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落合博満の視点vol.2『社会人野球で一塁ベースコーチを選手が務めるデメリット』

横尾弘一野球ジャーナリスト
選手が一塁ベースコーチを務める社会人日本代表。世界でも他に例のないことだ。

中日ドラゴンズのゼネラル・マネージャーとしてアマチュア野球を視察していた落合博満は、社会人野球でどうしても理解できないことがあると言い続けていた。

一塁ベースコーチを選手が務めているチームが多いことだ。理由は簡単で、社会人チームはプロに比べてもコーチの人数が少なく、ほぼ3~4名だから。監督のほか、守備コーチが三塁コーチャーズ・ボックスに立つとして、投手コーチはブルペン、打撃コーチは攻撃における戦術面を担当すると、どうしても一塁コーチャーズ・ボックスに立つコーチがいなくなる。

「それはわかっている。けれど、監督のほかに投手、野手担当のコーチが1名ずつしかいなかったとしても、投手コーチはブルペンにいるより一塁ベースコーチをやるべき。野球の試合において、ベースコーチの役割を軽く見てはいけない」

落合によれば、三塁ベースコーチには、走者を本塁へ突入させるかどうかの的確な判断力が求められる。ただ、それは打球の飛んだ位置や走者のスピードなどからコーチ自身が判断することで、基本的に走者はその判断に従って走る。

その走者は、一塁から二塁、三塁と順に進んでくる際、自分自身の判断が求められるケースがいくつもあり、それを間違えずに進塁することが重要だ。

想像以上に重要な一塁ベースコーチをなぜ選手に任せるのか

「普段の練習から、このケースでは走るか止まるか、走者は判断力を磨いていくわけだけれど、実戦の緊張感の中では、その判断を瞬時に、冷静にできるとは限らない。だからこそ、打者が一塁走者となった時点で、一塁ベースコーチがしっかりと指示や確認をしておかなければならない。走塁は一塁から始まるのだから、そこにベンチ(監督)の指示を伝えられる人間がいる必要もある。一塁ベースコーチの仕事は、想像以上に多くて重要なのに、社会人ではなぜ選手に任せてしまうのか理解できない」

社会人野球は、アマチュア野球のトップに位置する。プロを目指す選手の最終ステップであり、その他の選手にとっては自身の野球の集大成だ。そうしたレベルにあるからこそ、野球の基本にある考えは大切にしてほしいと、落合は考えている。

「一塁走者として、ライト方向への打球で三塁まで進めるか。脚力よりも、リードの取り方やスタートのよさで二盗を成功させられるか。長打力と同じ、時にはそれ以上にプロが求めるスキルを身につけさせるためにも、社会人の指導者には一塁ベースコーチの存在価値について再考してもらいたい」

そう言えば、社会人の日本代表も、国際大会では控え選手が一塁ベースコーチを務めることがほとんど。だが、それは指導者が1~2名しかいない、野球においては発展途上にある東南アジア諸国を除けば、世界でも他に例のないことである。

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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