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4年連続のHonda熊本、3年ぶりのJR九州、初出場の宮崎梅田学園が都市対抗九州代表に

横尾弘一野球ジャーナリスト
捕手の塩田英介に笑顔で飛びつく井上翔夢に、JR九州の選手たちが次々と駆け寄る。

 5月25日から6月1日の8日間にわたって熊本市のリブワーク藤崎台球場で行なわれた都市対抗九州二次予選は、第90回大会を記念して1枠増の3代表の座を、都道府県単位の一次予選を勝ち抜いた12チームで争った。5月の九州大会を制した西部ガスのブロックにJR九州と九州三菱自動車が入るなど、組み合わせの段階から波乱を予感させた戦いは、熱戦が続いて大いに盛り上がった。

 古豪の底力を随所に発揮したのはJR九州だ。門司鉄道局時代に企業チームとして初めて都市対抗を制し、2010年にも準優勝を果たしているが、野中憲二監督の下で世代交代に着手すると、2016年はベスト8に進出したものの、そこから2年続けて予選で敗退。「今年こそは東京ドームへ」と気合い十分で臨んだ今シーズンも、勢いに乗って勝ったかと思えば、ミスが絡んでゲームを失う。よくも悪くも“若さ”を見せるチームに、どう安定感を植えつけるか。野中監督は試行錯誤の末に、チームを名画のジグソーバズルに喩え、「誰かひとりが欠けてもパズルは完成しない。その上で個々が自分はどのピースになれるのか、役割を考えてほしい」と呼びかけた。

 春先のJABA大会からチームの伝統でもある堅実な野球を実践しつつ、攻め込む場面では若さの勢いにまかせた試合運びを続けると、厳しいブロックに入った今予選では粘り強さを発揮する。一回戦でクセ者の九州三菱自動車を9-0で一蹴し、二回戦では西部ガスとシーソーゲームを繰り広げながら、8、9回に加点して8-7と逆転勝ち。沖縄電力との準決勝は取っては取られる展開も、9回表の1点を守り切って4-3でものにし、第一代表決定戦に進出する。

 その第一代表決定戦で、JR九州を上回ったのがHonda熊本だ。完投、連投でチームを支えてきた絶対的エースの荒西祐大がオリックス入りし、継投で勝機を見出そうとした今季は、岡山大会でリーグ戦3位、九州大会ではリーグ戦2位と4強進出を逃したが、試合を重ねる度に投打の歯車が噛み合い、今予選ではきっちり2連勝して第一代表決定戦に。JR九州には粘られたものの、4-4で迎えた9回裏に、日本代表の経験もある代打・長池城磨の適時打で劇的なサヨナラ勝ちを収める。岡野武志監督は、「出場するだけでなく、2つは勝って九州代表としての責任を果たしたい」と前を向いた。

宮崎県勢としても都市対抗に初出場する宮崎梅田学園

 悔しい敗戦を喫したJR九州だが、敗者復活戦を勝ち上がってきた熊本ゴールデンラークスとの第二代表決定戦では、初回に先頭打者弾で先制されるも、すぐに反撃して2-1と逆転。4回表に無死一、二塁とされると、攻守の要を担う捕手の牛島将太をベテランの塩田英介に代えて無失点で切り抜け、7回表の無死一、三塁では左腕エースの井上翔夢を投入し、またも同点、逆転のピンチを凌ぐ。すると、その裏に打線が2点を挙げ、8回裏にも2点を加えて突き放す。27個目のアウトを取り、応援団の声援の中でホームプレート前に整列すると、野中監督の目には光るものが見られた。

 そして、熊本ゴールデンラークスと宮崎梅田学園による第三代表決定戦は、宮崎梅田学園が一発攻勢で2点をリードするが、3回裏に熊本ゴールデンラークスが1点を返すと、地元開催だけにスタンドは沸き上がる。さらに、7回裏に猪口雄大の同点弾のあと、さらに二死二塁のチャンスを築き、中村 要の中前安打で逆転した場面では、熊本ゴールデンラークス応援団が陣取る一塁側スタンドの熱気は最高潮に達した。

 ところが、直後の8回表に宮崎梅田学園も無死満塁とし、適時打と2本の犠飛で4点。再逆転に成功すると、9回表にも1点を加え、昨年の日本選手権に続いて都市対抗にも初出場を決めた。

グラウンドとスタンドが一体となり、創部14年目で嬉しい初出場を決めた宮崎梅田学園。
グラウンドとスタンドが一体となり、創部14年目で嬉しい初出場を決めた宮崎梅田学園。

 4年連続出場の安定感を示したHonda熊本、古豪の意地を見せたJR九州、そして、初めて真夏の祭典の舞台に立つ宮崎梅田学園。異なるストーリーを結実させた九州の3チームは、1954年の八幡製鉄を最後に64年間遠ざかっている黒獅子旗の関門海峡越えに挑む。

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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