トランプは北朝鮮を攻撃するのか?核保有をアセスするのか?

(写真:ロイター/アフロ)

 9月3日北朝鮮は6回目の核実験に踏み切った。120キロトンとも言われる規模であり、アメリカへの核攻撃が可能であることを証明したと見られている。

 さて、トランプ政権はどんな動きに出るだろうか?

もう甘やかさない  

 トランプ政権は、過去の政権が北朝鮮を甘やかしたために北朝鮮の核開発は今に至るまで進んでしまったと見ているからだ。1994年北朝鮮が最初の核実験を行った際にクリントン政権は結局「凍結」を約束に援助を再開した。W・ブッシュ政権は「核査察」受け入れることを条件にテロ支援国家から除外し援助を再開した。オバマ政権は「戦略的無関心」に終始し、一切の援助も交渉も行わなかったが、その間、北朝鮮は核武装への歩みを進め、今に至ったのである。「核を持たない、あの時に攻撃しておけば、攻撃しても被害は少なかったのに」と後悔する声がワシントンには少なからず存在する。トランプ大統領にはほかのどの大統領とも違う、という強烈な自負がある。

 

選挙側近は消え軍人中心の人事  

 トランプ大統領の思いは、側近と閣僚人事にも如実に表れている。ホワイトハウス首席スタッフ、国防長官、NSCと安全保障の要の人材は軍人である。興味深いことに、国土安全保障長官からホワイトハウス首席スタッフのケリー元将軍と、同じく元将軍のマチス国防長官は、「どうしてトランプ大統領に仕えることに決めたのか」と聞かれ同じ返答をしていることだ。「私は民主党でも共和党でもない。国のために働いてくれとアメリカ合衆国大統領に求められれば、全力で国のために働く」と答えていることだ。一方、トランプ大統領の右腕と言われたスティーブ・バノンは、ケリーが首席スタッフになるや辞任に追い込まれた。バノンは辞任する数日前に、ライバル誌のインタビュー記事に登場し「軍人ばかりの政権で危険だ。北朝鮮を攻撃すれば日韓で1千万人が死ぬ」との試算を示した。軍人のほうが戦争を知っているので、軍事作戦にはより慎重になることは知られた事実であり軍人が多いことと軍事作戦が行われることは直結しない。だが、もし北朝鮮に軍事行動を行う場合のより現実的なシナリオ作成が可能な状態にある。

民主主義を輸出しない宣言

 また、トランプ大統領は先週、アフガニスタン戦略についてテレビ演説を行った。大統領になって初めてのテレビ演説だった。そんなに大事なことが入っているのかと思って、この演説を聞くと、なんと、トランプ大統領は、アフガニスタンを例にしてアメリカの軍事戦略が冷戦以後のそれとは決別したことを宣言していた。トランプ大統領は、出口政策を作らずに必要があれば攻撃し、その後の国つくりには口を出さない、民主主義国家になることを後押ししないと語ったのである。まさに、これは北朝鮮と中国とロシアへのメッセージと考えられる。北朝鮮の核施設は攻撃するが、体制変換については口を出さないので、そちらでやってくれ、という意図と解釈できる。中国とロシアにとっては北朝鮮が西側諸国との緩衝地帯になっている。

 これらの状況を鑑みると、トランプ大統領が時々語るように、北朝鮮への軍事作戦がもしもの場合のオプションとしてテーブルの上に上がっていることは確実であろう。

日韓は?

 トランプ大統領は、軍事行動を行った場合、被害が甚大になると予想される日韓にも働きかけをしている。この時期に韓国とのFTAを破棄するとの情報が流れていることも興味深い。アメリカが北朝鮮に関して受け入れがたい要求を突き付けているとも考えられる。そこで、FTAを譲歩するかわりにその要求を受け入れさせる、という可能性もなきにしもあらずと思われる。

日本とは、安倍首相と電話会談を頻繁に行っているように意思の疎通は円滑に動いているように思われる。どんな会話がなされているのか、と考えると、やはり軍事行動の可能性も含まれているように思われる。考えていることは、ふと言葉に出るものである。今年2月初旬、安倍首相がトランプ大統領のフロリダの別荘、アラマゴを訪問した際、北朝鮮がミサイルを撃った。安倍首相の記者会見に同席したトランプ大統領は「Stand behind Japan」と答えていた。考え過ぎといわれるが、思っていることはふとした瞬間に口にでるものである。日本側の通訳はアメリカの立場を「stand with Japan」と訳していたが、それを受けたトランプ大統領の言葉である。「安倍首相の会談なので一歩控えた表現にしたのだろう」が大方の見方で、少々うがった見方をすると「北朝鮮問題はアメリカから見ると遠い出来事なので日本に対応してほしい」という意味ではないかと見られていた。だが、その後のトランプ大統領の発言を聞いていると「北が核保有することがアメリカにとっては一番の問題だ。そうなったら、アメリカは攻撃することは厭わない。そういうシナリオも作っている。だが、日本と韓国に被害がでるから、そちらの事情も今は勘案している。」という意味ではなかったのだろうか、と思うようになっている。

 

攻撃するのか?  

 トランプ政権は、北朝鮮への攻撃を現実的に準備していると思われるが、それと実際に行動にうつすのかとなると話は、さらに複雑になる。

 金正恩委員長はトランプ大統領にチキンゲームを仕掛けているようにみえるが、核保有は祖父金日成から連なるキム・ファミリーの悲願である。核保有国であると認識されることは、今後は体制を心配する必要がなくなるからだ。リビヤのガタフィ、イラクのフセイン、シリアのアサドを見るにつけ、核保有の重要性を再認識しているのだろう。北朝鮮は現在、飢餓ではないと言われている。アメリカから援助の譲歩を引き出すために、ゲームを仕掛けているわけではない。「核保有国」としてアメリカに認めさせ、国際社会に核保有国として扱われ金王朝としての北朝鮮の確固たる樹立である。

 こう考えると、目的遂行のために北朝鮮で合理的判断がなされている限りは、北朝鮮がアメリカとその同盟国の土にミサイルを撃ち込むことはないと考えられる。最近、北朝鮮の役人と国際会議で同席した研究員によると、北朝鮮の役人は「核保有したと今までにない自信を見せていた」と語っている。北朝鮮には核を放棄する気はまったくない。

 CIAの韓国部長をつとめたヘリテージ財団のブルース・クリンガーは、北朝鮮がグアムが射程距離であることを発表した際に、北朝鮮が挑発行為でとどまる限りは、核があることは評価し(assess)するが、受け入れる(accept)するのではなく経済制裁は続けていくとみなしている。今の段階で、攻撃することはリスクが高すぎると語っていた。アセスがアメリカの専門家が考える合理的判断である。

日本はどうするのか?

 日本ではアセスの場合の議論が必要になってくる。日本もアセスするのか。米中が協力してアセスとなった場合、日本はどのように対応するのか。

 ワシントンの日本を専門としない安全保障の専門家と北朝鮮問題について議論すると「歴史はわかるが、アメリカに頼る今の現状は不安ではないのか?」と聞かれることが少なくない。

 日本にとっては、朝鮮半島の非核化が重要だ。だが、非核化のために国土が火の海になったら元も子もない。この二律離反する状態に何ができるのか。

 こういう話をすると「だから、時すでに遅し。他もそうなっていくのでは?」と畳み掛けられる。

 北朝鮮はロシアのように経済で行き詰まり崩壊するようにも見えないし、リーダーが変わっても良い方向に進む保証はない。金家族で言えば、狂暴化が進んでいる。

 問題を先送りしてはいけないが、今、日本はどうすべきか、答えが出る問いではない。

 ヘリテージ財団時代、軍事研究の部長から学んだことだ。

「今の時代、この国はこういう場合はこうなる、という前例は捨てなさい。状況を取り込み、自分がその国のトップだったらどういう判断をするのかと考えなさい。それがシンクタンクの分析研究です。」

まずは、自分が金正恩委員長だったらどうするか、トランプ大統領だったらどうするか、安倍首相だったらどうするかと考えてみると、見えなかったことが見えてくるかもしれない。

トランプの目指す外交政策

 最後にトランプの外交政策をまとめよう。

 北朝鮮への対応を注視すると、トランプ大統領が目指す3つの外交戦略が見えてくる。

 1つはアメリカ・ファーストである。911同時多発テロ事件の再発を防げれば、アフガニスタン、イラクの戦費は安いものであると考えている。北朝鮮がアメリカと同盟国にミサイルを飛ばさないとしても、小型の核爆弾がISISなどの手に渡れば、アメリカの国土は狙われることになる。北朝鮮問題はISISに絡む問題でもある。

 2つは、同盟国におけるミサイル防衛の強化である。日韓は飛躍的にミサイル防衛の予算を増やしている。同盟国がミサイル防衛の強化を図ることは、アメリカの軍事品の需要が増すことを意味する。技術の国と言われる日本ですら飛行機を飛ばせられるかどうかの技術力である。ミサイル防衛を作れる国はアメリカしかない。通常であると、日韓がミサイル防衛を強化すると中国が文句を言うが、今は、緊急事態である。または、先端技術の流出を怖れるアメリカ議会はミサイル防衛の最新鋭はストップをかけることもある。実は、ミサイル防衛が構築できない全ての国にとっては購買できるチャンスととらえるのである。

 3つ目は国連との関係改善である。とりわけ共和党は国連の役割に疑問を呈してきた。トランプ大統領は就任以降、国連への拠出金をストップしている。北朝鮮がミサイルを発射、核実験を行うたびに国連で安全保障会議は行われ「経済制裁」を強めてきたが、実質的には、ほとんど効果はあがっていない。北朝鮮問題で効果が上がらないことを1つの理由として、国連に対して何らかのアクションが出てくると思われる。