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【第88回都市対抗野球大会第5日】新日鐵住金東海REXとJR北海道硬式野球クラブが延長10回の熱闘

横尾弘一野球ジャーナリスト
惜しくも敗れたが、JR北海道硬式野球クラブの直向きなプレーには拍手が送られた

どんなに戦力が充実していても、あるいは何度も経験していても、一回戦を勝ち抜くのは最も難しいと言われている。第88回都市対抗野球大会5日目は、監督や選手のそうした実感のこもった言葉を噛み締める結果となった。

一回戦/さいたま市・日本通運 5×3 広島市・三菱重工広島

日本通運は、1回表に大谷昇吾の二塁打と四球、犠打で一死二、三塁にすると、四番の北川利生が左前に弾き返して2点を先制。続く2回表にも先頭・高橋 俊の二塁打から一死満塁と攻め、押し出し死球と内野ゴロの間に2点を追加。三菱重工広島のエース・鮫島優樹をKOすると、北川がまたも中前にタイムリーを放って5点目を奪う。

だが、日本通運の先発を任された高山亮太の投球もピリッとしない。1回裏の二死二、三塁は凌いだが、2回裏には先頭への四球のあと3連打を許して2点を失い、3回から幸松 司(JFE東日本から補強)にマウンドを譲る。

早々に両エースが消えたものの、二番手の好投で中盤は膠着。ようやく7回裏、汐月祐太郎のソロ本塁打で三菱重工広島が2点差に迫る。だが、ここから日本通運は4投手を注ぎ込み、三菱重工広島の反撃を許さずに逃げ切った。

三菱重工広島は、序盤の大量失点が痛かった。それでも、日本通運の藪 宏明監督が「それだけリードしているのに、常にプレッシャーを感じさせられた」というように、日本通運の9本を上回る13安打を放った攻撃には勝利への執念が感じられた。

一回戦/名古屋市・三菱重工名古屋 5×3 日立市・日立製作所

三菱重工名古屋の若林篤志(JR東海から補強)、日立製作所の鈴木康平と、両先発とも東京ドーム初登板。立ち上がりがポイントになると思われた試合は、やはり1回の攻防が明暗を分けた。

表の三菱重工名古屋は、山田晃典の二塁打を皮切りに無死満塁とし、四番・佐藤二朗(ヤマハから補強)のレフト左への二塁打で2点。中田亮二(JR東海から補強)、小柳卓也の左前安打でさらに2点を加える。

裏の日立製作所も、一死から野中祐也と田中俊太の連打で一、三塁と攻めるが、四番・中村良憲のピッチャーライナーが併殺となり、無得点で終わる。これでひと息ついた若林は、4回裏に田中俊にソロ本塁打を許すも、6回までこの1点に抑える。

2回以降は鈴木も立ち直り、次の1点をどちらが奪うか注目されたが、7回裏に日立の大塚直人がソロ本塁打。さらに二死から3連打で1点差に迫る。

しかし、直後の8回表に三菱重工名古屋も一死一、三塁のチャンスを築き、中田の左犠飛でリードを2点に広げる。そして、7回裏二死一、三塁のピンチで救援した三番手の西納敦史が、走者を背負いながらも粘り強く投げ、昨年準優勝の日立製作所を倒した。日立製作所の和久井勇人監督は「創部100周年に結果で応えたかった。また出直します」と、悔しさを滲ませた。

一回戦/東海市・新日鐵住金東海REX 2×0 札幌市・JR北海道硬式野球クラブ

新日鐵住金東海REXは、新日本製鐵名古屋としてベスト8に進出した1995年以来の勝利を目指す。対するJR北海道硬式野球部は、会社の業績不振もあって今春からクラブチームとして活動している。練習時間も短縮されたが、選手たちはプレーを続けられたことに感謝し、チーム一丸となって予選を突破した。東京ドームの舞台に立てば、目の前の勝利を目指して戦うだけだ。そんな両チームの意地がぶつかり合い、息詰まる投手戦が繰り広げられた。

新日鐵住金東海REXの先発は、6年目の右腕・武石 卓。精密なコントロールと緩急を駆使した組み立てで、相手打者に的を絞らせない。JR北海道硬式野球クラブで先発を任された佐藤峻一は、地元の道都大から2013年にドラフト2位でオリックスへ入団。大きな期待をかけられたが、なかなか結果を残すことができず、今春に室蘭シャークスへ入団した。

北海道二次予選では、JR北海道硬式野球クラブを相手に先発。延長12回まで3失点の力投を見せたが、タイブレークとなった13回に力尽きた。それでも、ライバルに補強されて大舞台のマウンドに立つ。力強いストレートを軸に、新日鐵住金東海REXの打線に凡打の山を築かせていく。

スコアレスのまま終盤を迎え、8回から新日鐵住金東海REXは二番手の九谷青孝(ヤマハから補強)を投入。投げ合う相手が代わっても、佐藤はアウトを積み重ねた。しかし、延長に突入した10回表、新日鐵住金東海REXは二死ながら一、二塁にすると、一番の濱口陽平がセンターの頭上を越える快打を放ち、2者が生還して均衡を破る。その裏を九谷がきっちり抑え、新日鐵住金東海REXが22年ぶりの白星を手にした。

JR北海道硬式野球クラブの狐塚賢浩監督は「選手はよく頑張った。勝たせてやりたかった」と涙を拭った。企業チームの時代に比べて、これからも苦しさを味わうことはあるだろう。だが、この試合のように直向きな姿勢で戦い続ければ、きっと光は差すはずだ。

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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