レームダックは弱い大統領ではありません。レームダックにチャンスあり。

レームダックは弱い大統領ではありません。レームダックにチャンスあり。

また、日本のアメリカに対する認識に物申したいと思っている。生意気だと承知しているが、アメリカ政治の奥ノ院での認識と日本の認識のギャップに戸惑うどころか、耐えられない感じなのである。

今回はレームダックについてである。

オバマ大統領はレームダックされた弱い大統領という認識が広がっているが、実は、レームダック期は、大統領にとっては、何事にも惑わされず、信念に基づいて政治ができる唯一無二の特別な時なのである。

2期目の大統領にとってはレームダックというのは、選挙を考えずに、自らが信ずることを突き進める最初で最後の期間なのである。ただ、この視点が、日本では見逃されてきた。なぜなら、ここ50年で 2期目を満了した大統領は、W・ブッシュ(息子)大統領、クリントン大統領とレーガン大統領の3人しかいなかったからだ。クリントン大統領の二期目はモニカ・ルインスキー事件が勃発し弾劾がおこり、レームダックを享受することはできなかった。しかもファースト・レディのヒラリーはNY州の上院議員に立候補していたので、選挙は無視できない。レーガン大統領はすでにアルツハイマーに犯され、それどころではなかった。そしてジョージ・W・ブッシュ大統領は、リーマンショックと出口が見えないアフガニスタンとイラクとの戦争のため、最近、稀に見る人気のない大統領だった。

オバマ大統領は、批判されながらも、50%前後の支持率を維持している。

実は、オバマ大統領は、近年、稀に見るほどの業績をあげている。オバマケアと呼ばれる国民皆保険制度の導入は、まさに国の役割の定義を根本的に変えた。ライバル共和党はオバマケア撤廃を掲げるが、次回に共和党の大統領が生まれたとしても、撤廃することは難しいほど、オバマケアは浸透している。建国の精神であるキリスト教の価値感にも多様性を持ち込むこむことにも成功した。オバマ大統領誕生以前は同性婚に反対する候補者に投票は有利に働いていた。今では、ほとんどの州が同性婚を認めている。イランとキューバとの国交正常化は、約50年維持したアメリカの外交方針の転換である。さらに、TPPは最近、例を見ないほど大きな枠組みの貿易交渉だ。

ここまでの業績を上げれば、反対する声が大きくなるのは当たり前ともいえる。とりわけ、毎日どころか時間で更新する新聞やウェブのニュースは、全体的な業績は所与として、日々の議論を伝えるので、敵対している状況や課題を多く伝えることになる。日本にいて、日々のニュースを追っていると、所与の業績を忘れて、日々の混沌にばかりが入ってくるので、認識のギャップが生じてしまうと思われる。

興味深いことにオバマ大統領は、一期目は民主党の考えにそった政策を達成している。多大な予算を注入した景気回復法、そして国民皆保険だ。民主党は一丸となってオバマ大統領を支えていた。深く観察すると、オバマ大統領は二期目に入ると、夫婦そろって、自分たちにしかできないことをやり切る、という姿勢を明確に打ち出している。TPPに代表されるように、身内の民主党から賛否両論がある政策に、敢然と取り組むようになっている。イランとキューバとの国交正常化も二期目に入ってからだ。ミシェル夫人に至っては、批判も怖れることなく、人気音楽にのってノリノリにダンスして、肥満防止の啓蒙活動を行っている。ファースト・レディがTシャツとパンツ姿でMTVのトップの曲を背景にノリノリにダンスすることは、今までの常識ではあり得ない。つまり、一期目は再選を考えた政策にあたり、二期目はまさに、所属する民主党内に賛否両論が存在しようが、どうしてもやりたい政策にあたっている、と言える。

これから徐々に、大統領選挙が本格化する。アメリカのメディアは、オバマ大統領のニュースよりも大統領選挙のニュースのほうを大きく扱うようになる。オバマ大統領はすでに二期目の大統領が狙うとされるノーベル平和賞もすでに手にしている。そこで、残された時間で何を成し遂げようとするのか、非常に興味深いのである。

さらに、オバマ大統領の最強レームダック伝説を支えるもう一つの事情もある。

2016年大統領選挙に向けて、これから、引退を決めた連邦議員にもレームダック期間が訪れる。引退を決めた議員も二期目の大統領と事情と同じで、選挙を考える必要がないので、支持母体の立場を気にせずに、この期間だけは、信念に基づいた政治を行うことになる。そのため、ロビー団体やアドボカシー団体は、引退議員の投票行動に今まで以上に敏感になっている。民主党のリーダーであるハリー・リード上院議員や、カリフォルニア選出の女性上院議員バーバラ・ボクサー、共和党ではダン・コーツが既に引退を表明している。なじみ深いところでは、ジョン・マケインも引退するのではないか、と見られている。

2014年の中間選挙以降、TPPに必要なTPAの議論にも、大統領がレームダックを利用できることが現れている。日本に限らずアメリカでも、TPPに必要なTPAをアメリカ議会はオバマ大統領には付与しないという見方で支配されていた。だが、中間選挙が終わって半年がたち、大統領のレームダック化が進むほどに、議会はTPA付与に舵を切った。報道を見て、驚いた人も多いだろう。

議会の多数派である共和党が、中間選挙以後、立場を大きく変えたのだ。以前は、オバマ大統領の業績を増やすことになるので、自由貿易信者であるはずの共和党であったが、「オバマ大統領のやり方が気に入らない」という理由でTPAに反対していた。それが、オバマ大統領の手法を批判することから卒業し、「自由貿易」という信念に立ち返ったのである。

一方、民主党は、もはやオバマ大統領の応援演説よりも支持母体を引き締めの方が大事なので、最大の支持母体である労働組合の立場を重視し、TPAに反対する議員が増えている。そのため、最近、急にオバマ大統領と民主党の議員の間には隙間風が吹いているのである。

さて、日本に目を移そう。日本では、レームダックの大統領と関係を深める必要がない、という風潮があるようだ。

もし仮に、レームダックの大統領の力が弱かったとしても残された時間は長く、短絡すぎる考え方のように思われる。新しい大統領が誕生するまでには、まだ1年半の時間がある。最大2期8年とされるアメリカ大統領にとっては1年半という時間は、任期の5分の1の時間にあたり、それだけでも少ない時間ではない。

こういう風潮を目にすると、いつから、日本人は、権力についてここまで短絡的に考えるようになってしまったのかと戸惑いを覚えてしまう。

しかも、オバマ大統領はまだ若いし、次に黒人大統領が表れるまでは唯一無二の黒人の血を引く大統領である。さらに、オバマ大統領は近年、上述したように稀に見るほどの業績をあげる大統領である。

オバマ大統領は、任期を終えた以後も、アメリカにとっては、特別な大統領であることとは確実である。さらに、スキャンダルにまみれで最近は失速傾向にあるヒラリー・クリントンだが、民主党であることはマイナスにはなっていない。2008年大統領選挙の時は、人気のないブッシュ大統領が所属する共和党が勝利するとの予測はほとんどなかった。本当に、オバマ大統領に人気がないなら、同じ民主党の候補者が注目を集めることはないだろう。

また、2016年大統領選挙で共和党が当選したとしても、二大政党制のアメリカでは、また、民主党の大統領は誕生する。そうなれば、まだ若いオバマ政権の経験者たちが、民主党の大物になっていく。

レームダックと言う記事に立脚して、人との関係を変化させることは、非常に短絡的で、ある意味、情けない。まったくもって戦略的視点に欠けている。

自民党政権の長い日本から見ると、政権交代を前提とするアメリカ政治は理解しがたいことはわかるが、この態度は、あまり得策であるとは思えない。とりわけ、アメリカの場合は、常に、民主、共和党の両党との政権交代に惑わされないバランスがとれた関係構築が必要になる。

次の大統領選挙で共和党が勝利したとしても、歴史的に見ると、長くても12年後には民主党は大統領になる。2016年かもしれないが、それ以降かもしれないが、とにかく民主党が大統領をとれば、オバマ政権の高官だけではなく、今、若手と呼ばれるスタッフ、民主党の中心になっていく。

日本は、歴史的に、民主党の大統領の人脈につながることは難しかった。だが、レームダックの「今こそ」チャンスなのである。政権の人々も次のチャンスを探し始めている。レームダックは、大統領にとっても議員にとっても、そして日本にとっても、チャンスの宝庫という一面を持っている。