うから、国内における野球人気回復を目指すメキシコが、東京五輪にどんな陣容で臨むかは楽しみである。